第254話 筋違いかもしれないが
「それならいっそ、これまでのゲームの結果を破棄して、一発勝負、サイコロの目が大きい方の勝ちなんていうのもあり? 公平になる」
言うに事欠いて、厚かましい提案をしてきたな。私は「いや、だめに決まってる」と即答した。
「サイコロの出目をコントロールする力は、私の方が圧倒的に劣る。つまりこちらに不利だよ。大体これまでの結果を無に帰するようなルール変更は釈然としないな」
「ま、そうよね。学校の先生が子供を相手に、最後さえ勝てばいいゲームなんてさせられないでしょうね」
拒まれるのは想定内だという風に幾度かうなずく神内。にしても、教師と子供達になぞらえなくてもよかろう。
「ではこういうのはいかが? 最終セットでは筒を使ってサイコロを振るのよね。私は一度に六個のサイコロをまとめて振る。それらの出目が重なった時点でアウトと見なしてくれてかまわない。代わりに、出目が重なっていなかったら、一回につき2ポイントのボーナスをちょうだい。あと、あなた側が机にタッチして邪魔する権利はなしにして欲しいのだけれど。難度が高いんだから」
多少、複雑なことを言われた気がしたので、文字に書いてから考えてみた。
サイコロ六個を振って、出目が重ならない、だと? 一つのサイコロを六回連続で振って出目が重ならないのと同程度に難しいんじゃないか?
そもそも一度の振りでサイコロが1~6の目全てを出したら、二投目はどうなる? 何がどう出ようが絶対に同じ目が出る。そこでおしまいじゃないか。
「よく分からないところだらけなんだが」
ルールに不備が生じるのではないかという旨を私は指摘した。対する神内はこれまた予想の範疇にあったらしく、
「筒があるからできることもあるでしょ」
と当然のように返事した。
「筒だからこそ、か……」
相手の提案したルールと言葉をよく咀嚼し、考える。程なくして答は出た。
「まさか、サイコロを重ねるということか!」
「はい、その通り。これくらい厳しい条件を課さないと、あなたは承知してくれそうにないから」
「机を押してぐらつかせる権利をなしにしてくれという意味はよく分かった。ぐらつかせたらそれだけでサイコロのタワーは崩れ、台無しに終わるだろう」
そこは認めてやってもいい。
「毎回六つのサイコロを重ねるだけでも至難の業だろうに、さらに六投する間、一番上のサイコロの目が被ることなく1~6を出すってことかい? 信じられないほど難業だと思うが。ああ、練習で六度、振らせてくれって言うんだろう? そんなのは認められないな」
一度投げ方を覚えればそのときの目を出せるらしいからな、この神様は。六度の練習でそんなに都合よく1から6の目がずらりと出揃うとは考えにくいが、ここは却下だ。
「六度とは言わないわ。一回だけ。いいでしょ、お願い」
両手を拝み合わせてきた神内。ふと見ると、爪のマニキュアが水玉模様になっている。ターコイズブルーが剥がれたのでデザインを変えたのだろうか。
「私の方はこの難度で六回連続で成功しても2×6で12ポイントプラスされるだけ。あなたはB.シューターが失敗するのを七投目と予想しておけば、10ポイントボーナスは差し引きゼロ。現在の差が8ポイントだから、4ポイント差で私が逆転。でもあなたにはチャレンジャー役とシューター役で6ポイントは加点するチャンスがまだ残っている。公平に近いと思わないかしら」
「……いや。その口車には乗らない」
「口車だなんて人聞き、いえ、神聞きの悪い」
何でもかんでも「人」と「神」とを入れ替えればいいってものじゃない。そこは人聞きのままでいいだろ、と思ったのだが教え子でもない神内を相手にいちいち指摘するのは面倒臭いので放っておく。
「6ポイントの加点と簡単に言うが、実際には大変なことだ。AとCを当てるのは完全に偶然頼みだから、地力で狙えるのは4ポイント。その4ポイントだって獲得するのは難しい。それに」
私は改めて神内を睨め付けた。敢えて丁寧な言葉遣いで聞いてやる。
「神内さん。あなたはさっき、また私をミスリードしようとしませんでしたか?」
「何のことかしら」
「シューターが何投目で失敗するか、ですよ。“七投目で失敗”に賭けさせておいて、六投目でわざと失敗するつもりなのでは?」
「そんな真似をして私に何かメリットがある?」
「もちろん。五投目まで成功していたなら、まずルール変更によるボーナスが10ポイント。その上、元々のルールにある通り、三投目から五投目まで成功したことで得られる3ポイントを上積みしなくちゃいけない。合計13ポイントだ。逆に私はBを外すことになるから、得られる機会のある6ポイントの内の1ポイントを早々に手放す羽目に陥るわけだ。いやはや、巧妙です」
神内がやったことはギャンブル中の駆け引きであり、こっちは怒ってもしょうがない。むしろ気付いたことを黙っておいて、Bの予想を6としておけば神内を逆に出し抜けたかもしれない。
つづく
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