第134話 違和感に留意しつつ
そして迎えた決勝戦。天瀬らの相手は、一回戦で天瀬、棚倉、君津のチームを破った後藤達男子チーム。天瀬の側からすればリベンジの機会到来ってわけだ。
「天瀬、返り討ちにしてやるぞ!」
と、相手チーム、特に砂田がやる気満々。
「女子を呼び捨てにするのは許せないな」
長谷井が格好付けて言ったのに続けて、天瀬がにんまり笑顔を作ったかと思ったら、
「役の強さの順番、ちゃんと覚えた?」
というなかなかの挑発っぷり。否応なしに盛り上がってきた。この雰囲気に比較的クールで落ち着いてるタイプの堂園も感化されたか、六谷に向けて、
「ゲームの発案者が優勝しちゃまずいんじゃないか?」
と呼び掛ける。どうやら動揺を誘う心理作戦に出たようだ。これに後藤も追随し、「そうだそうだ。秘密の必勝法とかあったりして?」と“口撃”を加える。
大人しめの六谷だが、動じることなく反応を見せる。それも彼のキャラからは大きく懸け離れた啖呵を切った。
「そんなの関係ねえ! あなたとは違うんですってところ見せつけてやる!」
真面目で固い殻を破ったかのような六谷の変化に、見ている他の子達まで盛り上がって、応援を始めた。もちろん、六谷・天瀬・長谷井のチームにだけでなく、後藤らのチームへも声援が上がる。クラスをほとんど二分している感じだ。
決勝を裁くのは私の役目だ。間違っても天瀬のチームを有利にするようなことのないようにと、公明正大を念頭に置いて臨む。
ただ……さっきの戦いの前のやり取りを聞いている内に、何とも言えない違和感を覚えたことも、頭の片隅に刻んでおいた。
第一戦の先手番を取ったのは、男子チーム。思えば、天瀬のいるチームが初戦で後手になるのは初めてのような気がする。
以下、結果を知ったあと、振り返る形で勝負の経過を書きとどめてみる。
決勝は、さっきまでの盛り上がりに比べれば、静かな立ち上がりとなった。というのも、両チームともそれなりに強い手が揃ったからだ。このような戦いになると、四枚めくれる後手番の方が若干有利になるのが道理というもの。後藤の手札二枚をめくってAのペアが現れ、堂園の手札二枚をめくって揃ってダイヤだった。さらに天瀬自身の手札にAが一枚、長谷井の手札にジョーカーがあったことから、後藤の手札は強くてもエース三枚のフルハウス、堂園の手札はダイヤのストレートフラッシュの目は残しつつも、フラッシュと読む。
男子チームはトーナメント一回戦の印象を頼りとしたか、天瀬が強い札を持っていると踏んで、めくる権利を三枚とも彼女の手札に費やすも、現れたのはA、J、7でマークもばらばら。当てが外れた形だが、チーム最弱のワンペアを当てる。しかし天瀬の手がJと7のツーペアだったため、先制したのは天瀬達。続けて、長谷井がジョーカー込みのキングのフォーカードを、後藤の手にぶつける。読み通り、後藤の手札はフルハウスで勝負あり。
幸先のよいスタートを切った天瀬チームだったが、第二戦では一転してカード運から見放される。マーク的にも数字的にもつながりのとぼしいペアばかりができるという、麻雀で言うところの
一対一で迎える三戦目は、後藤チームが仕掛けてきた。堂園以外の二人がノーチェンジで、堂園自身は上限いっぱいの四枚を交換。果たしてこれがはったりなのか、後藤と砂田それぞれの手札が端から強い役なのか。前に長谷井が同じようにノーチェンジを仕掛けたときは、手札そのものを仲間に見せることなく伏せたが、今回は後藤も砂田も手札を堂園にしっかり示している。もちろん、ノーチェンジを宣言する前に見せるのは反則なので、カード交換しないという選択自体は後藤と砂田それぞれの判断、もしくはチームとして始めから決めていた作戦に違いないのだが。
これに戸惑わされた天瀬らのチームは、四枚めくりの権利を後藤に集中させて、彼がQのフォーカードだったことを看破できたものの、これにより同じく交換なしだった砂田の手札も相当に強い役であると想像され、動きが取れなくなった。終始相手にペースを握られた格好になり、この回も惨敗。全体でも形勢を逆転されてしまった。
四回戦。今度は追い詰められた天瀬サイドが工夫してきた。ロイヤルストレートフラッシュ崩れのフラッシュと、ストレート崩れのノーペアを作っておとりにした。この回、後手番で四枚めくれる後藤チームからすれば、偽装された手札のどちらか一つを集中してめくれば、確実に嘘を見破れるのだが、彼らは二枚ずつに分散してめくる作戦を採ったため、最後までだまされることになる。2-1のスコアながら、第四戦は天瀬達が取って巻き返す。
決勝の戦い模様はこうしてファイナルにふさわしい、作戦を尽くした攻防の末に第五回戦までもつれ込むことになった。
つづく
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