第133話 本当とは違う強弱

 そこで二回戦からは私だけじゃなく、負けが決まった児童も審判をやろうという話になった。幸い、トランプは複数組あるので、同時に数試合を進行できる。六試合立て続けに裁いてきた私は、しばらく休憩することに。

 といっても、横になって休むわけではもちろんないから、どれかを観戦しようとなる。当然、天瀬と長谷井のいるチームに注目。まだ試合前で、六谷を加えた三人による作戦会議のひそひそ話が聞こえて来た。どうやら各自に配られた札をチェンジする際、いかなる方針で臨むかを決めようという腹らしい。

「絵札とエース、ジョーカーは残す」

「同じ数が二枚以上あれば残す」

「マークは同じ物が三枚以上あれば残す。二枚以下なら赤色を残す」

「マークが同じで数字が連続していたらなるべく残す」

「強い役が完成していたら当然そのまま残す」

 色んな指針が出されたが、全て守っていたら捨てる物がほとんどなくなりそうだ。

 そして迎えた二回戦。組み合わせは改めて抽選し、女子三人――寺戸と野々山、それに柚木ゆずきかえでのチームと当たった。

 初戦、先手番を取った天瀬達が新たに追加されたルールをどう使うかに注目していたら、一つの手札を集中的に開ける作戦を採った。それがストレートフラッシュであることはほぼ確定。そこで、自陣で一番弱い2のワンペアを当てる。

 一方の女子チームは三つの手を一枚ずつ指定して開けさせてから、四枚目の権利を天瀬の手札に行使したが、役の強さを判断するには足りず。ストレートフラッシュで勝ったものの、残りを二連敗して落とす。

 寺戸らが先手となった二戦目は、つい先ほどやられた作戦をやり返してきた。が、運悪く、開いたカードはバラバラでノーペアからスリーカードまで考えられる有様。新ルールの下では、二枚ぐらいめくった時点でこの手は強くないなと判断し、他の手札に目を移すことも必要なようだ。

 天瀬達のチームは同じ集中砲火策を採り、長谷井の勘が冴えてK三枚を開けさせた。自分達の手札にKが一枚、ジョーカーが一枚あるため、どうやらフルハウスが濃厚。A三枚を含むフルハウスで応戦し、これを取る。天瀬達の二連勝。

 あとのなくなった寺戸達は三戦目、少し工夫してきた。結果が出てから分かったことだが、めくられることで読まれやすいフラッシュを避け、フルハウス一つに、ツーペア二つという手札を作っていた。これはある程度功を奏し、ツーペアをフルハウスと誤解した天瀬らは、自陣最弱のノーペアをツーペアにぶつけ、さらに敵のフルハウスでも取られたため、黒星。

 第四戦。ここで長谷井が奇策に出た。奇策と言っても、チェンジなしという、通常のポーカーではそれほど珍しくはない戦法の一つ。手札を強く見せるために、複数回勝負にたまに混ぜれば効果的な作戦だと言えよう。

 これが、3vs3ポーカーでは皆、チェンジを当たり前のように行ってきたため、ノーチェンジは新鮮に映った。そのまま長谷井が手札を伏せたこともあり、寺戸達女子チームは完全に引っ掛かってしまった。

 天瀬と六谷は当然チェンジを行い、なおかつ二人の間でカードをやり取りして役を作る。女子チームは三枚めくる権利を天瀬と六谷にどう分配するかで少し相談し、六谷の手札を三枚めくった。これがハートの6~8とストレートフラッシュを思わせる並び。相対的に、天瀬のカードがチーム内で一番弱いように見える。このような流れを経て、先手番である寺戸達は、長谷井の手にノーペアを当てた。が、開かれた長谷井の手札はAのワンペア。寺戸のチームにとってこの負けは織り込み済みだが、まさかチェンジしなかった長谷井が単なるワンペアなんて……と動揺が走る。続いて四枚開けでストレートフラッシュの可能性のある柚木の手札に、六谷の手札をぶつける。これはともにフラッシュで、Aを含んでいた柚木の勝ち。強い役と思っていた六谷が単なるフラッシュと分かり、寺戸ら三名はますます混乱し、「えー?」「何これ」「どうなってんの」とわけが分からない様子。

 そして三組目の対戦は、野々山のフルハウスに天瀬が4のフォーカードで快勝。全体で三勝を挙げた天瀬達が準決勝戦進出となった。

「長谷井君、性格わるーい」

 けりがついたあと、文句を言う野々山と寺戸。長谷井は涼しい顔で、「勝負師と言ってほしい」と来たもんだ。実際、ノーペアを天瀬の手札に当てられていたら、結果は逆になり、第五戦に持ち込まれていた。天瀬の手を弱く見せる博打に成功したことになる。

「狙い通りに行って、ちょー気持ちいい」

 六谷も珍しくはしゃいでいる。流行語を口にするタイプとは思っていなかったが、よほど嬉しかったと見える。

 天瀬と長谷井も、六谷の喜びっぷりに驚いたのか、顔を見合わせて目をぱちぱちさせている。長谷井に至っては小首を傾げさえした。おいおい、その反応はちょっと行き過ぎだろう。


 とにもかくにも、天瀬達のチームはこの快勝劇で調子の波に乗ったらしく、続いて準決勝、同じ敗者復活組で勝ち上がった織本、棚倉、元松薫子もとまつかおるこの混成チームに、三連勝と圧倒。事前の私の予想では、論理的思考に秀でた棚倉のいるチームは手強く、苦戦は必至と思っていたのだが、天瀬達の方が運も味方に付けた勝ち上がりだった。


 つづく

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