第102話 十五年後と勘違い
翌日から二日間、学校はなかった。けれども、土曜日は修学旅行に関する打ち合わせで六年生担当の教師は学校の体育館に集まり、日曜日は三森刑事の訪問を受けた。
前者については、付き添いで行く管理職が、正式に校長先生に決まったとの話が出た。元々予定されていた弁野教頭は、回復しつつあるものの十全ではないため、辞退の申し出があったとのことだった。これは……いい方向に進んでいるとみていいのだろうか。成り行きを見守るしかない。
他には安全対策の話も議題に上がった。というか土曜にわざわざ集まったのは、これが本題なのである。
「班単位での自由行動のシーンが多いのは、やはり不安ですわ」
湯村先生が割と強めに主張した。お子さんがいてもおかしくない年代だけに、ひときわ神経質になっているのかもしれない。
「人数を増やすのはどうだろうか」
「班単位だと最少で四人。これをふた班ずつにすれば、少なくとも八人になります」
「なるほど。八人の集団にちょっかいを出そうとする輩は、まずはいない気がしますな」
伊知川校長は肯定的な返事をした。それに即座に同調したのが、一組担任の
「最善ではないかもしれませんが、いいと思いますね。最悪でも、八人いれば助けを呼べるでしょうから」
彼女は眼鏡の位置を直しながらそう付け足した。うーん、結構怖い状況なのにさらっと言ってくれる。
そのことに反発を覚えたというわけじゃないけれども、私は遠慮がちに挙手して発言の機会を求めた。
「あの」
「何でしょう?」
人数を増やす案を出した連城先生に向けて言ったつもりだったのに、田山先生が反応してしまった。うーん、年上の教師二人を相手にするのは厳しいかも。
「人数を多くしたからって安全性が高まるとは、一概には言えないんじゃないかと」
「というと?」
連城先生が反応した。目が小さい人なので、表情を読みづらいのだが、多少むっときてる?
こちらとしては、場の空気が悪くならないような言い方を考えるも、思い浮かばない。とりあえずは、異論の主旨を表明しとこう。
「悪いことする奴は、どんなことがあってもしでかすものだと思うんです。現に、五月の末頃にバスを待っていた小学生――」
言い掛けて、はっと気付き、声を途切れさせる。
今、私は十五年後の事柄に基づいた話をしようとしていた。K市の路上で起きた凄惨な事件だ。スクールバスを待っていた児童の列を刃物を持った男が襲った。六年生女児と保護者男性の二名が亡くなり、多数の怪我人が出た。犯人は自ら首を刃物で切り、死亡。動機は明らかになっていない。
あの事件で、自爆テロめいた犯罪行為には、それなりの多人数であっても防げない。それどころか、大人が付いていてもほぼ無力だと分かってしまった。本職のボディガードが複数名いれば守れるかもしれないが、費用面で現実的でない。
あの事例があれば納得してもらうのは容易いと思ったのだが、それ以前に、とんだ勇み足になりかねない。
つづく
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