善意の婚約破棄

空のかけら

善意の婚約破棄

「ルーク。あなたは、サリーとの婚約を破棄した方がいいの」


そんな言葉を放ったのは、エリーが卒業パーティーが始まった直後のこと。


ルークとカルデアの親密さは度を超えていて、婚約者であるサリーとはあまり仲が良くない。

カルデアが、そんなサリーを断罪して婚約を破棄させようという話が進んでいた。


しかし、その先手を打ってしまったのが、我が婚約者。

昔から、俺の“いい人”探しをしていたのに、いつの間にか“善意の婚約壊し屋”と呼ばれるようになった。


同級生など、女子の全員に俺のいい人…婚約者になってと言う。

それだけではなく、婚約者がいる場合は「私は身を引くから、あなたの婚約は壊してあげる」という。


うまくいっている2人に対しては、それをたしなめて、この人は私には釣り合いが取れないからと言っている。

ところが、うまくいっていない人やおかしな行動をしている人の場合は、“善意の婚約壊し屋”として本領が発揮される。


そこに持ってきて、今回の婚約破棄だ。


「サリーは、あなたの行動が怪しいと感じていて、いつも取り巻きや護衛と一緒に行動していました」


エリーはそう言うと、ルークの顔がこわばった感じがした。

すると、カルデアが被害者面をして…


「ルーク、だまされないでサリーが一人になった昨日の夕方、私が突き落とされてケガをしたのよ」


カルデアは、腕を少しまくり上げて痣になっているところを見せた。


「えっと、それはあなたが中々動かないから私が落としてあげたの。期待していたのにもっと積極的にルークを落とさないとダメよ」

「え?サリーが…え??」


断罪劇なのに、ルークの発言権はないらしく、エリーが爆弾を落とした。


「それにね。ルークはバカだと思うの。サリーは、ルークには似合わない。だから、さっさと婚約破棄をして、私と一応の婚約をしているアーサーと婚約すればいいと思うの。私は、いつでも婚約を破棄してもいいから」


その言葉に、ルークだけではなくサリーもカルデアも何も言えなくなる。


「私の善意の行動を無にしないように、ルーク。サリーと婚約破棄をして。サリーはアーサーと婚約するから…痛ったーい」


そんなエリーの頭をげんこつを落とすと、


「毎回の事ながら、我が婚約者が申し訳ない。皆さまにも、毎回のようにとんでもない行動になったことを謝罪します」


そう言うと、まだ話したりない様子のエリーを引きずってパーティ会場から連れ出した。


*

カルデア主催(?)の断罪劇は起こらず、結局のところルークとサリーの婚約は破棄されることがなくなったのは、“善意の婚約破棄”で互いの過ちに気がついたのだろう。


そして、“善意の婚約壊し屋”は、婚約者を持つ女性に取ってみれば、婚約を再考させるという逆の効果を発していた。

エリーの行動が、とんでもないことであっても、両家からは感謝されるというおかしな状況が生まれるから。


今日も、婚約を壊すような行動をして、婚約を強固にするという善意は、発揮されている。

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善意の婚約破棄 空のかけら @s-kakera

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