第51話

 きっと、誰も知らない。

 亞紋達が乗っている大きなミサイルを、写真に撮った少女がいたなんて。


「すごい。UFOかな……?」


 展望台。傷だらけの手首。リストバンド。自転車。

 四葉白亞は空を見上げるのをやめて、携帯をポケットにしまった。





「だまれぇエエエエエエ!! コール、マツリカァ!」



 亞紋の言葉が頭に来たようだ。乙廼華は激高、マツリカを呼び出し、小槌を振るわせる。すると乙廼華の下半身が溶けて、真下にあったミサイルに埋め込まれたではないか。

 マツリカはさらに小槌を振るう。すると追従していた二つのミサイルが、乙廼華が融合したものに重なり、さらに結合される。上に一本、下に二本。三角形の並びになった。

 最後にジョーカーがミサイルの中に溶けていき、融合は完成する。


「レディの体に乗るなんて、礼儀のなっていない子!」

「うわぁああ!」


 乙廼華が体を思い切り振ると、ミサイルの上に立っていた亞紋達は振り落とされ、空中に放り出されてしまう。青空が視界に広がり、一瞬訳が分からなくなるが、すぐにフィリアが風の魔法で亞紋とモネの体をコントロールしてくれた。それだけでなく、空中に放り出されていたシュバルツも回収。亞紋はモネを携帯に戻し、武器を受け取る。


「では、お先に! クカカカカカ!」


 乙廼華は三つのミサイル内部にあるジェットエンジンを魔法で強化。

 凄まじいスピードで亞紋達をおきざりにして、飛行していく。

 亞紋は乙廼華を追わず、携帯をジッと見つめていた。

 一つ、キングたちの間で決めていた作戦がある。そもそも、いくらゲーム通りではないにせよ、ステータスの問題はある。乙廼華はゴールドランクの武器しか持っておらず、従者のランクも低めである。その状態でキング達を相手に――、ましてやレインボーランクを持っている亞紋を相手にしなければならないのだ。

 向こうもそれを危惧し、何か奥の手を用意しているのではないか?

 それが赤石の考えだった。結果的に今、乙廼華はそれを使用したわけだ。魔力を持っている自分とミサイルと融合させ、性能を引き上げる。


「だが、切り札は僕らの手の中にも――ッ!」


 亞紋は各キング達に一勢通話で連絡を入れる。これもはじめは赤石の提案だった。


『あと、もう一ついいかな? 実はちょっと考えてることがあって――』


 亞紋達がまだファミレスにいた時、赤石は四人のキングの力を合わせて発動する『切り札』システムを提案してきた。トランプは全てのカードが揃っていなければ意味を成さない。国も同じだ。上に立つ者も重要だが、一番はそこに生きる人達ではないのか?

 その点を蔑ろにしたからこそ、赤石は兄が失敗したと思っている。

 力を貸してくれるのは相応の理由があるからだ。赤石は、どうしても独裁とは違う『協力』を形にしたくて、亞紋たちに提案を行ったのだ。



「みんな! お願い!」


 亞紋の言葉を受けて、体人達は携帯を操作し、『アイテム』のページを表示する。

 貴重品の欄に、『魔石』と書かれた部分があった。それをタップすると、『アイテムを送りますか?』と表示される。一番初めに『はい』をタップしたのは体人だった。


「王の前にひれ伏せ、飯島ァ。テメェとオレじゃ、ハートのレベルが違う!」


 すると体人の持っている携帯から、キングのカードが剥がれて消えた。


「飯島さん。王手だ! 貴女では、俺の意思ダイヤは砕けない!」


 次は赤石だ。同じように携帯から、キングが分離して消滅する。


「チェックメイト、飯島乙廼華。ボクのスペードが、貴女の野望を否定します」


 最後は錬。彼の携帯からもキングが消えた。では三枚のキングはどこへ? 答えは、亞紋のもとだ。亞紋の携帯にも同じことが起こり、四種類のキングが手札となる。


「コール! モネ、雫奈、ペティ!」


 亞紋は全ての従者を召喚する。皆フィリアの風で宙に浮き、亞紋の傍に集まった。


「モネ、いける?」「任せて! お兄ちゃんっ!」


 カードが消え、スートの形をした魔石だけが残る。

 これが赤石の狙い。様々な機能を持つ携帯を動かす魔力の源、それがスートの魔石だ。凄まじい魔力が込められた石を、どうにかして使えないかと思った。

 だから赤石はベルンに頼み、モネにコンタクトを取ってもらっていた。


「お兄ちゃんと別れた後ね、お家に帰ったの」


 モネは自慢げに笑い、四つの魔石を受け取る。


「わたしねっ、実はとっても凄い力を持ってたみたい! 魔石の力を引き出せるの!」

「ハハ……、何となく知ってる」


 モネは星詠みの里の出身。魔石を発掘し、生成できる貴重な存在だった。


「魔石の声が聴こえるの。星がわたしに教えてくれる」


 モネが魔石をギュッと握り締めると、手から光が漏れた。

 掌を広げると、魔石がモネの意思で浮遊し、強く光り輝く。


「魔石は魔力の塊ッ。わたしがそれをエネルギーに変える!」


 モネの掌に広がる魔法陣。すると各スートの魔石が、文字通り光の塊になった。四つのマークはそのまま従者のもとへ飛んでいく。

 赤いダイヤはペティ。青いスペードは雫奈。緑のクラブはフィリ――


「モネちゃんにあげますよ。亞紋くんと一緒のスートの方がいいでしょう?」

「ほ、本当!? ありがとうフィリアお姉ちゃん!」

「うふふふ! ラブリィなハートも悪くありませんからね」


 こうしてフィリアにはマゼンタのハートが。モネにはクラブの光が与えられ、肉体に吸収されていく。


「わたしが変換させたエネルギーをお姉ちゃん達に分け与える。これが、わたしが望んだ魔法の形ッ! みんながお兄ちゃんの力になれる!」


 モネ達の体から光が溢れる。それに呼応するように亞紋の携帯の画面が光った。

 従者のページ。そこに並ぶモネ達のランクが、ゴールドに染まる。


「ハァアアアアアアア!!」


 モネの雄たけびで光が弾けた。

 皆、その服装が変わっている。モネは煌びやかなお姫様のようなドレスに。雫奈は羽衣を纏い、乙姫を髣髴とさせる天女のような格好に。ペティはドラゴンの刺繍が目立つチャイナドレスに。フィリアはアラビアンテイストな踊り子のような格好に。

 オーバードライブのシステムと同じだ。あれは携帯が光になってマスターの体に入っていくが、要するに携帯裏の魔石をエネルギーに変えて取り込んでいるのだ。

 そのおかげで大技が撃てる。それを応用して、モネは仲間達をパワーアップさせた。

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