第50話
腕を伸ばす。するとカラスの嘴から光の矢が発射された。
しかし亞紋もシュバルツを出現させると、思い切り身を屈める。脳天スレスレを通り抜ける弓矢。回避は成功、ならば反撃だ。立ち上がりざまに引き金を引くと、グリップから吸収された魔力が銃弾に変化して発射される。
だが乙廼華は腕を前に出す。そこに張り付くカラスが翼を巨大化させて、盾にした。
ガンガンと硬いものがぶつかり合う音が響き、そこへ乙廼華の笑い声が混じる。
「コール! ペティ!」「ほいほーい」
亞紋の携帯からペティが飛び出し、すかさず飛び蹴りでカラスの翼を打った。
衝撃で後退していく乙廼華。亞紋達は床を蹴ると、距離を詰めようと試みる。
「僕は右から!」「んじゃま、アタシ左で」
通路からシートの方へ身を乗り出し、椅子を乗り越えながら前に進んでいく。
しかしその時だ。乙廼華が腕を横へと向けると、カラスの嘴からレーザービームが発射されて、ジェット機の壁を破壊。大きな穴を開けると、気圧差で亞紋とペティは機外へ吸い出されていった。
「のわわー。まじやばー」
空へ放り出されたペティは、やる気の無い声をあげながら飛んでいく。
亞紋はすぐにレスト機能を発動して携帯の中にペティを戻すが、そこで見た。真下に通過していく巨大化したミサイル。一機を先頭に、二機が追従している。
合計三機。あんなものが原子力発電所に当たればとんでもない事になる。
「やらせるか! コール! フィリア!」
フワリと体が軽くなった。呼吸も問題ない。
気圧差や体感温度も地上にいる時と変わらない状態となる。
それは隣に出現した風を操るフィリアのおかげだ。二人はそのまま先頭を飛んでいたミサイルの上に着地する。
「ありがとうフィリアさん。助かります」
「まあ本当ですか? では後ほど、ご褒美のキスを希望します!」
亞紋はどうしていいか分からずに赤くなって固まる。
しかし、すぐに真面目な顔に戻った。ミサイルの上に乙廼華が着地してきたのだ。
「おモテになるのね。女の子たくさん。でもいいのよ。それは日本では少しおかしいことかもしれないけど、世界で見ればおかしなことではないからね。だから人を殺すこともね、おかしな事ではないの。少しだけ世界は昔に戻るわ。人が人をたくさん殺していた時代に少しだけタイムスリップ。この不思議な時代、不思議じゃないから」
乙廼華の武器、ブラックフェザーのスキルはマイウェイ。効果は『どんな状況』でもいつもどおりになる。
水の中でも息ができるようになった。こんな場所でも普通に歩ける、息ができる。
だから飛行中のミサイルの上でも問題ない。
「こんなパーフェクトな力を、思う存分使えるようになるなんて。考えただけでも高揚します。カカカカカ!!」
「本当にそうですか? コール、モネ」
フィリアには後ろへ下がっていてもらい、モネを武器と融合させる。
ゲルブクイーン。大剣を片手にして、亞紋はゆっくりと乙廼華へと近づいていく。
「貴女は怖いからという理由でドゥームズデイを起こし、郡冶さんを裏切った」
でもそれはK・Fでも同じではないのか?
「確かに貴女はジョーカーの力で世界を操ることが出来るかもしれない。でも僕らの世界は支配力を除けば、すべて向こうの世界に負けている。それは技術力も同じです。マキナロイドという種族がいるように、K・Fは科学力も発達しています。だからジョーカーを解析して、それを上回るものを作るかもしれない」
「ッ、で、でも私の頭の中には世界の理論。アカシックレコードが――ッ」
「ある日、突然、消えるかもしれない。郡冶さんだって今はもう……」
「あれは魔王と融合した影響では――? え? 違う?」
「僕には分かりません。貴女にも分からない。それに支配力にも影響があるようですね、貴女はまだ全て従者を操れるわけではない。それは今後も永遠にという可能性が――」
乙廼華は青ざめながらビームを連射する。亞紋は全速力で前進、迫る攻撃を刃で打ち砕き、直撃しても歯を食いしばって前に進んでいく。
だが乙廼華も近づけさせてはくれない。後ろへ跳ぶと、腕についていたカラスが翼を羽ばたかせた。すると無数の黒い羽が亞紋に向かって飛んでいく。
羽は一つ一つがカッターになっていた。亞紋はそれを見ると、持っていた大剣を右へ投げる。黒い羽はすべて亞紋に突き刺さるが、同じくして武器の融合が解除された。
モネはフィリアが与えた風を身にまとい、宙を舞っていた。手にしているのは亞紋から譲り受けていた
嘴部分を破壊してもまだ弾丸は突き進み、カラスをバラバラに粉砕していく。
地面に落ちた武器を見て、乙廼華は青ざめた。さらに亞紋は言葉をぶつけていく。
「郡冶さんも貴女も、ましてや僕らもッ、向こうの世界をまだ完璧に理解していない!」
マナの鎧が厚いため刺さりは甘かった。亞紋は体に刺さった羽を抜きながら叫ぶ。
「怖いから消す。そんな考えじゃ、無限の可能性を持つK・Fでは生きられませんよ!」
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