第48話

「あぶねぇ! マジで焦った。助かったぜ勇者さま――ッ!」


 体人の前に立っていたのは――、勇者カルマ。

 複雑に表情を歪めていたが、手を出し、体人に差し伸べる。


「悪かったな。少し、頭に血が上ってた」


 すぐには体人を助けず、空中で様子を見ていたが――、改めて思う。


「どうやらおれは、侵略者は向いていないらしい」

「ずっと見てたし知ってるぜ。アンタは人を殺すような人間じゃないってよ」


 カルマは呆れたように首を振る。自分はそう簡単には変えられないものだが……。


「ドゥームズデイで弟が死んだ。まだ4歳だった」

「オレは妹が死んだ。でもそれは世界のせいじゃねぇ。クソッタレ野郎のせいだ」

「分かっていたさ。だがそれでも、おれは怒りを抱かなければならなかった」


 地球のせいですか。そうですか。では終われなかった。同郷の者、家族のためにも。


「むしゃくしゃする時はあるよな。オレもアマだけど、ボクサーのプライドを捨てて素人殴りまくったぜ。でもまあ、それで亞紋に負けたから。たぶんアンタも負けるぜ」


 カルマは体人が何を言いたいのか分かる気がした。憎しみや負の感情を糧にして生きるのは疲弊する。それが間違っていると気づいているなら尚更だ。いつか誰かが自分を負かしてくれるように望んで戦うのは、あまりに後ろ向きが過ぎる。


「真面目すぎんのもつまんねぇけど、やっぱ正しい道を選ぼうとするヤツが勝てるようになってんだよ世界ってのは。そうのがいいよな、勇者様よ」

「かもな。だからおれは宿命を背負う! 力を合わせよう。ハートのキング!」


 体人が頷き、カルマの手を取った時、従者のページが更新された。キャミー、ラミー、アクセル、そして追加されたのは勇者カルマ、そのランクはレインボー。

 一方でビッグマシンは再び動き出し、凄まじい勢いで後退していく。助走を付けて再び突進してくるつもりなのだ。だからこそ体人はカルマをユニオンで武器と融合させた。現れたのは煌びやかなガントレットだ。右腕と、キャミーの義手ひだりうでに覆いかぶさる聖なる手甲。さらに背中に赤いのマントが現れ、融合が完了した。

 体人はすぐに腰を落とし、拳を構える。収束していく光の奔流。


「今日のオレはァッ!」


 まずは向かってきたビッグマシンを右腕のジャブで止める。

 大地を踏み込んだ時――、ガントレットが光り輝き、体人の髪色が金色に染まった。


「100億万パーセントだァアッッ!!」


 渾身のストレートがビッグマシンに直撃した。

 口にしたのは随分と頭の悪い数値だが、体人は本気だった。だからこそビッグマシンは空の彼方まで飛んでいく。

 キランと、瞬く光。するとビッグマシンの破片が飛んできて携帯に吸収された。

 融合を解除すると、カルマはゆっくりと息を吐く。


「やったね体ちゃーん!」「ぎゅーしてっす体くぅーん!」


 姉妹に抱きしめられている中で、体人はカルマに笑みを向ける。


「サンキュー。助かったぜ勇者さま」

「……ああ。おれの刃に不可能はない」

「でもどうして協力してくれたんだ? まさか錬に説得されたワケじゃないよな? つか、もしかしてアイツ既に切り捨てられて!」

「錬? ああ、スペードのキングか。そうだな、彼の言葉も刺さったよ。一旦、従者契約をして、こっちの世界に送ってもらった後に解除した」

「マジで? うっそだぁ。だってアイツ絶対にイカれ――、うっそだぁ!」

「真っ直ぐでいい目をしてた。思わずおれが目を逸らすほど。それと、実はおれの仲間のエミリアが――」


 場面は、赤石の自室に変わる。

 赤石は真横に現れた人物を見て、安堵したような表情を浮かべた。


「カルマは怒りっぽくてアホだけど、人を殺すような人間ではないわ。思いとどまってくれたみたい」


 そう言って、エミリアは唇を吊り上げた。


「よかった。キミが話の通じる人間で」

「それはどうも」


 賢者エミリア。ランクはゴールド。

 彼女は赤石が一番最初の降臨召星で引き当てた従者だった。光の柱を確認できる条件も満たしていたが、なにぶん地球のほうに移動していた為に合流はできなかったのだ。

 勇者の動きを知った赤石は、すぐにエミリアを召喚して事情を説明した。

 郡冶のビデオメッセージを見せたり、乙廼華のことを話したり。その情報を集め、エミリアは赤石たちの方が正しいと確信し、カルマを説得するのを手伝ってくれた。

 そういうカラクリである。


「貴方が粗暴な人間ではないことは、脳内に浮かんだ姿で分かってたし。まあそれにしてもいろんな面でベルンを優遇していたのは少しどうかと思うけれど」

「も、申し訳ない。次からは気をつける……」

「それなら結構。それよりカルマが体人さんと合流したみたい。あっちは大丈夫よ。カルマは強いから」


 確かに、すぐにビッグマシンを撃破したと体人から連絡が入った。


「それより、ミサイルの方は大丈夫なのかしら?」


 幸いにも大型のミサイルにはマツリカの、通常のミサイルにはバリオールの魔力が纏わりついている。赤石はエミリアの『魔力感知魔法』により、携帯にあるマップデーターにマーカーを打ってもらった。

 これにより、ビッグマシンやミサイルの位置がリアルタイムで画面に表示される。

 しかしマップを覗いてみると、点の数がとにかく多い。ミサイル群は日本各地に進路をとり、無差別に着弾するようだ。


「問題ない。俺の従者が全て破壊する」

「ああ。彼ね。なら大丈夫かも」


 ベルンが残りの従者を連れてきてくれた。ゆえに、既に召喚済みである。

 日本列島上空。宇宙と空の狭間に、白と金色の鎧を纏ったドラゴンが浮遊していた。

 輝光帝竜バハムート。牛のような角を光らせると、そらから光が降ってきた。

 メテオレイン。流星群はエミリアがつけたマーカーに吸い寄せられるように飛来していく。光速の星々は、次々にミサイルを貫き、爆発ではなく蒸発させるように消滅させていった。エミリアはターゲットの消失を確認し、引きつった笑みを浮かべる。


「――もう通常のミサイルが全て消えたわ。滅茶苦茶な強さね」

「まあ、約十秒って所か。光の柱を確認できなかったのも太陽の近くを散歩していて、星にいなかったからだとか」


 ただ欠点もある。まずコールしてから召喚されるまでの時間が、他の従者よりも圧倒的に長く、一定時間が経過すると自動的にレストされてしまう。

 おかげで、本命の巨大ミサイルは逃してしまった。残念そうに目を細める赤石を、エミリアは腕を組んで見つめていた。



「ねえ赤石さん。一つ、意地悪な事を聞いてもいいかしら」

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