第43話
光が迸り、三頭身の赤いマキナロイド(ロボット)が姿を見せる。つぶらな瞳で、額にはアルファベットのAを二つくっつけた菱形のエンブレムが輝いていた。耳辺りにはバイクのハンドルがくっついており、踵には小さなタイヤが埋め込まれていた。
「呼ぶのが遅せぇな。ハートのキング!」
従者アクセル。ランクはゴールド。常にセットしていたワケではなく、イベントの際は外すこともあったため、光の柱は確認できなかった。
だが、この三日の間にキャミー達がコンタクトを取っていたようだ。
「協力してくれるか? アクセル」
「グダグダうぜぇな。退屈は嫌いなんだ。さっさと行くぞ」
するとアクセルが変形をはじめ、両踵にあった小さなタイヤが分離して巨大化。両腕で一つ目のタイヤを挟んで前輪に。両足で二つ目のタイヤを挟んで後輪にする。
あっという間にアクセルがミニバイクに変わった。目がライトになっていて、光る。
「乗れ」「おお。ってな訳で、先行くぜ亞紋」
体人はアクセルの
するとタイヤが激しく回転し、体人達は猛スピードで道路を駆けて行った。これは体人が運転しているように見えるが、実際は全てアクセルの意思で走っているだけだ。
体人は移動の間に携帯を睨み、赤石から送られた位置情報を確認する。
「まだ結構離れてるな」「どれくらいだ」「あー、65kmくらい」「10秒でいい」
え? 体人がそう思ったときには、既に周りの景色が『線』に変わっていた。
魔法のシートは、搭乗者に風圧の影響を齎さない。そればかりか飛んでくる虫や、石ころも体に触れるまえに吹き飛ばされていく。ドライビングテクニックも凄まじく、他の車の間の縫うように駆け抜け、時には歩道やガードレールの上も走るが、スピードは緩めないし、何にもぶつからない。
「暇だぜ。しりとりでもするかキング。行くぞ。ライオン。ああぁくそ! 負けた!」
「え? お前マジで何言ってんの? 怖いよ。怖いな」
そこで体人が右斜め上を見ると、ビッグマシンが空を走っているのが見える。
「もう追いついたのかぁ。すごいなぁ」
間抜けな声が出てきた。しかし穏やかな状況ではない。体人に気づいたのか、ビッグマシンは突如ルートを変更。体人から離れるように空を駆けていく。
「まっじぃなッ、アクセル! 追えるか!?」
「は? おいキング、勘弁してくれ。俺を誰だと思ってんだ? 正義のスーパーロボット、音速の貴公子だぞ。あんなウスノロ、止まって見えるぜ」
加速するアクセル。体人をつれてビッグマシンにぴったりと張り付いていく。
そこでついにビッグマシンが地面に着地した。周囲は田んぼで人はいない。しかし伸びるレール、その先には大きな建物が見えた。
「病院だ! クソ! 止めんぞ! アクセル!」
「ッ? どうやって」
「決まってんだろ!」
ビッグマシンは一両編成で、サイズは大型バス程だ。
体人はアクセルを加速させて、ビッグマシンの前に出る。
そしてドリフトで急旋回するとレールの上に降りた。ラミーの義足で踏み込み、そして大きく息を吸ってキャミーの義手で握りこぶしを作る。
「おい、まさか……」「ああ、正面ど真ん中からだよ!!」
渾身のストレートがビッグマシンの車体先端に叩き込まれる。
その衝撃で一瞬止まったかと思ったが――
「あ、やべぇ!!」
ビッグマシンは減速したものの構わず前進。体人は足で土を抉りながら後退していく。
「さ、流石にキツイな!!」「当たり前だろうが! く、クソ! 無茶が過ぎるぜキング!」
アクセルもすぐにバイク形態からロボット形態に戻り、補助に入った。
「ギギギギギ!」
体人とアクセルは両手でビッグマシンを押さえつけるが、止まらない。
マズイかもしれない。体人は汗を浮かべて、思い切り歯を食いしばった。
◆
良い夢を見たあとに目が覚めると、酷くガッカリしてしまう。
まさに今がそうだ。つまらない世界だった。嫌悪感が止まらない。
プライベートジェットの中で乙廼華はワイングラスを見つめていた。窓の外には、まもなく崩壊していく小さな島国が見える。
「はじめまして」
いつの間にか、亞紋が通路に立っていた。
「あら。カカカ……! どこから?」
「空までは従者を使って。壁は――、ほら、僕たくさん武器持ってるんで。壁を超えられるスキルの物があるんです。スパイラルゲイザーっていうんですけど……」
亞紋は乙廼華の向かい側に座る。乙廼華も別に止めはしなかった。
「郡冶さんは貴女に裏切られることを想定し、そちらのジョーカーのパッドにスパイアプリを入れていたみたいです。それで位置が分かりました」
「あら、そうなんですか。全く気づきませんでした。機械には疎くて……」
「ミサイルを止めてください。発射のシーンを見せたり、狙う場所を仄めかしたのは、貴女もまだ迷っているからではないんですか!?」
「カッ、カカカ! まさか。キング達を分断させるためですよ」
乙廼華は笑みを浮かべてワインを飲んでいた。
「飯島さん。貴女はなぜ、この世界を壊そうと?」
「……かつて私は、この国を守るために必死でした」
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