第42話


 とんでもない事になってしまった。拠点にいたモネは、頭を抱えて震え始める。

 しかし画面の向こうが見えた。そこにいた亞紋の目は、全く死んでいなかった。

 いや、そればかりかキング全員、誰も怯えていないじゃないか。


「ポイントは四つ。カルマ、ビッグマシン、ミサイル、そして乙廼華」


 はじめに口を開いたのは亞紋だった。

 危機的な状況なのに、何故か運命を感じてニヤリと笑ってしまう。


「こんな偶然があるか? キングの数と一緒だ!」


 体人は、赤石は、錬は、ニヤリと笑みを返した。

 モネはつくづく思う。それはきっと雫奈たちも同じだろう。

(情けない顔も好きだけど……)

 やっぱり自信に満ちた顔が一番かっこいい。

(この人を好きになってよかった)

 絶対になんとかしてくれるって思えてしまう。

 それはそうか、四人も王様がいるんだから。亞紋は、さらに言葉を続けていく。


「確かに危機的な状況だ。しかしそれは結局、K・Fが絡んだことでしかない」


 どれだけプレイしてきたと思っているのか。ガチ勢をナメてもらっちゃ困るのだ。


「止めよう! 僕達で!」


 亞紋の言葉に体人達は頷き、決意を固める。


『よし! 決まりだ! じゃあまず結束を高める為にあだ名で呼び合わないかい? 小学生の頃とか中学とかさ、あるだろう? 俺は赤石だから、しーちゃんだった!』

『バイ菌ゴミ男です。コミュ障で煙たがられてましたから。あぁぁクソクソクソ!』

「オレ山盛りウンコマン。学校でウンコしてるのバレたから。山盛りウンコマン二号が出てくるまでは孤独だったぜ」

「あ……、僕っ、ないです。友達全然ッ、いなかったんで……。てゅふふ……」


 赤石は天を仰いだ。亞紋だけじゃない筈だ。とても申し訳ない気持ちになったのは。


『うん、よし! この作戦はナシにしよう。永遠に忘れてくれ。いや俺もね、やっぱり止めようかなって思ってたの。いや、本当に、うん。凄い偶然』


 そう言って微笑んだ赤石の笑顔は、とても優しい筈だ。それがとても苦しかった。


『アンタら、大事なところが決まりませんな』

 ペティの声が聞こえてきた。まあ、だが、この方が『らしい』ような気もする。


「しゃァッ、おらぁ! 上等だぜ。まず誰が勇者を止めに行く? オレが行くか?」


『いや、脳筋が勇者様の説得とか不可能でしょう。死ね体人』


「おい、なんでだよ。言い過ぎだろお前。え? 一回まずオレらで喧嘩するか?」


「ちょ、ちょっと二人とも、やめなよ! そんな事してる場合じゃないよ!」


 速攻で仲間割れだが、ここで一つ問題があった。

 赤石は兄からの贈り物でなんとか世界構造を理解する立場にはなった。しかし一朝一夕で物にできるわけがない。つまりまだ不完全な状態だということだ。

 それぞれのキングに贈った魔石も、実はまだ完全じゃないと赤石は言う。


『地球で従者を召喚できるようにはしたけど、でも兄さんが行った異世界へのチケットにはできなかったんだ』


 おまけに魔石は一つ一つ構造が違ってくる。

 そんなものをたった一日で完全に再現するなど不可能だったのだ。


『つまり俺達がK・Fの方に行くのは不可能なんだ。ただ――』


 ひとつだけ魔石の構造を理解できた。それは、スペードである。


「お? つー事は……」

『なんですか、その馬鹿にしたような声色は』


 錬のみが向こう側にいける。勇者の説得役は錬しかいない。


「いや無理だろ。勇者ドン引きだよきっと」

「錬くん、手とか足とかフッ飛ばしたらダメなんだよ……」

『体人さん、亞紋さん、先に刻みますよ』


 そこで携帯の画面がテレビモードに切り替わり、錬が映った。

 冷めた目をしながら、携帯裏のスペードのキングを見せつける。


『あと、もう一ついいかな? 実はちょっと考えてることがあって――』


 赤石はある作戦――、というより提案をもちかける。赤石には赤石なりの考えがある。

 譲れないプライドというのか。郡冶との違いをどうしても出したかったようだ。

 それを聞いてキング達は了承する。だがそれを成功させるには、いずれにせよ勇者やミサイルを何とかしなければならない。


『楽勝ですよ。ボクが戻る前に、地球が滅びてなければいいけど』


 錬の姿が消えた。それを見て、体人が気だるそうに立ち上がる。


「じゃ、ま、あの特急モンスターはオレが止めてやるぜ」


 体人は杖をついてファミレスを出て行った。亞紋は急いで後を追う。


「体人くん! どさくさに紛れてハンバーグのお金払ってないよね!」

「……チッ、気づいてたか」


 そこで亞紋は、体人の杖が地面に落ちているのに気づく。

 体人は既にフレンドスキルでユニオンを使用しており、腕はキャミーの義手、足はラミーの義足になっていた。そこでまた、赤石から連絡が入る。

『俺の従者がビッグマシンを捕捉した。猛スピードでそちらに向かってる。俺は今、自宅にいるんだが、ここからじゃ止められない。体人、追えるか?』


「余裕」


 決してビッグマウスではない。体人は携帯を確認していた。そこには既に従者がセットされており、前回は合流できなかった三体目の仲間もしっかりと表示されている。


「うし! コール、アクセル!」

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