第39話

『赤石、このメッセージを見ているのがお前であってほしいと、私は願っている』


 赤石は一旦家に戻り、メッセージを確認することに。

 映像には自室にて話す郡冶の――、兄の姿があった。


『このアプリを開いたということは、お前の携帯にK・Fで使っていた機能が与えられている筈だ。そうした機能を可能にするのはただの文字列だが――、意味はない。どうか理解してほしい。たとえ同じ文字列を打ち込んだとして、理解していない者では、効果は発揮されない。他世界に至るのは現実ではありえないバグ。つまり魔法なんだ』


 郡冶は動画の中で、他世界の可能性は無限であると説いた。

 現実の世界では説明がつかないことも、K・Fの中では常識かもしれない。それはもはや地球にとってはオーパーツ、人間が触れてはならない神の領域だ。

 郡冶はアプリを開いた者に、ダイヤの魔石が与えられるように細工をしていた。それは郡冶が作った特別なもの。ジョーカーが破壊されても影響を受けず、携帯を動かし続けることが出来る。


『私は、狂うかもしれない。ましてや狂わされるかもしれない。なぜこんなメッセージを残すのか、それは保険だ。単刀直入に言おう――』


 その時、赤石は気づいた。

 このシステムがトランプを模しているのなら、一つ大きな見落としがある。


「ジョーカーは二枚ある!」


 奇しくもその時、郡冶の言葉が重なる。


『私には協力者がいる。ただのスタッフではない。世界の仕組みを理解した者だ』


 むしろ、その人間は郡冶よりも早く幻想世界を見つけていた。

 郡冶は、その人間に言い寄られてゲームを作っただけにしか過ぎない。


『その人物とは――、プレイヤーネーム・マチエール』


 赤石は目を見開き、顎に手を当てる。その名には聞き覚えがあった。


「マチエール……、クラブのランキング一位か!」


 その時、携帯が震える。映像が一旦中断され、ベルンと義乱の顔がアップで映った。


『大変だよう! 赤石ぃ!!』『かなりマズイ事になってるぞ!』


 赤石はコールを発動。部屋の中に従者達を召喚する。

 ベルンはかつてないほどに青ざめており、すぐに事情を説明し始める。


「じッ、実はね! さっきセントラルで――」




 突如魔王が現れた。その事件は衝撃的なものだったが、勇者カルマが倒したとあって、再びセントラルは穏やかさを取り戻していた。

 そのカルマから大切な話があると告げられたのは、つい先ほどの事だった。

 広場に集まる民衆や従者達。彼らが見上げる先にあったのは、王城のバルコニー。

 そこに勇者カルマが立っている。その隣にはピンク色の髪で、キリっとした目つきの少女が腕を組んでいた。

 国王ディセウスの娘であり、賢者として勇者を支えた『エミリア』だ。


「みんな! おれに力を貸してくれ!」


 カルマは強く、それは強く叫んだ。




「おれ達の世界を侵略しようとする異世界、『地球』を滅ぼすんだ!」




 この宣言が、つい先程なされたのだ。赤石は信じられず、震える手でメガネを整えた。


「一体どうして……! 義乱は何か知らないのか?」

「分からん。だが、ヤツは相当怒っているようだったぞ」


 赤石は必死に考える。K・Fでは探しても見つからなかったカルマが、ココに来て積極的な行動を取ってきた。ましてや地球の存在を知っている意味とは、何か。


「マチエールが何かしたのか?」

「ハーレクインがヤツの従者だったと考えるなら、倒した時点で我々の存在が向こうに気づかれたかもしれない」

「あッ! はいはいはい!」


 そこでベルンが背伸びをしながら右手を高くあげる。


「私ねぇ、思ったんだけどねぇ! もしかしたらこうは考えられないかなぁ!」


 ベルンは前のめりになって自論を展開する。


 カルマを探しても見つからなかったのは、文字通り『勇者がK・Fにいなかった』からではないだろうか。

 つまり勇者がその時、地球にいたとしたら――?

 そこで映像が再開する。郡冶は、赤石を指差した。


『これをお前に』


 画面に通知メッセージ、『アイテムが届きました』と出る。

 そしてギフトボックスに一つ、贈り物が追加された。


『それが、アカシックレコードだ。私は私の道をいく。だからお前は、お前の道をいけ』

「兄さん……」

『私は、同じ道を歩めると思ってる。全ては美香のためにな……』


 映像が終わり、赤石はアイテムを受け取る。それは赤いフレームのメガネだった。


「アカシックレコード? 赤石だから? えへへぇ!」

「違うよベルン。アカシックレコードっていうのは、この世の全てが記録されているっていう存在だ。都市伝説の一種だと思っていたけど……」


 それは、もちろんただのメガネではない。

 赤石はそれを具現させて、かけてみると瞳に真理が広がった。

 理解する。このメガネを介せば、兄と同じ『視点』になれるということを。

 つまり世界の仕組みを理解できるということだ。無意味な数式も、全てが意味のあるものに見える。世界の波長、座標、操作と理解。まさにそれは世界の全て。

 あとは一つ。メガネにはちゃんと度が入っていた。赤石の視力に合わせた度数だった。


「……俺は別に、父さん達と、兄さんと一緒に美香を供養していければ、それで良かったんだけどな」


 大きなため息をついて、赤石はメガネを整えた。


「悪いな兄さん。俺は……、美香のためじゃなく、俺のために戦う」


 従者が後ろにいなければ、その台詞は出てこなかっただろう。

 赤石は目を光らせ、パソコンのキーボードを叩き始めた。

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