第37話
赤石が義乱を武器と融合させた刀を持って、空中から降ってくる。
落下の衝撃を利用した振り下ろしは、郡冶の尾に食い込むと豪快に切断してみせた。
攻撃が通用するのは、これらの攻撃が『従者』ではなく、『
ユニオンは、アプリの方では武器と合体したグラフィックを用意できないため、別の効果になっている。この些細な違いこそが、この世界における『バグ』なのだ。
『成る程、デバックは感謝する。すぐに修正しておこう!』
「もうやめてくれ兄さん! 世界を滅ぼすなんて、地球にいる母さん達はどうなる!?」
『家族? 美香が死んだ日に終わったよ! 今の私には血や同情を超えても成しえなければならない復讐がある! 現代世界は悪意に汚染されている! 私は美香のため、全てを葬り去るんだ!』
「美香が滅びを望んでいる訳がないだろ! 怒りの理由を美香になすりつけるな! 美香はもう死んだ! もう何も喋れない!」
『私は信じてる! 美香は滅びを望んでいる! 悲しかったろう、苦しかったろう!』
「俺だって信じてるさ! 兄さんに罪を犯して欲しくはない。
そこで銃声。錬が
『――ッ、お前は世界に最も絶望していたはずだ御剣錬! 弱者は理不尽に虐げられ、外道が得をする世界形態。反吐が出るとは思わないのか!』
「確かにボクらの世界はクソだ。でもボクは英雄にならなくてはいけない。やっぱりそれは叶えたい夢なんだ。あと、そもそもまずお前があまり好きじゃない。白衣っていうのが狙いすぎてて寒い」
まさにその時だった。閃光が空を駆ける。光の雨――、それは無数の剣だ。
光で構成されたエネルギーの剣が無数に降り注ぎ、郡冶の体に突き刺さっていく。
『グッ! ガッッ! な、なんだ!』
郡冶が周囲を探すと、上空に見えた、聖なる鎧に赤いマント。
『まさか、あれは!!』
キング達もそのシルエットを確認した。見間違えるはずもない。
ストーリーを進める上で、プレイヤーの誰もがその成長を確認していく。
勇者――、カルマ。
「グランッ! カリバアアアアアアアアア!!」
カルマが叫び、剣先を天に向かって突き上げると、目を覆うほどの光が刃に収束していく。纏わりついた光は空へ伸びていき、剣のリーチが格段に上昇した。さらにエネルギーの影響で、カルマの赤茶色の髪が金色に染まり、彼はそのまま剣を振りおろす。
『バカな! 何故だ! なぜお前がココに! いやッ、それよりなぜ攻撃が通る!』
「決まっている! 俺の刃に、不可能はない!」
カルマは真っ直ぐに郡冶を睨み、叫ぶ。刃が郡冶の肉体を抉り削っていく。キングたちから上がる歓声。錬と体人は目を輝かせて前のめりになった。
「ゲ、ゲームと同じ台詞! すすすすごい、やっぱり迫力が違うなぁっ! うひひ!」
「見ろよ! グランカリバー! 九章のムービーよりも綺麗だな!」
一方で空中を浮遊していたカルマは振り返り、キングたちを睨んだ。
判断は――、一瞬だった。亞紋はすぐにオーバードライブを使用する。
選択するのは従者が四人揃っている時にしか発動できるものだ。上昇するフィリア、その斜め左右にペティと雫奈が位置を取り、真下にはモネが立つ。
雫奈、ぺティ、フィリアを中心に広がる円形の魔法陣。モネは三角形の魔法陣を展開させる。クラブのマークは棍棒が元となっているが、その形からクローバーともいわれている。まさに今、雫奈達は三葉を作り、モネは茎となり、クラブマークが完成する。
さらに一瞬だけ浮かび上がるマーク。雫奈は『J』、ペティは『A』、フィリアは『X』、そしてモネからは『Q』の文字が。
そして『K』の文字が浮かび上がった亞紋は、跳躍すると、クローバーの中心に二つの銃口を向けて引き金をひいた。
「ロイヤルストレートッ! フラッシュ!!」
二つの銃口から、黒いレーザービームが発射される。
さらにそれがクローバー型の魔法陣の中央部分を通り抜けると、地水火風のエネルギーが同じくして発射された。黄、青、赤、緑、合計五本のレーザーが螺旋状に飛んでいき、郡冶へ直撃する。
叫び声があがる。そして大きく怯んだことで生まれた隙。勇者カルマはさらに力を込め、光の聖剣を郡冶の肉体深くへ突き進めた。
『ガアアアアアアアアアアアア!!』
光が闇を塗りつぶす。郡冶の体を覆いつくす光。
それは魔王を、そしてその中にあったタブレットを焼き尽くした。
「ぐッ! あぁぁ!」
融合が解除され、郡冶は地面を転がっていく。
そこで気づく。既に郡冶の手が透け始めた。ジョーカーパッドの中にある構築プログラムが破壊されて、世界の情報が乱れていく。
それは四人のキングと一人のジョーカーを留めておくのに必要なプログラムだった。
「何故……! 何故だ! 何が起こって――」
郡冶が悔しげに地面を殴りつけた時、そのまま体が粒子化して消滅していった。
亞紋も気づけば、郡冶からカードを渡された場所に立っていた。
「え?」
お別れを言う時間すらなかった。覚悟していたつもりだが――、虚しさが残った。
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