第32話
「ぁぁああ! もういい! もういいわ。死ねよお前ッ、萎えた!」
錬は携帯を取り出すと、画面を起動させて音声認識を発動させる。
「オーバードライブッッ!」
携帯裏にあったスートの魔石が強い光を放つ。
すると携帯が青白い光に覆われ、錬はそのまま携帯を思い切り地面に叩きつけた。四角いシルエットが粉々になり、破片が全て錬の中に吸収されていく。
オーバードライブとはK・Fにおいての『必殺技』だ。
錬が帯刀状態の武器を構えると、そこへ凄まじい闇の本流が収束していく。
大技を当てれば、いくら強化された亞紋であったとしても、マナの鎧が引きはがれて死んでしまうかもしれない。
だが、亞紋は逃げなかった。フィリアとの融合を解除すると、全ての従者を召喚する。
並び立つ五人。それを見て、錬は青ざめながら歯を食いしばった。
「見るなァア! ボクをそんな眼で見るなよ! なんでそんな――ッ! ああくそ!」
「……僕らはただ、キミを見ただけだ。何も特別な事なんてしてない、見ただけなんだ」
亞紋はモネとシュバツルを合体させて大剣を生み出す。
「錬くん。悪い
錬が使えたのならば、亞紋に使えない理由はない。
同じように音声認識を行い、亞紋は若葉色に発光する携帯を剣の柄頭で小突いた。
破片が肉体に入っていくが痛みはない。むしろ力が溢れる感覚だった。
雫奈達も光となって刃の中に入っていく。シュバルツはスキルを強化する事ができる。それがあれば、四体を同時に武器へ融合させることもできるのだ。
負担は大きい。胸の鼓動は早くなり、息が切れる。
凄まじい疲労感。だが亞紋は真っ直ぐに錬を見た。
「行こう、みんな! 錬くんを助けるんだ!」
『うんっ!』『かしこまりました!』『おけ!』『ええ!』
「うるせぇゴミがァアアア! サリアン! アイツ消すぞ!」
『は、はい! 了解しました主様!!』
お互い、腕がガタガタと震える。一つは決意。一つは恐怖。
双方、地面を蹴る。全速力で走り出し、一方は希望の極光を、一方は絶大な闇を宿す。ココでモネが一言アドバイス。オーバードライブは、心の力を使って放つ必殺技だ。
だったら大切なことが一つだけ。
『お兄ちゃん! 叫んでっ! 必殺技の名前!』
気合を声に乗せる事で、力を高めるとか何たらかんたら。要はテンションを上げるという事だ。一瞬迷ったが、亞紋はそこでニヤリと笑って足を進める。
こういうのは嫌いじゃない。亞紋は飛び上がり、大剣を思い切り振り上げた。
叫び、全ての力を込めて、爆発しそうになるほど輝く四色の刃を振り下ろす。
「ワイルド! 4《フォー》!」
「消えろ! 冥王鬼斬閃ッ!!」
錬も刀を抜いた。紫色のエネルギーが巨大な斬撃となって発射される。
直後、光と闇が交じり合う。
「ォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
激しい抵抗感が両者を包み、衝撃波を発生させながら力の競り合いが続く。
辺りの地形やモニュメントが次々に吹き飛んでいく。これはもう城の方がもたないかもしれない。赤石は体人を連れて城の外に避難していった。
一方、衝撃の中で錬はニヤリと笑う。勝てる、その確信があった。
何故? 決まっている、錬は自分が主人公だと信じているからだ。
「あれ?」
だが、手元がブレはじめた。感じる抵抗感がより強くなる。
「あれッ、あれあれあれぇえ!?」
紫色の闇が、だんだんと狭くなっていく。目の隅々に光がチラついてくる。
「ウォオオオオオオオオオオオオオッッ!!」
亞紋の雄たけびに呼応したか、力が最高点に達する。
すると四色の光が一つに纏まり、刃が中央は白、縁が黒色に染まった。
ワイルド、白、黒……。モネが黄色、雫奈が青、ペティが赤で、フィリアが緑……。
「ってそれトランプじゃなくてUNOじゃねぇか!」
錬が間抜けな声をあげる。その時、亞紋の漆黒が、錬の紫黒を打ち砕いた。
「……ウソだ」
錬は倒れていた。近くにはダメージから、強制的に融合が解除されたサリアンも倒れている。周りは瓦礫の山、肉体から携帯も排出されて地面に落ちていた。
錬は笑う。面白くて笑っているんじゃない。意味が分からないから笑っているのだ。
一方で亞紋はモネ達に支えられ立っていた。
「結局、運さ。僕の方が運が良かっただけだ」
「運……?」
「ああ。もしもコレが『お話』なら、確かにキミが勝ってたと思う」
でも、お話じゃない。背負っている物の重さで勝負は決まらない。
「結局同じなんだよ、この世界も。理不尽からは逃げられない」
錬は地面を這い、ボロボロ涙を零しながら亞紋のほうに手を伸ばす。
「だったらボクは何になれるんだ……! おかあさんはボクを愛してくれなかった! お父さんはボクを殴った! ボクは、どうすればいい? どうすれば幸せになれる? 何の為に生まれて、何の為に生きてッ。これじゃあただ、傷ついただけじゃないか!」
その時だ。亞紋は跪き、視線を錬に合わせると、両手で錬の手を包むようにとった。
「それでも……、生きていればッ、何かが変わるかもしれない!」
亞紋も死んでいた。だが、少なくとも今は生きている実感がある。
「僕はモネたちと出会って生き返った。必ずキミにもそういう人がいる筈だろ」
話を聞くだけでも叔父や叔母、従者がいる。
錬は怯えるあまり、きっと多くの好意からも目を背けていた筈だ。そうでなくとも正しく生きれたのなら、きっと誰かが錬を愛してくれるだろう。
「まずは僕が、キミと友達になる」
「……ボクはカラッポだから。何も無い人は、誰も愛してくれない」
「そんな事は無いよ。少なくとも、僕と、体人と、赤石さんはキミと友達になれるよ。だって僕達は、キングダム・ファンタジアをプレイしている仲間じゃん」
共通の趣味は友人関係を構築するのには大切な要素だ。
そもそも偉そうな事を言っているが、亞紋も友達はいない。
「欲しかったんだ僕。K・Fの話題で盛り上がれる友達が」
少し恥ずかしそうにしながら、亞紋は錬の肩を叩く。
「だから、錬くん。もし良かったら僕と友達になってくれるかな?」
亞紋は錬の手を引いて、共に立ち上がる。モネも補助に入った。
「い……、良いんですか。ボクなんかで」
「もちろん、キミだから良いんだろ」
「でッ、でででも! ボクは皆さんに酷い事を――!」
錬は、バツが悪そうな表情でモネたちを見る。
「ん! 気にしないで錬くん。わたしは大丈夫だし、気にしてないよっ」
「旦那様のご友人は、シズナのお友達でもあります。友を責める理由はございませぬ」
「これに懲りたら、もう厨二こじらせんなよー」
「御剣くんが悪いと思ってくれるなら、私達は嬉しいですよ。ええ、ええ。うふふ」
要は、みんな許してくれるというわけだ。しかし錬としては信じられない話であった。
仮にも殺し合いをしていた相手を、すぐに許せるなど……。
「彼女達を数字で語っちゃいけない。強いだろ? 僕の従者は」
心がある。モネ達はココに生きている。
強さとは物理的な力だけじゃない、真なる力は心の強さだ。まあ、ベタな話だが。
「許すことは憎むことよりも、ずっと難しいよ。でもモネ達にはそれができた」
多くの人に『弱い』だの『使えない』だの言われても、モネ達はこうして全うに生きている。そりゃ少しは捻くれたかもしれないが、それを理由に他者を傷つけてはいない。
「それに僕の数々の変態的な行為を受け止めてくれたんだ……。キミを許すくらい何ともないのかも。ははは……」
亞紋が引きつった笑みを浮かべると、モネ達はそれぞれ微笑んだ。
それを見て、錬は目を閉じ、しょんぼりとうな垂れる。
「……ボクの負けです」
同じくして聞こえる声。体人と赤石が瓦礫の山を乗り越えて、コチラにやって来るのが見えた。亞紋とモネに支えられる錬を見て、なんとなく状況を察した体人達。
しかし今はそれどころではない。
「大変なんだ! 王都が!」
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