第30話

「ねえ、亞紋くん」


 誰もが黙していた。誰もが怯んでいた。宇宙は消え去り、気づけば周りは魔王城の中。


「わたしを従者にして、良かったでしょ?」

「ああ、本当に――、最高だよ」


 モネはニッコリと笑って、へたり込む亞紋に二つの銃を差し出した。





「わたし達が貴方を強くするから、貴方がわたし達を強くしてねっ!」


「――必ず。約束する」





 亞紋は強く頷き、モネから可変式二丁拳銃・シュバルツを受け取る。

 黒と金を基調としたデザイン。銃身は長方形になっており、グリップの下から銃身の下部にかけてブレードが装備されている。そのランクは、レインボー。


「ひ、引き当てたのか! ボクもいっぱいお金を使ったのにッ、持ってないのに!」


 その圧倒的な排出率の低さは有名だ。現に体人も赤石も誰よりもK・Fをプレイしているつもりではあるが、まだお目にかかれていない。

 携帯電話の機能なのか。武器情報が亞紋の脳に流れ込んでくる。

 成る程、確かにコレならば。亞紋はグリップを強く、強く、握り締めた。

 だがその時、亞紋の頭上の空間が歪み、ジルルートが現れた。


「おいおいおいィ! 余裕かましてんじゃねぇぞ!」


 透明になったまま移動していたようだ。踵に光を集め、そのまま亞紋の肩に落とす。

 魔力を集中させた一撃だ。まさにそれは完全に砕くつもりで放たれた閃光。


「おッ?」


 が、しかし。ジルルートの踵落としは亞紋に確かに命中したものの、そこでピタリと止まった。もちろん亞紋の肩は砕けず、表情ひとつ変わっていない。


「あ、ありゃ? こりゃ一体、どういう――」


 そこでジルルートは見た。銃口に収束していく虹色の光を。


「ちょいちょいちょ――ッ!」


 引き金をひくと、黒色シュバルツの光弾が発射されてジルルートに直撃した。

 吹き飛んだジルルートはそのまま錬の真横を超えて壁に激突する。錬はめり込んだ自分の従者を見て、そこで初めて明確な危機感を感じた。


「れ、レスト……、ジルルート」


 声が震える。ある。ありえるのだ。敗北の――、二文字が!

 一方で亞紋は二つの銃を、腰に出現したホルスターへセットし、背後を振り返った。

 そこには何も言わずとも集まってくれたモネ達の姿があった。


「ゴメンみんな。でも、やっと気づいた」


 本当に必要だったことは、本心で向かい合うことだった。

 たとえ傷つけてしまうとしても、逃げるよりは良い。


「絆がある」


 それは昨日今日の物じゃない。初めてログインし、初めて出会ったその時からだ。


「僕達はいつも一緒にいた。だから――、これからも一緒に戦おう」


 もちろんモネたちの答えは同じだ。

 モネと雫奈が右手、ペティとフィリアが左手に触れてくれた。


「う、奪うつもりか……! せっかくボクが築いた――、主人公の座を」

「錬くん。僕は主人公だの救世主だのに興味なんてない」

「だったら何で戦うんだよ! 何の為に戦えば良いんだよ!」

「決まってるだろ! 僕を好きと言ってくれた人達の為にだ!」


 青ざめ、後退していく錬。恐れながら生きる事のモヤモヤは亞紋にもよく分かる。


「でも自分が抱いた悲しみを……、人を傷つける理由にしないでくれ」


 その果てには何もない。亞紋はよく知っている。


「な、ななななにを偉そうにッ! ちょっと強い武器を手に入れたからって!」

「偉そうに言わせてもらうさ。だって僕は――」


 亞紋はモネ達の前に立つと、胸を張る。それは紛れもない誇り。


「僕は、彼女達のキングだ!」

「ぐ……ッ!」

「そもそもキミは彼女達を傷つけ、暴言を浴びせた。それを見逃すのはぼくのプライドが許さない!」


 何よりも、過去に縛られるように苦しむ錬を少しでも楽にしてあげたかった。

 そうすれば亞紋は楽になるし、きっとモネたちも褒めてくれるだろう。もしかしたらまたキュンとなってくれるかもしれない。

 亞紋はニヤリと笑った。そうだ、それがいい。そのための礎になってもらおう。




「来い! 御剣錬! この勝負は死んでも勝つ!!」





「勝つ? ダウト! 気に入らねぇよお前ぇエェエエェエエッッ!!」


 錬は刀を前にかざして幻想攻撃を仕掛けた。手足を吹っ飛ばすだけじゃ足りない。

 全身ズタズタにしてショック死させるつもりだった。だが亞紋の表情に怯えはない。どんな恐怖があろうとも、モネ達が側にいれば不安はない。


「モネ!」「うん! ずっと一緒だよ、お兄ちゃん!」


 その時、モネの体が黄色の光球へ変わり、シュバルツに吸いこまれていく。

 すると、シュバルツが変形を開始。ただ形が変わっていくだけじゃない。追加パーツは黄色い刃。それは宝石の様で、まさにモネが融合した証明。





「『完成! ゲルブクイーン!」』



 亞紋とモネの声が重なる。二丁拳銃は、僅か二秒ほどで大剣へと変化を遂げた。


「シュバルツのスキルはデスティニー! 指定した相手のスキルを強化した状態でコピーできる! 今はキミのユニオンを頂いたよ!」


 亞紋は全く動じていない。つまり、幻を見ていないのだ。

 そこで錬は気づいた。亞紋に幻術が通用しなかった理由は二つある。

 一つはステータス。ユニオンは従者を武器に融合させ力をひき出すスキル。つまり数値でいえば武器に従者の力がプラスされる。例えば錬の力が8000、サリアンの力が8000とすると、ユニオンを使えば二人の力が合わさり合計値は16000となる。

 そして亞紋のシュバルツが13000、モネが3000、合計値は同じ。

 力の値が近ければ近いほど、幻術に対する抵抗力が生まれる。

 そしてもう一つ、錬は確かに見たのだ。幻術をかけようという時、亞紋を庇うようにして立ったモネの幻を。

 両者、眼前まで迫りあっていた。黄色に輝く巨大な刃と、闇色に煌く刃がぶつかり合い、凄まじい衝撃を発生させた。睨み合う二人、錬はそこで初めて亞紋の瞳を直視する。


「目はいつも真実を映すから嫌いだ。見たくない物が、ボクの世界には多すぎる!」

「背き続けてもどうしようも無いだろ! それにキミが見てるのは、恐怖だけだ!」


 二人は無茶苦茶に刃を打ちつけ合い、走りだした。


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