第29話
モネの涙が眩い光へと変わった。同じくして亞紋の携帯が――、クラブのキングが光を放つ。錬はその光に誘われるようにして視線を移動させた。
そしてすぐに後悔する。視てしまったのだ。モネの瞳の中に広がる、果てない銀河を。
「なんだ――、これ」
亞紋がポツリと呟く。おお見よ、頭上の空間が割れて、姿を見せるアンドロメダ。魔王城の中に宇宙が生まれた瞬間だった。
同じくして、亞紋の携帯から美しく光り輝く星の欠片が射出されていく。
「……なーんかヤバそうだな」
透明になって消えるジルルート。
一方で金色に光り輝く無数の欠片を見て、錬は驚愕の表情を浮かべていた。
「ば、馬鹿な! これは――ッ、極光星岩!?」
体人も赤石も、ましてや亞紋も驚きに言葉を失っていた。
それは、ランクの高い従者や武器を獲得するための貴重なアイテムではないか。
「なんでお前が持ってるッ!」
錬の言葉は尤もだ。他のキングは持っていない。探したけど見つからなかった。
でも亞紋は持っている。なぜ? ふと携帯に目をやると、アイテムリストのページが表示されていた。
あったのは『謎の石×30』だったが、ソレが今は『極光星岩×30』と表示されている。
つまりあのモネから生み出された石の粒こそが、極光星岩の源だった。
それが今、モネの魔力を受けて精錬されて、完成形となる。
これで準備は整った。極光星岩があるのだから、当然――
「だ、だがリビアスがいない以上ッ、降臨召星はできない!」
錬が叫ぶ。確かにそうだが……。
「リビアス? リビアスは、わたしのお母さんだよ――ッ」
モネが呟いた言葉で、再びキング達の動きが止まる。錬は大量の汗を浮かべていた。
(嘘――、だろ、おい。やッ、確かに髪の色は似たようなものだったけど……、そもそも絵師違うじゃないですか。あ、関係ねぇのか。つかなんだよそれ、おい、嘘だろ。フレーバーテキストにそんなこと書いて無か……ッ、あ、でも確かに目の色同じ――)
一方でうめき声を上げるモネ。すると天の川が彼女を中心に広がっていく。
「どうしたのモネ! 大丈夫!?」
「分かんない、分かんないけど、聞こえるのっ! 星の声が!」
脳内に浮かんでくる文字の数々。モネは半ば無意識に口を開き、それらを紡ぐ。
「運命を切り開く扉。星の光が我が王を勝利へ誘いますッ。銀河の使徒よ、モネ・スターズの名において、真理の扉を開きなさい……!」
降臨召星の口上だ。極光星岩の一つが
痛みはない。あるのはただ、金色の光を放つ武器であった。
『武器を獲得しました。スパイラルゲイザー・ランクゴールド』
携帯の画面に表示されたアナウンス。
だが駄目、それではきっと錬には勝てない。だからモネは次の星を落とす。
「やばい! やめろ、よせッ! 弱い奴が調子に乗るのはよしてよッ!」
錬はモネに訴えかけた。震える足で、震える声で、目を合わせずに。
「確かにわたしは弱いよ! でもねッ、亞紋くんを想う気持ちは、他の誰よりも強いから! だから、やめませんっ!」
次の武器が亞紋の腕に落ちた。こうなったら直接止めるしかない。
「ふざけんなよ! ボクはこの世界しかないんだ! その恐怖と重圧ッ、孤独がお前らに分かるか!? 何も理解できないくせに、ボクの世界を壊すなよ!!」
錬はモネを狙いに走る。しかし飛び出してくる炎。
ペティが燃える足を振るって火の粉を撒き散らす。
「知るかクソガキ! 孤独? 重圧? 寂しいなら寂しいって言えばいいのにッ!」
「言って何になる! 孤独は絶対だ! ボクは主人公でなければならない! 孤高の英雄でなければ壊れてしまう!」
肉弾戦。しかしペティではサリアンの幻術には対抗できない。気づけばターゲットを見失い、不意打ちの蹴りを受けて吹き飛んでいった。
しかし錬はすぐに足を止めた。無数の水の矢が迫り、着弾していく。
「貴方は逃げている! 自らの殻に閉じこもり、自分の世界が壊れる事を嫌う!」
雫奈は真っ直ぐな瞳で錬を見ていた。錬は震え、青ざめ、目を逸らす。
「いけないのッ!? ボクはそうやって生きてきた。ボクを殺さないでよ! ボクの世界を奪わないでよ! 誰もがそうやって土足で踏み込んでくる!」
雫奈の攻撃では錬のマナの鎧は剥がせない。錬はすぐに矢をキャッチして、雫奈へ投げ返す。あまりにも一瞬だった為に、雫奈は肩に矢を受けて下がっていった。
ふと、錬は振り返る。そこにはフィリアが既に迫っており、ロッドと刀が交差した。
「今、貴方の占い結果が出ました。これ以上、無意味な自傷行為はおやめなさい!」
「自傷行為? ふざけるなよッ、これは正当防衛だ!」
錬は刀を振るい、ロッドを弾いた。続けざまに回し蹴りでフィリアの胴を打つ。
ふと気がつけば、全ての空間が銀河に変わっていた。
魔王城の面影はなく、錬は宇宙の中に立っていた。
モネが掌を上に掲げると、降り注ぐ流星群。それは次々に亞紋の体に直撃し、武器のデータを注ぎ込んでいく。携帯の中には次々に武器の獲得アナウンスが入り、情報が羅列されていった。
ふと、モネを纏っていた光が消える。未だにフィールドは宇宙の中だが、亞紋と錬は冷静だった。モネが、本来アプリの中で降臨召星を仕切るキャラクター、リビアスの娘であった事は衝撃的な事実ではある。ならばモネがなんらかの力を受け継いでいたとしても納得できぬ話ではない。だが宇宙、星、流星。壮大な光景で怯みはしたが、所詮それは新たに武器を獲得しただけに過ぎない。
錬は見ていた。星は全て金色だった。それが何を意味するのかは、よく分かっている。
「はは……、ははは! どうです亞紋さん? ボクを倒せる武器は引けましたかぁ?」
金色はランクがゴールドだという事。亞紋もそれは気づいていた。アイテムリストにもう極光星岩は残っていない。獲得した武器は悪くは無いが、錬を倒すには――
「まだ、ひとつだけあるよ」
モネは先程、頬を伝った涙の粒を掴んでいた。
それもまた極光星岩に変わっていたので、思い切り上に投げる。
すると頭上に放られた星岩が魔法陣へ変わった。モネは両手をそこへ掲げる。
魔法陣から星が落ちた。虹色に輝く、それはそれは美しい星だった。
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