第25話

「は? バカなオメェらにはこれくらい丁寧に言わないと分からないだろ? この世界ならばボクはキングになれる。だってボクよりスコアが高い奴なんていないんだから。でももしかしたらキミ達が『主人公』かもしれない。やめてよ、ボクが仲間A? 嘘だろ? 引き立て役なんて虫唾が走る。無理無理無理、やべぇ何かッ、ゲロ吐きそう!」


 錬はコールを発動。左隣に現れるは、淀んだ紫の髪色の少女だった。肌は青白く、目の下にはクマがあり、不健康なイメージを受けた。

 名前は『サリアン』。ランクは、ゴールド。


「亞紋! なんで貴方は従者が四人もいるの? やめてよ、ボクも赤石も体人も二人じゃないか。特別感あるよね!? 主人公っぽいよねぇッ! イライラするなマジでェエ!」


 その時、携帯の中にいたモネが頭を抱えてしゃがみ込む。

 真っ青になってガタガタ震えており、様子がおかしい。

 思い出す。『死ね』、いつの日かモネが言われた酷いワードだが――

『あぁああ! もッ、なんッなんだよマジでェエ! テメェなんてもうイラネェんだよハズレカスゴミがぁあ! 死ねシネシネシネェエ! お願いだから死んでぇえぇえ!』

 上ずり、掠れた声。モネを深く傷つけたあの言葉。


「あれ――ッ、錬くんだったんだ……!」


 一方で錬は腰から二本の短刀、『アルブム』を抜き、それをすぐに上へ投げた。同時に指を鳴らすと、サリアンの体が一瞬で紫色の光球に変わり、アルブムに吸収される。

 するとその姿が二本の短刀から、一本の『日本刀』に変化したではないか。


「ボクのスキルはユニオンです。従者と武器を融合させる事により性能を上昇させます。凄いでしょ? 主人公みたいじゃない? うへへへへへァ!」


 錬は鞘を掴むと、刀を抜いて振るう。闇色に染まる刃がさらけ出された。

 もちろん距離があるので誰にも当たらないが、刃を鞘に収めてカチリと音がした瞬間、亞紋の両腕が切断された。


「――え?」


 何かがボトリと落ちる感覚。亞紋はゆっくりと下を見た。


「ウッ、ウァアァアァアアァアアア!!」


 自分の腕が二つ、地面に落ちている。焼ける様な痛みが走り、恐怖が脳をジャックする。あの訳の分からない一振りでマナの鎧を完全に打ち砕いたというのか。

 携帯の中にいるモネ達もそれを確認し、パニックに陥った。


「ッ、コール! ベルン、義乱!」


 赤石は、亞紋を守るために従者を召喚。

 ベルンには亞紋の回復を。義乱には錬との戦闘を命じる。

 しかし義乱は戸惑いがちに声を上げた。


「どういう事だ赤石! なぜ亞紋は苦しんでいる」

「何を言っているんだ! 亞紋くんの腕を見れば分かるだろ!」

「腕? 腕がどうかしたのか? 何もおかしな点はないぞ!?」


 そこで赤石はカラクリに気づいた。


「そうか! 亞紋くん、それは幻術だ!」

「気ッづッくのが早いッ! ネタバレ厨は死ね! 氏ね死ね氏ね死ねぇえぇぇん」


 錬は激高し、階段を飛び降りて来る。どうやら正解らしい。意識を集中させる亞紋。これは幻、本当は腕など斬られちゃいない。

 しかしいくら思っても腕は元には戻らなかった。


「ぐぅぅ! 何が、どうなって――ッ! 本当に幻なのか!? それにッ、うぐぁあッ」

「フフフ、痛みは本物だよ亞紋さん。だってキミの脳が痛いと感じているんだから」


 サリアンの力は『幻術』だ。武器と融合することで、その力を錬が自由に使うことができる。義乱に幻術が効かなかったのは、サリアンと同じゴールドランクであること。


「なにより、義乱は心が強いんだね。揺ぎ無い精神力があれば、これ効かないから」


 だが亞紋と赤石は、ご覧の通り見事に精神攻撃に嵌った。


「いけない。王なのに心が弱いなんてありえない。どうせお前らは力の快楽に酔っているだけだろ。従者の女を手に入れて喜んでるだけだろ! 違うか? ひゃははははッ!」


 錬は攻略サイトを熟読し、ほぼ全ての従者を記憶していた。


「義乱はゴールドランク、ステータスも良いし強力な従者だ。しかしベルンを入れる意味は分からない! 回復なら他の天使族でもっと良いのがいる。あとはやっぱり亞紋さん! ハズレちゃんに劣化姫、最強(笑)とババアって、使えねぇゴミクズばっかだな!」

「ッ、モネ達を――ッ! バカにするな!」


 怒りが四肢の感覚を取り戻してくれる。亞紋はフラつきながらも錬の方に向っていく。


「止めろ! 亞紋くん、錬くん! 俺達が戦ってどうなる! 無意味だろ!」

「はいウザイー。ジルルート! 赤石を止めておけ」

「はいよ、坊ちゃまー! オレに任せなぁ! クヒャヒャ!!」


 飛び出したジルルートは、前宙で一気に赤石との距離を詰めると、発光する踵で脳天を砕こうと試みる。錬は分かっていた。マスターを狙えば、従者は守らざるを得ない。

 事実、義乱は赤石を守るため、腕で踵を受け止めたではないか。


「グヒャハハハハ! 虫けら風情がオレらの邪魔をしてんじゃねぇぞ!」

「うるさい奴だ! だが強いぞ赤石! 気をつけろ!」


 義乱に促され、赤石は自らの武器、『アンサー』を呼び出した。腕輪からワイヤーが伸び、その先には菱形の宝石がついた武器だ。

 攻撃特化ではなく、サポートに特化しており、スキルも自分を回復させるというもの。

 赤石は援護、ベルンは回復役。攻撃は義乱に任せるしかない。そうなると亞紋を助けに行くのは難しい。そうやってグズグズしている内に、亞紋が錬の前にやって来た。


「錬! モネ達への暴言、撤回しろ!」

「やだよ。ゴミなのは事実でしょ。正しい事を言って何が悪いの?」


 亞紋の銃のグリップと錬の刀がぶつかり合い、火花が散る。亞紋は苦悶の表情を浮べており、錬は余裕の笑みを浮かべていた。流れがどちらに来ているのかは明らかだ。


「バックボーンが違いすぎるんだよなぁ。覚悟、闇、殺意、戦いに必要な要素がボクには揃いすぎている。それは理解できるよな? 四葉亞紋」

 確かにと亞紋は思ってしまう。その時、携帯からモネたちの声が聞こえてきた。

『出してお兄ちゃんっ! わたし達も戦うよ!』

「ダメだ! ごめんモネ! キミ達は出せない!」


 みんなの声も聞こえてきたが、同時に錬の笑い声も重なってくる。


「いいじゃないですか出してあげれば。ボクのエネミーリストに名前が増える!」


 錬は亞紋を蹴り飛ばし、自分の携帯をニヤニヤと見つめる。


「こっちで倒した奴らは全部この携帯に吸い込まれていきました。これは何を意味すると思います? オーソリティ!」


 錬はそこで音声認識を発動させる。

 携帯が震え、エネミーリストに載っている名前にチェックマークを入れる事ができるようになった。もちろんこれは過程でしかない。錬は次の音声をぶつける。



「デスセンテンス」


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