第21話
翌日、集会所で亞紋はレンに声を掛けた。
「おはようございます亞紋さん。大丈夫ですか? お疲れの様ですが」
「ちょっと……、眠れなくて。でも――、生きてて良かった」
「はぁ」
今日は体人に聞いたダイヤのキングに会うため、エリアダイヤに向かいたい。
しかしゲームの方では名前こそ出て来れど、訪れる事はできない場所だった。この世界でも一体どうやって行けばいいのか分からず、レンに聞いてみる。
「エリアダイヤですか、ちょっと待っててください。聞いて来ます」
離れるレン、今日も目は合わせてくれない。しばらくすると戻ってきた。
「汽車を使えばいいそうですよ」
「じゃあ駅に行けば分かるか……。ありがとうレンくん」
一方、家ではモネ達が着替えを行っていた。
先に支度を整えたフィリアとペティは、亞紋の携帯を見つめている。
音声認識は亞紋にしか行えないが、画面を弄る事は従者達にも可能だった。
「うーん、謎の石ですか……。不思議ですねぇ。今まではそんなもの出なかったのに」
「実はね、あの後ちょっと分かったことがあって」
モネがあくびをしながらやって来た。
どうやらあの石の粒は、モネの汗や涙の一部が固まってできた物らしい。
「は? でもモネってこの前、星になったモピちゃんで号泣してたじゃん」
「あれは誰でも泣くでしょっ。でも、そうだよね、汗だって前からかいてるし」
「舞台を見て泣くのと、今回の涙には違いがあると……? はてはてぇ」
フィリアは顎に手を当てて考える。するとすぐにピンと来るものがひとつ。
「やはり四葉くんの存在でしょうか?」
石粒が発見されたのはお風呂場と寝室。どちらも亞紋がいた場所だ。
「うん。わたしもね、そう思うのっ。お兄ちゃんにギュってしてもらったりしたら、ポワポワって幸せな気分になるんだけど、その時の汗とか涙が固まるんじゃないかって」
「なるほど。古来より魔法には感情のエネルギーが大きく関わってくると言われています。四葉くんがモネちゃんの感情を活性化させて、あの石を生み出したのかも」
とは言え、あの石粒が何なのかは分からないままだが。
すると、ペティが画面を覗き込んで目を細める。
「あれ? 確か昨日、石の数は9個くらいだった気がするのじゃが……」
しかし現在、石の数は30個。
「はーんッ! ふぅー!」「あらあらまあまあ! 負けていられませんね! うふふ!」
モネが赤くなって俯いていると、そこで亞紋が帰ってきた。
「おかりなさいっ! どこに行ってたの?」
「うん。集会所。エリアダイアに行く方法が知りたくて」
「汽車でしょ?」
「うん。よく分かったね」
「そりゃ住んでるからねっ! 常識だよ」
それもそうか。とにかく目的は決まった。そこで雫奈も着替えを終えてやって来る。
「皆、今日はダイヤのキングに会いたいんだけど……、その人が体人みたいに襲ってくる可能性はゼロじゃない」
戦闘になればワープ機能も封じられる。最悪、戦う覚悟は固めておかなければ。
このままセントラルに引き篭もる事も考えたが、ダイヤのキングだって何か情報を欲しているかもしれないし、少しでも協力はしたいと思っていた。
他にも理由はある。モネ達と深い仲になれた事は幸いだが、それとは別に昨日から何か言いようの無い不安感があった。追われているというのか、見えないタイムリミットを感じているというのか。とにかく、元の世界に関する情報がほしかった。
それに体人の言葉、その点で他のキングにどうしても話を聞きたい。
「参りましょう旦那様」
「そーそー。亞紋はアタシ達のキングなんだから。遠慮なく使ってよ」
「四葉くんのやりたい事を叶えるのが従者ですものね。うふふ」
呼び方が変わった事への照れ。力になってくれる事への感謝。
「ありがとう皆……、本当に助かるよ」
「行こっ、お兄ちゃん。わたし達がついてるからね!」
モネは亞紋の手を取って前を行く。一同は家を出て、駅に向かった。
「各エリアにはそれぞれ特色があってね」
汽車の中は木造をイメージさせるシックでモダンな造りだった。席は指定席と自由席に別れており、レスト機能を使えば一人分でよかったが、それでは味気ない。亞紋は人数分の自由席を買ったので、適当な場所を見つけて座ることに。
一つの席に座れるのは二人まで。それが向き合う形に並んでいるため、二・二で座ると一人余る。結果、亞紋とじゃんけんに勝ったモネが通路を挟んだ席に二人で座った。
「エリアクラブは農業が盛んなの。自然が一番多くてね。町を出ることになるけど、絶景とかもいっぱいあるんだよ」
エリアハートは芸術やスポーツに力を入れており、エリアスペードは技術力に溢れた場所らしい。今から行こうとしているエリアダイヤは伝統工芸や、職人さんが多いととか。そして、それら全ての技術が合わさったのがセントラルだ。
「エリアスペードは科学が凄くてねっ! 携帯電話とかもそこにあるんだよっ!」
しかしそれぞれのエリアには自分の住んでいる地域にプライドを持っている者も多く、エリアスペードで作られた携帯電話を使うのを嫌う他エリア出身者は多いらしい。
「へぇ、知らなかったなぁ。でも考えてみればそっか。まだまだこの世界には僕の知らない場所とか技術があるんだよね」
とても地球の常識なんて太刀打ちできるものではない。
亞紋は改めて、このK・Fの世界の広大さに圧倒される。
「いっぱい良い所があるんだよ。わたし、お兄ちゃんと一緒に行きたいっ!」
「僕もモネと一緒に行きたい! テュフフ! やばい……、今の気持ち悪かったな」
「んもー、気にしすぎっ!」
「……じゃあついでに一つ聞いてもいい? モネは呼び方、そのままなんだね」
「お兄ちゃんはお兄ちゃんだから。それにほら、お布団の中じゃ名前で呼んだでしょ?」
「う、うん」
「あれは恥ずかしいから……、その、まだ二人だけの時だけっ! また聞きたいなら、今日の夜もお布団で――」
「お二人さん。イチャついているところ申し訳ありませんが、もうすぐですよ」
「「は、はい!」」
モネは舌を出して恥ずかしそうに笑った。亞紋もばつが悪そうに笑顔を返す。
しかしその時、皮肉にも体人の言葉が頭を過ぎる。
(確かにこの世界は魅力的だ。僕は……)
もしかしたら白亞はそれを分かっていて、何も愛するなと言ったのだろうか。
そうしていると汽車が目的地に着いた。モネが手を握ってくれた。
この手を離したくないと思うのは、いけない事なんだろうか?
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