第7話
「うふふっ! スベスベで綺麗なおてて! ふむふむ! なるほどぉ。へー!」
「ど、どうなんでしょう。どんなもんですか? いい感じですか?」
「ええ、ええ! マスターくんは既に運命の人に出会ってますね。相性がバッチリなので、是非その人と仲良くなってください。これほど良い相性の人はもうおそらく一生見つかりませんよ。むしろ逃したら天罰が当たるかもしれません!」
「そ、そうなんですか!?」
「そうなんですよ! いいですか、よく聞いてくださいね。その人の名前はッ! むあぁぁ視えます! 視えますよ! えっとですね、名前のはじまりは『フィ』ですね! 終わりの文字は、うっぅうんッ、これは『ア』かしら! ちなみに年上です。いいですかマスターくん。フィから始まって、アで終わる年上の女性が貴方と一生を添い遂げる女性ですので是が非でも見つけてください。見つけ次第、愛を囁いてください! ほら、どうしたの! 早く! プリーズ! ハァハァ……! それにしても可愛い手ですね。指も柔らかくて。ほら、もうちょっとよく見せて。ハァハァ、大丈夫怖くないから!」
フィリアは呼吸を荒くしながら亞紋の指に顔に近づけると。パクっとひとさし指を咥える。すぐだった。ペティの掌底が飛んできて、フィリアの頭を直撃したのは。
「ぐげぇ! ちょっとペティ! 何をするんですーッ!」
「セクハラババアに天誅をひとつ。真面目に占え。ショッケンランヨー」
「スキンシップですよ! いいじゃない! せっかくマスターくんに会えたんだから間違いを起こしても! あと私は22です! お姉さんです! そもそもペティだって嬉しいでしょう? 短冊とか絵馬とかサンタさんの手紙とかお祈りとか、願いが叶うってイベントは、全部マスターくんに会えますようにって内容だったじゃないの!」
「ちょっと! い、言うなし!」
ギャーギャー言い合う二人を見て、亞紋は思わず喉を鳴らす。
本当にペティがそんな風に思ってくれていたなら嬉しいが、まさかそんな……。
「ッていうか、絵馬とか短冊とかってあるんだ」
「うん。雫奈お姉ちゃんに教えてもらったの」
その雫奈はたい焼きをペロリと美味しく召し上がったようで、大きな咳払いをひとつ。
「フィリア様、ペティ、いい加減にしてくださいませ! ご主人様の前で品のない行動は情けのうございま――、ってなんですか二人とも。な、なにゆえに睨むのですか」
「いや……、雫奈さんだって。ねぇ、ペティ」
「そそそ。マスターと自分の恋愛小説書いてるようなヤツが、何を真面目ぶって……」
「ぎえええええええええええええ」
雫奈からアプリじゃ聞いた事のない叫び声があがり、真っ赤になって立ち上がった。
「ななななななんで言うのですかぁぁぁぁあ!」
「えッ、本当なの雫奈?」
「ぃ嫌でございますねご主人様ってば。なななな何の事でございますか! シズナはあれもこれもどれもそれも知らないでございます本当でございます嘘じゃないでございますマジでございますイヤンでございますバカンでございますウゥゥウゥゥゥゥゥ!」
言葉のマシンガン。もはや本人も何を言っているのか分からなくなっているのだろう。
しかし、もはや絶叫である。周りに客はいないが、遠くに座っている人には聞こえているはず。亞紋は立ち上がって周りに頭を下げる事に。それを見てペティも困り顔だ。
「や、雫奈……、言ったのはマジゴメン。でもずっと妄想で終えてた事を実際にしてもらえるんよ? もっと喜びなって。一緒にアヒルちゃん乗ってもらいな?」
「アヒルじゃなくて白鳥でございますーッッ!」
耐え切れなくなったのか、雫奈は席を飛び出して走り出した。すぐにペティとフィリアが追いかけに走っていくが、もう何がなんだか。カオス状態である。
「気にしないでね。いつもあんな感じなの。雫奈お姉ちゃんは大人しいから、ペティお姉ちゃんにちょっと強引に引っ張ってもらう方がいいの。あ、でも後で雫奈お姉ちゃんとスワンボートに乗ってあげてねっ。お兄ちゃんと乗るのが夢だったみたいだから」
モネもオムライスを食べていた手を止め、雫奈を追いかけようとする。
しかしそこで、誰かがテラス席に駆け寄ってきた。
「モネさん。大丈夫でしたか?」
「あ、レンくん! うん、大丈夫だったよ! おかげでとっても素敵な人に会えたの!」
中性的な容姿、声も高い。年齢は亞紋よりも下で、おそらく中学生くらいだろうか?
レンと呼ばれた少年はモネ達のもとにやって来ると、すぐに亞紋に気づいた。
「素敵な人? もしかして彼が?」
「うんっ、わたし達のマスター! 四葉亞紋くん!」
「はじめまして亞紋さん。ボクはレン、
レンは近くにある大きな建物を指差す。
ゲームでは買い物や従者の変更はフリック、スワイプ、タップ動作で簡単にポンポン進む事ではあるが、リアルとなるとそうもいくまい。ちゃんと店員さんが必要なのだ。
亞紋はレンを見たことが無かった。きっとゲームではそうしたNPCだったのだろう。
「しかし驚きました。まさかマスターと呼ばれた存在が実際に現れるなんて。やっぱり四本の光の柱が関係しているんでしょうが、特定の人にしか見えなかったみたいで。国の方も調査に苦労してるとか噂してましたよ」
亞紋は先程から一度もレンと目が合っていない。
レンは常に目線を下げていて、居心地悪そうに肩を竦めている。
(人見知りなのかな。分かるなぁ、僕もどっちかって言うとそうだし)
軽い親近感を覚えたところで、亞紋はピタリと止まった。
「……ちょっと待って。四本? それって光の柱が?」
「みたいですね。出現時期はバラバラらしいですが」
衝撃が走った。一瞬頭が真っ白になって、それから心臓がバクバク音を立てる。
「そう、そうかッ、どうしてその可能性に気づかなかったんだ僕は! どうして『自分だけが巻き込まれた』と思っていたんだ!」
そこで丁度フィリアとペティが雫奈を引っ張ってきた。
亞紋はすぐに従者達に説明を行う。それはつまり亞紋と同じように、K・Fの世界に送られたものがいるかもしれないという事だ。
「そのッ、何か知らないかなレンくん!」
「たしか今日、集会所でモネさんと同じようにマスターに会ったって人が、セレン湖畔に行くって言ってましたが……」
セレン湖畔。ストーリーモードの四章に出てきた場所だ。
死者を蘇らせたとされる伝説の天使・セレンが眠るとされている湖。その伝説は今も語り継がれており、死者を蘇らせて欲しいと頼みに行く者は多い。
しかし凶暴な魔物が潜んでいるため、死人が増えるだけに終わる可能性も――
そんな説明があるステージだった。
「セレン湖畔に行きたい。今ならまだその人に会えるかもしれない……!」
ずっと好きだったモネ達にも会えて、こんなに嬉しい事はない。なのに心の中が変に燻っているのも事実だった。他の人間に会えば、その理由が分かる気がしたのだ。
「ん! いこっかっ。お兄ちゃん」
モネはパクパクと猛スピードでオムライスを平らげると、プリンジュースで一気に流し込んだ。釣られるようにして雫奈たちも頷き始める。
「レン。アタシのサンドイッチあげる。食べといて」
「レンくん。私のお紅茶もどーぞ!」
ペティは戸惑うレンを無理やり椅子に座らせてた。
当たり前のようについて来てくれる。亞紋は四人にお礼を言って、携帯を取り出した。
セレン湖畔は既にマップに表示されている。タップすれば、ワープをするかどうかの確認画面が表示された。
その前に食事の金を用意しようとするが、そこで動きがピタリと停止した。
「あ、あれ? お金ってどうやって具現化させるんだ!?」
ずっと同じパーティと装備なので、ゲーム内通貨の『ジェス』は割と持っている。
しかし携帯の中には現在の所持金が表示されているものの、それをどうやって取り出すのかが分からない。
「あ、だったらボクが代わりに出しておきますよ。お急ぎの様なので」
「ご、ごめんレンくん! 本当ッ、後でちゃんと返すから!」
そう、お急ぎなのだ。亞紋は僅かに震える指で画面をタップ。ゲートを出現させる。
「お気をつけて!」
レンの言葉を背中に受けて、亞紋達はセレン湖畔へと向かった。
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