第6話
ご主人様のお役に立てる。雫奈は目を輝かせて前に出た。
「実は――」「凄く大きなピカピカの柱が見えたのっ! わたし達にしか見えなかったんだよ! 変だなって思って。駆けつけてみれば、お兄ちゃんがいたってわけ!」
モネ! ここでモネ! 雫奈は唇を噛み、無言で頷く。まあよいでしょう!
「……実は、聞いてほしい事があって」
亞紋は少し迷ったが、包み隠さず今までの流れを彼女達に説明した。
自分は別世界の人間かもしれない。地球ではK・Fは、ゲームの一つだということ。
学校の帰りに男からカードを渡されたかと思えばあそこに立っていたこと。本当の名前はクロスではなく四葉亞紋だということ。
かいつまんだ説明ではあったが、モネ達はちゃんと理解してくれたようだ。
その中で、雫奈は目を光らせていた。
(よくぞ話してくださりました! お任せくださいませご主人様! ここは包容力が試される場面! シズナが貴方様の不安を一気に消ししてみせま――)
「大丈夫。なんとなく分かってたし、アタシらもそんな気はしてた。そういう話が前々からあったのよ。なんちゅーか、精霊説とか前世説とか色々あったけど、異世界説ってのもあって」
ペティが早ぇ! 雫奈は顔を覆ってうな垂れる。
真面目な会話に突入するが、雫奈は聞いちゃいない。
(な、なにか、なにか無いものでしょうか! シズナだってご主人様とお喋りがしたいのです! はッ、そうです、これなら……! あぁぁ、でもこのシズナの性格ではそんな恥ずかしい事……。い、いえいえいえ、何を弱気になっているのでしょうか。ここは一つ距離を詰めるためにも!!)
雫奈は強く頷くと、ダッシュで亞紋達の前に回りこむ。
「そ、そそそそそれもありますが。やはり何と言っても、シズナ達とご主人様を結びつけましたのは、や、やややはりあのそのあのえの」
「運命、でしょうね! うふふっ!」
フィリアは亞紋の腕にしがみつくと、ニコリと微笑んだ。
「うッ、ぅぅ、ぐすっ!」「!?」「!?」
亞紋とフィリアがギョッとして視線を移動させると、顔を抑えている雫奈が見えた。
「あ、あら雫奈さん? な、なぜ泣いてるんでしょうね!?」
「だってぇ、えぐっ、ひんっ! い、言われるからぁ。シズナが……、ひっく、言おうとちてたのにぃ……!」
亞紋は意味が分からず真っ青になって慌てているが、フィリアは理解したようだ。
(成程。それは悪い事してしまいました)
フィリアは周りを確認して、亞紋に耳打ちを。
「マスターくん。雫奈さんはたい焼きが大好きなんですよ。あそこに見えるカフェにはそれが置いてあります。後は分かりますね。うふふふ!」
「あはっ、なんて美味なんでございましょう!」
七分後。雫奈は満面の笑みで、たい焼きを齧っていた。
「モネ達はさ、僕の事を知ってたんだよね?」
「ん。何となくだけどね。従者登録すると頭にマスターの声が聞こえるようになるの」
なんでも、勇者を助ける為にギルドと呼ばれる場所で従者の登録を行うと、頭の中にグランマスターの声が聞こえてくるのだとか。
さらにそこから一定期間が経つと、今度はその声の主が頭に浮かんでくる。
ギルドでは声紋を調べてくれる人や、マスターの似顔絵を描いてくれる人がおり、同じマスターを持つ者同士がチームを組むようになっていた。
先ほどペティが精霊だの前世だの言っていたのは、このマスターとは何者なのかという話だ。アプリではグランマスターとは、勇者を助ける集団・グランナイツの一員という事になっているが、コッチの世界ではどうも違うみたいだ。
マスターと呼ばれる存在は勇者を助けてくれるから、国が正体不明の存在を勝手に味方と認識しているだけである。
「頭の中にいるマスターは結構コロコロ変わる人が多いんだけど、わたし達はもうずっと同じマスター――、つまりお兄ちゃんが頭に浮かんでたのっ! おかげで皆すっごく仲良しになれてね! 今じゃ、わたしのお家でルームシェアもしてるの」
嬉しそうに笑うモネを見ていると、亞紋も嬉しくなる。
しかし同じ従者を入れているプレイヤーは多かったはず。
でも脳内のマスターは一人。コレは何を条件とするのやら……。
「ねえモネ。脳内にいた僕はどんな感じだった? この見た目? この声だった?」
「うん。お兄ちゃんの姿はいつも浮かんでくるわけじゃなくてね、たとえば魔物と戦う時とか、ふとした時に浮かんでくるの。わたしね、お兄ちゃんが早く頭に浮かんできますようにって、いつもお星様にお願いしてたの!」
「あ、ありがとう」
「どーいたしまして! あとね、お兄ちゃんは、いつも四角の中にいたのっ」
するとフィリアが亞紋の胸を示す。正確には、ポケットの中にある携帯だ。
「四角い枠、というのは私も気になっていましたが、今やっと分かりました。おそらくその電話の画面だったのでしょう」
電話や、携帯電話もこの世界にはあるらしい。マキナロイドというロボットがいるのだから、ファンタジーと言えど科学的技術も発達しているようだ。
ただ使える範囲が、セントラルと一部のエリアだけである事や、情報伝達に関しても通信魔法や、手紙、伝書鳩など、亞紋にとっては時代遅れに感じるものが魔法の力によって発達しており、それほど電話は普及していないらしい。
「あと、ちょっとお値段が……。だから私達は持っていないんです」
「とにかく要はつまり、皆は画面を覗き込む僕の姿を脳内で視てたってわけ――」
亞紋、フリーズ。一つ、凄まじい事が脳内検索にヒットしてしまう。
「あ、あれっ? も、もももしかして僕、キミ達にとんでもない事、しちゃった……!?」
亞紋は神に祈った。頼む。違っていてくれ。そうじゃないと人生が終わる。
「た、例えばその……! キッ、キス――ッ! とか」
モネを見る。彼女は小さく悶える様な声を上げると、コクリと首を縦に動かした。
(いやああああああああああああああああああああああッッ!!)
モネ達は画面の向こうにいる亞紋を知っている。だったら亞紋はその画面の向こうで何をしていた? 正直に言いましょう。はいそうです。はじめてのキスは液晶の味がしました。画像を大きく表示させるモードを使って、アホ面で唇を押し当てたのでしょう。
(キメエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!)
それだけじゃない。可愛いだの、嫁だの言っていたのも全部、聞かれていたわけで。
『雫奈のパンツは水色かなー? テュホホホ!』
『あーあ、ペティに馬鹿にされた後に頭ナデナデされてーなー』
『いけねっ、フィリアさんに●●●●される妄想してたらもうこんな時間だ!』
『四人とも俺の嫁だ! ちゅっちゅっ!』
(オゥッェエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!)
凄い、凄いや。どこ回想しても気持ち悪いんだもの。本気で吐きそうになってきた。
そうだ。もう気持ち悪くない所がない。凄まじい罪悪感。ごめんなさいゴミ虫で。
「本ッ当にゴメン! ごめんなさい! 僕ッ、皆にとんでもない事をッッ!」
「お兄ちゃん! 何してるのっ!?」
「何って! まずは土下座をッ!」
「気にしないでいいよ! わたし達は大丈夫だから! ね? みんなっ」
確かに他の三人も慌てたように頷いていた。表情に不快感は無いようにも見える。
嘘だ。亞紋は己の恐ろしさとおぞましさに怯え、完全に無言のまま固まってしまう。
「マスターくん。お料理が来るまで占いでもしませんか? 手相が得意なんです」
気遣ってくれたのか、フィリアが話しかけてきた。未だに心はザワザワしたままだが、ずっと占って欲しかったのも事実。半ば押し切られる形で頷くことに。
「じゃあ、えっと……、総合運をお願いします」
「まあ、ごめんなさい。私、恋愛専門なんですよ」
「初めて聞いたぞい」
フィリアはペティを無視すると亞紋の手を掴んだ。目を閉じているのに手相が分かるのだろうか? 亞紋が不思議に思っていると、なんだか異常に指を触られているような。
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