二章 死体は戸棚にしまいましょう 1—2


 今井さんが笑いだした。


「やっぱり、この子たち、かくれんぼしてたんだ」

「やめてくださいよ。そしたら、三村くんの人形も、僕らの魂、吸いとるってことじゃないですか」

「今夜、ムニュ口くんのマクラ元に立ってるかもよォ」

「やめてェ」


 はしゃいだわけじゃない。僕は本気で怖かった。

 しかし、栗林さんはイラッときたようだ。


「かくれんぼってなんですか? 人形がなくなったって?」


 じつは、そこは、さっきの猛の説明では、はぶかれていた。


 猛は蛭間さんを見る。


「かまいませんよね? 蛭間さん。立川さんの死に、そこが関係してるかもしれない」

「……しかたない。いいよ」


 で、やっと、三体の人形の盗難事件が語られる。


 栗林さんは、しぶい顔だ。きっと、僕ら、いつもウソばっかりついてると思われたな。


「君たちは、そうやって大事なことを——」

「すみません。話す前に蛭間さんの意向をたしかめたかったので。もし殺人事件に無関係なら、身内のイタズラですましたかったんですよ」


 さらっと猛は弁解する。たくましいなあ。


 猛から詳細を聞いて、栗林さんは、ちょっとだけ顔をゆるめた。


「なるほど。それはイタズラかもしれない。もし、ただのイタズラなら、今のうちに申しでてください。心当たりのあるかた、いませんか?」


 蛭間さんたちの目は、いっせいに今井さんに向いた。

 それは、今井さんのやりそうなことではある。自分で隠しといて、『かくれんぼして人形が遊んでたんだよォ』とか言いそう。


 今井さんは、あわてた。


「あたしじゃないよ! ね、優羽? あたしが一人になったの、トイレに行ったとき一回きりだよね?」


 うん? そうだったかな?

 僕が見た感じ、みんな、やたらバタバタしてたけど。


 まず、女の人たちは全員、お茶やお菓子の持ち運びで、何回かキッチンへ行った。

 そのほか、みんな、トイレには一回ずつくらい行ったはずだ。僕も行った。トイレのカベはガラスじゃないからいいんだけどさ。

 でも、僕が行ったとき、窓全開になってて、そっちのほうが、はずかしかったよね。いくら周囲は山で、のぞきみするのはサルやシカだとしても。万一、山道に迷いこんできた観光客とか見てたら、イヤだ。


 ええと……それ以外で居間の出入りした人って、いたかな?


 愛波さんは、カボチャを炊きにキッチンへ行ったよね。三十分くらいか?

 僕は数分おきに、チラ見して、家庭的な愛波さんの姿に見とれてたものだ。


 そこへ蛭間さんが追っていった。カボチャの試食して、気難しい顔してた。なんでだ。味がイマイチだったのか……。


 あとは……そうそう。

 女社長さんは仕事の電話をすると言って、書斎へ行った。一人で十五分以上……いたと思うけど、自信はない。愛波さんみたいに、見とれてたわけじゃないし。


 立川さんは——たしか、猛が言ってたとおり、タバコ吸いに階段のところへ行ってたな。つきあたりの出窓のとこだから、死角になってて、居間からは見えないんだけど。あっちのほうに歩いていったから。

 そのあと、ろうかを引きかえしてきて、トイレに入った。


 なんで知ってるかっていうと、あいかわらず、愛波さんのカボチャ炊く姿にウットリしてたからだ。立川さん、ジャマぁ、早くどいてって思ったから。


 あれが猛の言う四時十分すぎだったのか。そういえば、そのあと、立川さんが居間に戻ってきた記憶がない。僕は立川さんに注目してたわけじゃないから、明言はできないが。


 あ、ちょっと待てよ。

 記憶をほりおこしてた僕は、変なことを思いだしてしまった。

 タバコを吸ってくるって言って、出てったのは、立川さんだけじゃない。三村くんもだ。例のごとく死角だから、なんとも言えないんだけど。タバコだけにしちゃ、えらく長かった。十分以上。たぶん、二十分くらい。


 あれって、いつだったっけ?

 そうそう。電話が終わった細野さんと、いっしょになったらしく、ろうかで、なんか話してた。


 ちょうど僕はトイレに行くために、居間をでたとこだった。二人は出てきた僕を見て、一瞬、だまった。


「そんなん、誰にも言いませんて。ほな」と言って、三村くんは居間に戻っていった。


 僕はトイレ入ったから、細野さんがどうしたのかは知らない。

 僕がトイレから帰ったときには、もう居間にいたけど。


 あれって、時間的に四時半ぐらいなんじゃ? 少なくとも、立川さんが姿を消したあとだった。

 つまり、細野さんは僕がトイレに行ってた数分間、一人だった。急いで、二階へ行って、立川さんをゴツンとやる時間はあったんじゃないだろうか。


 いや、待てよ。ということは——


 僕は大変なことに気づいてしまった。

 細野さんだけじゃない。三村くんだって、立川さんを殺しに行く時間はあった。タバコを吸うふりして出窓まで行き、こっそり二階へ上がっていけば……。

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