12.幾たびの戦場を超えて腐敗

 FGOを初めて半年とちょっとで、メインシナリオの全てを踏破とうはするにいたりました。本当はもっと、ゆっくり自分のペースで進めたかった。けど、イベントに参加する権利を人質ひとじちに取られては、シナリオを進めざるを得ない。

 聖杯の魅力に逆らえる人って、いるんですか?

 聖杯なんかいらないって言える人、いますでしょうか?

 多分いるだろうけど、俺はそうじゃない。

 レアアイテムは絶対に欲しい、あらゆるアイテムが欲しい、そういうゲーマーだからだ。だから、望んでシナリオを進める無茶な強行軍を実行し、結果的にFGOのゲーム部分を憎むまでに至った。

 でも、本当にFGOのゲームとしての部分、ゲーム性に絶望したのはそこではない。

 ある程度余裕が出てから、俺は1.5部へと進んだのだ。


 1.5部は、いわゆる番外編、ちょっとした外伝である。その進行度は、イベントへの参加が可能かいなかとは全く関係ない。遊んでいなくても問題ない、まさしく幕間まくあいにも等しいストーリーである。

 だが、クリアすれば聖杯が貰える。

 聖晶石せいしょうせきだって貰える。

 エゴと欲のかたまりであるながやんは、1.5部に進んだ。

 結論から言うと、新宿とアガルタは凄く面白かった。最後にやったセイレムも、とてもいいシナリオだったと思う。だが、この1.5部が俺に、決定的な怨嗟えんさ憎悪ぞうおを植え付けたのだ。




 1.5部、下総しもふさ……この物語は、人気サーヴァントであるセイバーの宮本武蔵みやもとむさしと、特異点と成り果ててしまった江戸時代を旅する物語である。俺は、この時点では武蔵に関して特になにも感じていなかった。強いサーヴァントだな、とは思った。フレンドがサポート枠に置いてて、たびたび借りたこともあった。

 バスターが3枚のセイバーが、弱いはずがない。

 よくわからないけど、強い、とても頼れる人だった。

 あと、第二部一章アナスタシアで、突然現れた武蔵はマシュを助けてくれた。なんだか随分馴々なれなれしいけど初対面だった、まあ借りたことがあってどんな人柄かは知ってたけど。武蔵は英霊の力を失って苦しむマシュを助けてくれたんだ。


 だが、この下総のエピソードは、俺とFGO運営との温度差を決定的なものにした。

 ぶっちゃけて言うと、使

 NPCノンプレイヤーキャラクターの武蔵は、弱い。フレンドが手塩にかけて育てたサーヴァントでもないし、そもそも礼装を装備していない。やる気が感じられないのに、宝具レベルだけはぼちぼち高い。でも、武蔵は七つのクラスの一つ、セイバーでしかない。

 相手がどういったクラスかを無視して、強制的に戦闘に参加してくる。

 そして、使

 端的たんてきにいうと『足手まといな武蔵を押し付けられ、頼れるフレンドのサポートサーヴァントを奪われる』というのが、下総の大まなかありようである。


 非常に不愉快だ。

 耐えがた屈辱くつじょくだ。

 ギリギリ勝てる勝負の全てが、武蔵に壊されてゆく。

 フレンドのサーヴァントを借りることで、なんとかここまでやってきた俺にとって……ボス戦だけじゃない、ほぼ全編通して武蔵を押し付けられる旅は、苦行でしかなかった。武蔵じゃなければ勝っていた戦いが何度もあった。全て武蔵が悪い。俺の腕がどうとか、運がどうとか、サーヴァントや礼装の揃えがどうとかいうレベルじゃない。

 そもそも、敵がアーチャー(セイバーに有利)でも、武蔵はしゃしゃり出てくる。

 許せない……このゲームは、七騎のサーヴァントの相性やクラス属性を考慮して、相手より有利なサーヴァントを駆使する遊びではないのか? 何故なぜ、無理矢理に武蔵を使わねばならないのか。


 俺は、武蔵が大嫌いになった。




 それでも、聖杯が欲しいから下総を進まざるを得ない。しかし、戦闘の都度、武蔵が邪魔してくる。武蔵が勝手に出て、勝手に死んで、後始末をさせられる。あまつさえ、武蔵がいるせいで全滅し、聖晶石を使わされる。

 たまったものではない。

 俺は心底武蔵を憎悪するようになった。

 また、こうした戦闘を強いるシステムにも不満を募らせた。

 ずらりと強いサーヴァントを並べた、ベテランマスター様なら楽勝でしょうよ。そう思うと、ますます自分自身が憎く思えた。俺が弱いから悪いのだ。そして、嫌ならやめろとばかりに運営は武蔵を押し付けてくるのだ。


 そもそも、武蔵が主人公と出会うイベントを、俺はやったことがない。何故なら、武蔵が実装されて初めて登場するイベントクエストは、普段は遊ぶことができないからだ。だから、俺から見ると『突然知り合いづらした自称人気者がやってきて、俺の戦いを邪魔してくる』というもの以外、なにものでもなかった。

 好きになる余地がまったくない。

 、それが武蔵である。


 俺は、心底嫌になった。一刻も早く下総を終わらせて、聖杯を回収して忘れようと思った。だから、。はっきし言って、思い出したくもない。今後も下総のテキストは絶対に読まないと思う。早く忘れたいのだ。

 武蔵は俺にとって、絶対に許せない憎むべき怨敵おんてきなのだ。

 ガウェインやシグルドとは違う、本当に心底許せないサーヴァントなのだ。




 だが、武蔵を好きだと言う人は多い。

 実際、性能も高いが、強キャラである以上に人気のサーヴァントである。竹を割ったように素直な性格で、その実思慮深く情を知り、悩みを抱えながらも飄々ひょうひょうと武の道を究めんと進む、そんな女性である。

 しかし、俺には知ったこっちゃない。

 まず、

 武蔵と俺とにえにしなどない。

 そして、邪魔な他人でしかない。


 でも、武蔵を好きな人が多くて、俺は生きづらい。

 俺が武蔵のピックアップ中にガチャを回すことは、これは絶対にない。だが、なんらかの間違いで(例えば福袋等で)武蔵を引いてしまった場合、俺は迷わずくべてレアプリにする。遠慮はしない、できればその瞬間をスクショに撮って、Twitterツイッターで『滅茶苦茶に武蔵が嫌いないのでくべてやりました!』ってTweetツイートしたいくらいだ。

 ……でも、それを不愉快に思う人がいるから、やらないけど。

 俺はね、FGOのゲーム自体を心から憎んでる。

 だからこそ、FGOを楽しんでる人の邪魔をしたくはない。

 黙ってなにも言わずに、レアプリにしてそれで終わりだ。

 そう思ってたけど、友達に『お前が武蔵をレアプリにしたら、ブン殴る』と宣言されてしまった。つまり、俺が万が一武蔵を引いてしまった場合、レアプリにすることすら許されないらしい。


 その友人は武蔵が好きだ。

 彼が言うように『人が欲しいものを、その目の前でゴミ箱に捨てるような行いは最低だ』という気持ちも、わかる。そのうえで、俺は別に『武蔵が憎い』という気持ちを、わかってもらおうとは思わない。

 

 俺は武蔵を憎むことを、FGOにおけるアイディンティティーにしているのだ。

 人を憎んで恨むこと、これは現実では『暇人ひまじんのやること』だと俺は思っている。ぶっちゃけ、なにかを憎んで恨む暇があったら、建設的な行動をしたほうがいい。勉強したり娯楽を楽しんだり、美味おいしいものを食べたり。。嫌いだという気持ちを向けている時点で、興味を持っていて、必要としているのだ。

 そう、俺はこれからもFGOを続けるために、武蔵を憎み続けることが必要だ。


 嫌ならやめろと、今も声が聴こえる。

 FGOを遊ぶ都度つど、耳元でささやいてくる。

 皆には聴こえない声が、俺には聴こえる。


 ――嫌ならやめろ。


 このゲームは、武蔵のような素晴らしいキャラクターを愛して許すことのできる、善良なゲーマーだけのゲームなのだ。誰も俺に、FGOを遊ぶよう強制しては来ない。そして俺自身、身勝手な話だがFGOをやめたくはない。

 そのためには、武蔵を徹底的に憎み、その負の感情を誰にも向けない強さが必要だ。

 俺は強くならなければいけない。

 強いマスターにならなければ、FGOを続けてはいけないだろう。

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