第35話 高い場所で逆立ちする話

一人の男が転落死した。


彼はセルフィー、いわゆる自撮りで有名なブロガーで

いつも逆立ちした状態の写真を撮っていた。


とても運動神経が良かった彼は

逆立ちして片手を上げて自撮りする”芸”で人気を博していた。


そんな彼がある時から、危険な行動を取り始めた。

始めは椅子の上での逆立ちだった。

次は机の上。

その次は車の屋根の上。


ベランダの柵の上で片手で逆立ちした写真を

ブログにアップロードした辺りで、

彼の行動をいさめるファンも出てきた。

「危険だからやめた方が良い」と。


しかし、彼は行動を過激にしていった。

次の日には、家の天井に上がり、そのふちで逆立ちした自撮りが

アップロードされた。


これで、彼の名前は有名になった。

おおむね、問題行動をする人物として。

批判が集まるようになったが、同時にブログの閲覧者も増えた。


彼の危険な行動は、注目を集めるための炎上商法ではないかと言う人も増えた。

その読みを裏付けるかのように彼は行動をさらに過激にしていく。


より高い場所、より危険な場所へ。

ある時はビルの屋上。

ある時は電波塔の先端。


彼は、国内に限らず国外まで行き、とにかく高い場所で逆立ちした。

その費用は、ブログの広告費から捻出されていた。


彼の行動は、危険であるというだけでなく、不法侵入に当たるため

警察からもチェックされるようになった。

「このままでは彼がいつか事故を起こす。死んでしまう」と、

彼を止めようとしていたファンも次第に離れて行った。


彼が転落したのは、そのころだった。

転落と言っても、彼が高所から落下した訳ではない。

彼のマネをした子供が事故死したのである。


話題が広がりすぎており、テレビでも「お騒がせブロガー」として

彼は紹介されていた。

今の時代、子供でもスマートフォンを持ち、彼のブログを閲覧できる。


そして、見よう見まねで高所に登り、落下した。

彼がブログに「真似をしないように」と注意書きをしていたことなど

こうなってしまっては何の意味も持たない。


追い詰められた彼はブログ上で謝罪し、完全に活動を休止した。

それから数か月経った後、彼がビルから墜落死しているのが発見される。

警察は、子供の事故死に責任を感じての自殺であると発表した。


そして「男のスマートフォンには”自殺現場”での自撮りがあった」

という噂だけが残ったが、真偽のほどは不明のままである。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る