第34話 カレンダーを破いてしまった話

カレンダーを破いてしまった。

いや、このカレンダーは日めくりカレンダーなので、

破くこと自体は問題ではないのだ。


私の目の前で壁にぶら下がっている日めくりカレンダー。

本来は今日の日付を示しているはずにもかかわらず、その日付は遥か未来。

数か月先の日付を示している。

これではカレンダーの機能を果たせない。


まさか、こんなことになるとは思わなかった。

今日の分をめくろうとしただけなのに、

接着が弱かったのか、私が力加減を間違えたのか。

100枚近くがごそりと本体から剥がれてしまった。


あわてて剥がれた分を本体に押し付けてみた。

当然、元通りに貼り付くなどということは起こらず、

手を離せば力なくずり落ちてしまう。


どうしよう。私は動揺した。

自分で言うのも変だが、私は日課にこだわりが強い人間である。

いつもの行動をいつも通りにできないというのは、

私にとっては生活の基盤を揺るがされるようなストレスである。


私は手に持った紙の束――日めくりカレンダーだった物を見る。

忌々しい気持ちが沸き起こる。

これのせいで私の朝は台無しになったのだ。

腹いせにゴミ箱に叩き込んでやりたい。


しかし、そうしてしまっては

明日からの「カレンダーをめくる」という日課が、いよいよ不可能になる。

新しいカレンダーを買おうしかないだろう。


そう決心した私は、次の日課であるコーヒーを淹れ始めた。

気を取り直して、朝食を準備する。

今日の帰りにでも新しいカレンダーを調達して、今日の日付まで破けば良い。


コーヒーの香りが空間に満ちて、私の脳を目覚めさせる。

琥珀色の液体を、これまたいつも通りのカップに注ぐ。

そこでふと思いついた。


何気なく机に置きっぱなしにしていた紙の束。

カレンダーだった物の上にコーヒーカップを置く。

即席のソーサーである。

私の朝を台無しにした罰だ。


私が朝食を食べ終わる時、

昨日の日付が書かれたその紙、改め、哀れなソーサーには

カップの淵に沿った黒い丸が付いていた。

日付に丸がついたようなその見た目は、記念日を連想させて少し面白い。


汚れた一枚を破き捨てる。

当然、現れた新しい紙には、今日の日付が書かれている。

ああ、なんだ。これで良いじゃないか。


私はカレンダーを買うのをやめて、

代わりに毎朝のコーヒーをその紙束の上に置くようになった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る