第32話 メシを食べる話

お湯を沸かす。

器にそそぐ。

三分待つ。


それで温かいメシにありつける。

なんと優れた技術であろうか。


こういった形状の炭水化物を麺類と呼ぶらしい。

麺を食べたのは初めてだ。

細長い形状の食べ物を吸い込むように食べる。


すする”と呼ぶらしい。

麺が浸かっている液体には味が付いている。

この味は何に由来するのか……


「麺自体に味が染み込ませてあるのか!」

思わず声が出た。

何という柔軟な発想だろう。


全てが”お湯を注ぐだけ”で完成するという機能性のために考えられている。

なんと、なんと、優れた技術であろうか。


味も良い。しつこくなく、飽きが来ない。

量も丁度良い。もう一袋食べてしまおうかと思ったが、やめておこう。


満腹だからではない。とっておきたいのだ。

乾燥させてあるが故、保存食としても機能する。


明日はどうやって食べようか。

パッケージを見れば、鶏卵らしきものを乗せている。

これも良い。


麺類で調べれば、非常に多様な文化があったことがわかる。

そんな文明が滅んでしまったことが惜しくてならない。


地球人類の滅亡からもう数万年経っている。

遥か彼方より来た異星人である我々は、

その文化を一部だけ復活させることができた。


これほど素晴らしく、美しく、多様な文化を持った彼らが

どうして滅んだのか、その調査にはまだ時間がかかるだろう。


しかし、私にとっては長引くことは歓迎である。

調査を名目にこれからも彼らの食文化を体験できるのだから。

ああ、母星の連中にも食べさせてやりたい。

みんな、あの錠剤みたいな食事には戻れなくなるはずだ。


いや、こんなことを考えてはだめだ。

仕事はきちんとしなくてはならない。

食にうつつを抜かしてばかりはいられないのだ。

いち早く人類の文化を調査、復元しなくてはならない。

長引くことが歓迎だ、などと許されない怠慢である。


私は気を引き締め直して

明日のために、鶏の遺伝子データを探し始めた。



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