第9話 俺、何かしちゃいました?って言う話

「お前……なぜこんなことをしたんだ!?」

「やめろ……そいつはもう……」


ある村が焼けた。

野盗に攻め込まれ、略奪と凌辱の限りが尽くされようとした、まさにその時。

一人の若者が声を上げた。


その若者は信じられない怪力と

高名な魔術師を凌ぐほどの魔術で

野盗をあっという間に倒してしまった。


若者は事件の数日前に村に来たばかりの来訪者であった。

出自も分からず、身元を保証できるものもなかった。

生まれたての赤子のように無知で、

そのくせやけに偉そうだったので初めは大いに嫌われた。


しかし、畑の不作で困っていた村人をその知識と術で助けたことで

心根の優しい人間だとわかり、急速に打ち解けた。

彼は食べられる野草にも詳しく、村の食料問題は改善された。

口減らしに捨てられる予定だった子供たちにとっては

彼は命の恩人であり、心から慕われるようになった。


その彼がなぜ……


「なぜ……村ごと吹き飛ばすような魔法を……」

「やめろ。きっと本人も理解できていないんだ」

「そんなバカなことが……」

「彼を慕っていた子供たちも巻き込まれたんだ。

 そんなこと故意にする訳がないだろ」


焼け野原になった村を呆然と眺めていた若者がつぶやいた。

「あの……」


生き残りたちは声を出せないまま、言葉の続きを待った。

「あの……俺、何かしちゃいました?」


「お前!何を言ってるんだ!!」

「待て!こらえろ!!」

「でも!」

「……自分がしたことを受け止めきれなかったんだ。もう、正気じゃない」

「ふざけるな……!くそ……!」

「彼は、村を助けようとしただけなんだ……」


生き残りたちが、行き場の無い怒りと悲しみで歯を食いしばる中、

若者はそのまま虚空を見つめ続けていた。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る