第8話 e-スポーツで悪だくみする話

オリンピックの正式種目として、e-スポーツが採用されてもう何十年も経つ。

今では人気競技の一つであるが、問題もある。


e-スポーツという言葉が指すのは

「電源ゲームを用いたチーム戦の対戦競技」程度の広い意味だ。

例えるなら「球技」と同じような言葉である。


具体的に何のゲームが大会で使われるのかは委員会によって決められるのだが、

どの国のゲームが選ばれるかによっては、国ごとに有利不利が出てしまう。


さらにメーカーとしては、自分たちのゲームを売り込みたいのが当然のこと。

世界中が注目する舞台で自社ゲームがプレイされるのだから、

オリンピックの宣伝効果は尋常ではない。


そう言った理由から、非常にさかんにロビー活動が行われている。


ここはあるゲーム会社の一室。二人の男が人払いをした上で商談をしていた。

やせ型の男が、ガッチリとした体格の男に話しかける。


「次回の大会では、是非とも我が社のソフトをよろしくお願いします」

「とは言え、このゲーム……大丈夫なのか?」

「”大丈夫”、とは?」

「いくらロビー活動した所で、知名度がなければ採用されんぞ」

「そこはお任せください。あと数年でかならずヒットさせます」

「期待しているよ」


「つきまして、国内で賞金付き大会を大規模に行いたいと……」

「法整備にもう少し時間がかかる」

「そこをなんとか」

「わかっている」

「そういいながら、もう何年もかかっているじゃないですか」

「根回しというのは時間がかかるんだ」


「はぁ……ゲーム大国と言われた我が国は、e-スポーツでは完全に出遅れましたな」

「今でも”所詮しょせんゲーム”と言ってはばからない者も多い」

「変わりませんな」

「もう何年も国産ゲームがオリンピックの舞台に上がっていない。

 変えねばならない。そのために私たちは手を結んだのだからな」

「選手強化のための予算も、よろしくお願いいたします。

 こちらもスポンサーをかき集めておきますので」


練習環境にかけられる予算の多さは、その質に直結する。

通信の安定性・速度、パソコンの性能がお粗末では結果も出しにくい。

不足分は現場の負担に頼ることになるし、

選手が別の仕事をしながらでなければ食いつなげない環境では、

練習時間はどうしても削られる。


「結果が出なければ金も出さないのが上の方針だ。

 予算の拡充は、どうしても難しい」

「何を言いますか。結果を出していても変わっていないじゃないですか」

「普通のスポーツなら、話は違ったのだろうがな」

「結局、”所詮ゲーム”とわめく者たちを取り除かなければ」

「まったく、古い人間ばかりだ」

「ええ、五体満足な人間が勝てる競技なんて、

 もうe-スポーツくらいしか残っていないのに」


この数年でスポーツ用の義手、義足の性能が比較的に向上した結果、

大半の競技でパラリンピックの記録がオリンピックの記録を追い抜いていた。

人工の手足は、生身の手足よりも高性能になったのだ。


それは素晴らしいことだ。

”障害”と呼ばれていたモノが、技術の力で”強さ”に変わったのだから。


少し間を置いて、がっしりした男が叫んだ。

「それだ!」

「え?」

「義肢嫌いの奴らに”e-スポーツなら義肢に勝てる”とアピールしよう!」


世界には、義肢による好成績を好意的に捉えていない者もいる。

そういう者からは、同じ土俵で戦えるe-スポーツは

比較的有利な競技として注目されていた。


「そういう議員はそれなりにいる」

「我が国は義肢技術でも出遅れましたからな」

「そいつらに声をかけて回れば、味方に引き込めるかも知れん」


それを聞いて、やせ型の男が頭をかきながら言った。

「あの……非常に言いづらいのですが」

「なんだ?」

「今回のゲームの内容が……ですね。

 『身体改造された兵士たちによるハイスピードシューティング』

 でして……」


二人は肩を落とした。



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