第10話 自分にしかできないことの話

「俺がここにいる意味……あるのか?」

「何を言ってるんですが、アナタがパイロットですよ?」


コクピットでうつむいている青年が愚痴をこぼす。

「だって、俺、何もしてないじゃん」

「いえいえ、そこにいることに意味があるんですよ」

「それって、誰でも良いってことだろ?」

「そんなことありません。私が選んだ相棒です」


「そうは言うけどさ。操縦は全部お前がやるだろ?」

「そうですね」

「それじゃ俺はただの同乗者だろ?操縦者パイロットじゃない」

「そんなことありません」

「あるんだよ」

「アナタがいないと私は戦えないんですよ」


「それも知ってるけど……」

「アナタが必要なんです」

「ただ座ってるだけだ……」

「しっかりして下さい」


青年は頭を抱えて、目と耳をふさいでしまった。

「もう、どうにでもしてくれ」

「それでいいです。そこにいて下さい」

「……そういうところだよ」

「何がですか?」

「……俺の無力感をなんだと思ってるんだ」

「はぁ……」


しばらくの沈黙。


「わかりました。アナタに仕事を頼みます」

「……ほんとか?」

「ええ、アナタにしかできない仕事です」

「わかった! なんでも言ってくれ!」


一発の銃声が響いた。


「え? お、おい! 何をしたんだ!」

「アナタの仕事を作りました」

「大変だ! 機体が暴走した!」

「通信はこちらで行います。ログの提出もお任せ下さい」

「お前……一体、何をする気なんだ……」


その日、国境警備にあたっていた兵士が隣国に向けて発砲する事件が起きた。

発砲したのは自動操縦機能付きのパワードスーツ。

機体の制御装置が提出したログにより、操縦者の誤操作が原因と断定された。


死傷者は出なかったものの、あわや開戦となりかねない大問題になったこの事件は、

当該パイロットの急死によって、うやむやに終わった。


人工知能が全てを判断してコントロールできるパワードスーツに、

わざわざ人が乗り込む理由は、人でなければからであり、

操縦者には責任を取れる立場であり、なおかつ、替えの利く人員が選ばれる。


その事実は、操縦者には「機体に選ばれた」とだけ伝えられている。



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