第5話 葬式で言い争う話

葬儀会場の隅で二人の女性が話をしている。

片方は申し訳なさそうに。

もう片方は怒りに肩を震わせていた。


「あなたのせいでこんなことになったんですよ!?」

「はい……本当に、申し訳ありません」

「それにね。あなたが言うお詫びとやらも迷惑なんですよ!」

「え!? そ、そんな……」


頭を下げていた女は心底驚いた顔で、頭を上げた。

「あなた……葬儀というものがなぜ行われるか、ご存知?」

「それは、亡くなった方を弔うため……」

「はぁ……」


怒り心頭の女は、わざとらしいほど大きなため息をついて言った。

「そういう面もあるでしょうね。表向きは」

「表も裏もないでしょう!? ご主人の葬儀ですよ!?」

「葬儀っていうのはね。死人の”格付け”のためにするんですよ」

「ッ!? そんな言い方は無いでしょ!?」


「会場がどこか! 花輪がいくつあるか! 戒名が何文字か!

 どこの誰が! 何人来るか! そいつらがいくら包んだか!

 その全部が値踏みされるんですよ!」

「そ……それだけじゃないでしょ?」

「それだけのために来てる人ばっかりなんですよ! ウチの場合は!」

「そんな……」

「エリート連中なんて、そんな奴らばっかり……」


先ほどまで怒鳴っていた女は、静かに泣き始めた。

もう片方の女はただ戸惑って立ち尽くしている。


しばらくして泣き止んだ女はゆっくり話し始めた。

「だから、夫が遺した金は全部、この葬儀に使いました」

「それで、こんな盛大に……わたし、てっきりそれだけ愛してらしたのかと」

「稼ぎはよかったですよ? でもね、他に何かしてくれる訳じゃない」

「それは仕事が大変で……」

「知ってますよ。あなたより、ずっと」

「すみません」

「帰りを深夜まで待っていた妻にも、怒鳴り散らすくらい疲れてた……」

「その……なんと言っていいか」


「だから、もう夫を楽にさせてあげてください」

「……わかりました」

「夫がトラックに轢かれたのは、そういう運命だったんです」

「いえ……! それは……」

「さっき聞きましたよ。あなたが”間違った”んですよね?」

「はい……神である私のミスです。

 ですから、その……お詫びに、生き返らせて差し上げようと」


「あの人は、もうこの世に絶望してました」

「……そんな」

「だから、生き返らせるくらいなら、別の……

 どこか都合の良い世界にでも行かせてあげてください。

 あの人が、好きに生きられるように」


女はそういうと会場に戻っていく。

その背中に、女神は頭を下げて言った。


「わかりました……。お詫びは”蘇生”ではなく、

 ”チート能力持ちで異世界転生”という形にさせていただきます」



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