第6話 お肉を食べることに悩む話

肉屋の前で少年とその父親が話をしていた。

少年が言う。

「僕、ずっと不思議だったんだ」

「何が?」


「肉屋の看板ってさ。キャラクターが書いてあるじゃん?」

「そうだな」

「右から何の動物か言ってみて」

「鶏、豚、牛、……あと店員さん、かな?」

「みんな笑顔だよね」

「そうだね」


「食べられちゃうのに笑顔なのっておかしくない?」

「そういえばそうだね」

「お肉を食べるのは良くないことだって言う人がいてね」

「そうなの」

「動物を殺しちゃうのってよくないことだよね」

「でも、食べないと死んじゃうよ?」

「野菜食べる」

「野菜は生きてないの?」


少年は少しうつむいて言った。

「……わからない」

「血が出ないとか、鳴き声を上げないとか、

 僕たちから見たら動いていないように見えるとか

 そんなことで”殺していいモノだ”って勝手に決めるのは

 お父さんは、そっちの方がよくないことだと思うな」

「そうなのかな」

「だから、お父さんは好き嫌いしないようにしてるんだ

 何かを殺して食べないと生きていけないなら

 できるだけ無駄にしないように、って思ってね」

「どっちが正解なの?」

「正解はないよ。”自分が納得できるかどうか”があるだけなんだ」

「難しいよ」

「うん。難しいんだ。だから自分で考えてみなさい」


そこに母親がやってきた。

手には、くだんの肉屋で買った肉を持っている。

「アナタ。こんなところで話していたらお店の迷惑でしょ?」

「ああ、そうだな。すまない」


「あのね。僕、もう好き嫌いしない。食べ物を残さないようにする」

「あら。どうしたの?」

「他の生き物を食べることについて、少し話をしたんだ」

「そうなのね。良いことだわ」

「うん。だから、そのお肉も残さないで食べるよ」

「今日は何の肉を買ったんだい?」

「人工培養のモンゴロイドよ」

「初めて食べるなぁ」

「癖が強いけどハマると病みつきなんだって」


「ねぇねぇ、ジンコーバイヨーって何?」

「生き物から取るんじゃなくて、お肉だけを育てたってことだよ」

「じゃあ、このお肉は何も殺さないで食べられるの?」

「そうよ」

「なら僕、ずっとこれ食べる!」


人工培養した肉であれば、命を奪うことはない。

しかし、まだグラム当たりのコストは家畜が勝っていた。


そこで商売人は「殺せない動物の肉」を売り始めた。

病気のリスクも科学的に解決できているこの時代では

人肉は比較的ポピュラーな珍味である。



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