ep18 わたしは次の作戦をみんなに話した。ノリノリだった
「ところで、みんなは今どの辺まで来ているんだって?」
麗奈が声をかけると、ロイドが慌ててエレベーターに飛び込んで行って、階下に下りていった。そう言えば彼は機械担当だったよね、向こうとの無線連絡もロイドの担当みたいだ。
その姿を見て、やっと悪魔族のみんなが現実に戻ってきたようだ。全員の視線が、アッシュに集まった。
「えっと……すみません。一旦ここから出て車まで行かないと、さすがに分かりません」
「だよね、下に戻ろうか」
ちょうど戻ってきたエレベーターにみんなで乗り込むと、全員で一階まで下りていった。
ここのエレベーターは、さっき魔力を限界まで込めたダンジョンコアの魔力で動いている。どの位で魔力が無くなるのかな、今度調べてみなきゃだ。
しばらくすると、エレベーターが一階に着いた。そのままエントランスを抜けて外に出ると、魔術結界で保護してあった車五台が、無事停まっていた。よかた、ダンジョンに飲み込まれずに済んだよ。
一台の車のドアが全開に開いていて、中でロイドが機械をいじっていた。無線機器は、かなり大がかりの物が載っていた。無線だけでその車が一台使われている。どこの世界でも考えることは一緒なんだなって、妙に感心した。
「どうですか、ロイド?」
「向こうが無線を飛ばしていないみたいなんだ、まだ掴めていないよ」
中では、ロイドが所狭しと並んでいる機器を必死に操作していた。魔法がある世界とは言え、魔力がない人間にとっては科学技術は普通に進歩していくらしい。ただ同時に、科学の進歩は戦争兵装の技術進歩と連動している。
そういう意味では、一番最初に飛ばされた文明進度くらいが、ちょうどバランスがいいのかなって感じた。
「ねえこの無線機って、誰が作ったの?」
「これですか? 人間達が作った機械をベースに、私達悪魔族が再構成した物です。これ自体が戦場に放置されていた車両ですからね。
戦争は悲惨ですが、技術進化の恩恵は馬鹿になりませんね。我々にはそもそも、こういう発想はありませんから」
その間にもロイドが無線機器を操作しながら、向こうの応答を待っている。
周りを見回すと、城壁までの三、四キロは、予定通り何もない平地が広がっている。平地には何本かの川と池が見える。城の周りにそれなりの建物を建てても、その外側を公園として使えそうだ。
遠くに城門が開いたままになっているけれど、高低差を作っていないため遠目に街並みが見えなかった。国壁の門は閉じたままなので、後続のみんなが到着する前に国壁の門まで移動した方がいいかもしれない。
「無線機器を起動したまま、移動することってできるのかな?」
「問題ない、動かして貰っても大丈夫だよ」
麗奈の声かけに、ロイドがすぐに返事をよこした。向こうが無線を飛ばし始めるまでは、できることは殆ど無いらしい。こういう点は、無線の欠点だと思う。
全員で車に乗り込んで、国壁まで移動する。
城門を出たところで、隣で無線車を運転していたアッシュが感嘆のため息を漏らした。
「しかし、この街並みは立派なものですね。ダンジョンコアを使ったとはいえ、あの短時間でこれだけの規模の街並みを作り上げるなんて、メナルア様は魔力もそうですが相当多くの経験をお積みになったのですね」
「ん? 魔力は分かるけど、経験って何か関係あるのかな?」
「もちろんです。建築様式自体が、この辺にはない物ですから。より多くの世界を知っていないと、考えつかない造形だと思います。
それに、随所にこの島とお隣の大陸でも見られる木造建築技術が使われていますから、外の様式を取り入れつつ、耐震にも最大限配慮されているように見えます」
今度は麗奈が感心する番だった。車で時速四十キロくらいは出ているはず。その車窓から、運転しながら見ただけでそこまで分かるものなのかな?
「私たち悪魔族が得意としているのは建築です。魔族保護のために出身地であるこの島を中心に活動していますが、一部の同族はいまも世界中に建築技術を学びに旅をしていますよ」
「あれ、全員で二十人程って言っていなかった?」
「拠点を中心に活動している同胞の人数だけです。さすがに世界中にいる同族を合わせれば千人くらいにはなりますよ」
おお、悪魔族って意外に凄いんだね。てことは、その人達に協力して貰うことができれば、ナナナシアに頼まれたあの計画が実行できるのかな?
国壁まで三十分くらいで着いた。いや、時速四十キロで移動していたから三十分もかかった、の方かな。思いの外、広大な都市を造ったらしい。自分でもびっくりしたけど、悪魔族のみんなの方が驚いたようだった。
壁に魔石を填めて、門を起動させた。緊急時は魔石を外すと門が素早く閉まるようにしてある。緊急時なんてなければいいんだけどね。
平坦な石畳の大通りには、ちゃんと街路樹も植えてあった。真新しい家々は、それが全て無人の住居だと思えないほど綺麗で、ダンジョン建築の凄さをあらためて感じた。魔力とイメージ次第で何でも作れるんだね。
「まだ、無線の連絡は入っていないよ。もしかしたら、無線室に誰も乗っていないのかもしれない。次の休憩時間まで、連絡はないんじゃないかな」
ずっと無線室に籠もっていたロイドが、無線室から出てきて背伸びをしている。もっとも、いつ連絡があってもいいように、扉は開けたままだ。
車の時計を見ると、時刻は午後三時半を示していた。何事もなければ四時に定時連絡が入るはず。
「みんな、ちょっといいかな。悪魔族のみんなって建築が得意なんだよね? 作って貰いたいものがあるんだけど、聞いて貰えるかな」
麗奈の声かけに、それぞれに休憩していたみんなが集まってきてくれた。
「北極と南極って分かるかな? 両極に大きな塔を建てて貰いたいんだけれど、作ることって可能なのかな」
麗奈の言葉に、悪魔族のみんなが顔を見合わせた。
「あの……メナルア様? 今度はいったい、何を考えてらっしゃるのですか?」
「大きな塔を作って、魔術で世界規模のネットワークを作りたいのよ。媒体には、わたしの持っている月と星の石をそれぞれ使う予定でいるよ。
わたしが復活するときに、ちょっと不便になっちゃうけど、ちょっとした技術革新がしたいのよね」
みんなあまりイメージが掴めないのかね難しい顔をしている。
そもそも、戦争のための無線技術は発達したみたいだけれど、平和の時代に台頭した携帯電話ネットワークは構築されていない。たぶん今の世界情勢だと、この先においても整備される見込みがない。
そもそも、魔獣の棲息域が広すぎて、人間族にしても魔族にしてもほとんど自分たちの生活圏が広げられない。つまりそうなると、必然的に無線交信が通信技術の限界だと思う。
そこを、さくっと技術革命起こしちゃおう。
もちろん、ナナナシアによって無理矢理頭に詰め込まれた魔術を使って、より使いやすいようにかつ、ナナナシアが魔力の回収をしやすいようにしちゃおう。
音声通話までは無理でも、離れていてメッセージが送受信できるくらいには作れるよね。
「具体的に、塔を建ててどのような感じにするのですか?」
当然ながら、建築畑の悪魔族にとって、歴史に残りそうな巨大建築は食指をそそられる話なのだと思う。
紙とペンを貰うと、概要を書き始めた。
「まず、北極点と南極点はわかる?」
「ああ、わかる。ナナナシア星が自転していて、その北と南にある軸の中心点だな」
「そうそう。そこの地下にまずドーム状の空間を掘って、この月の石と星の石を置いて起動させるの。
この石って擬似的にダンジョンコアの働きもするから、そこを起点に周りに都市を造って、さらに塔を建築していくのよ」
「すごいわね、何だかワクワクする話ね」
「待ってください、さすがに私たちだけでは不可能ですよ」
さすがに規模が大きすぎるのだろう、アッシュが待ったを掛けてきた
「さっき、世界に散っている仲間がたくさんいるって言ってたでしょ? その人たちって集められないかな?」
「集められないことはないですが。そうですね、逆にプロジェクトに参加できなかったら絶対に文句言われますね。何とかして全員に通達を出しましょう。
定期的に本部であるジュカイの街には連絡が来ていましたから、何とかなるはずです」
よし、いい感じに話がまとまってきたよ。
聞くところによると、連絡さえ付けば二ヶ月いないに全員が集まることもできるだろうって、頼もしい言葉が聞けた。
麗奈が嬉しくなって、魔術文字も含めてみんなでいっぱい設計書を書いていると、突然無線車から警告音が鳴り始めた。
ロイドが慌てて、無線車に駆けていく。
程なくして、深刻そうな顔をして再び戻ってきた。
「人間の軍隊に見つかって、交戦状態だって。急いで救援に向かわなきゃ」
「了解した。全員車に乗って、急いで出発――」
「待って!」
浮き足立つみんなに、麗奈は思わず大きな声を出していた。
「ここはダンジョンなんだよ。誰かがダンジョンマスター権限を持ってここに残らないと、迷宮化しちゃうんだよ。
お願い、二人でいいからわたしの代わりに残ってもらえないかな?」
「いいのですか? この都市はメナルア様の物ではないのですか?」
「みんなの国だから、魔族がマスター権限持つ分には問題ないよ。
わたしは、絶対に仲間を助けたい。お願い……!」
麗奈が深く頭を下げると、動揺が広がったのがわかった。一瞬沈黙が訪れる。最初に声を出したのは、ロイドだった。
「オレが残るよ。どのみち無線車は移動の目印にもなるから、ここで待機していないといけない」
「それなら、あたしが残るわ。先に近くの家を改造して、受け入れ態勢を整えておくわ」
「分かりました、お願いします」
最終的に四人が残って受け入れ態勢を整えることになった。その四人にマスター権限を付与して、ダンジョンコアに触れてできることを説明した。
麗奈は、アッシュの乗る車の助手席に乗り込んだ。シートベルトをしめると、勢いよく加速していく。
国壁の門から三台の車が勢いよく飛び出した。
待っててみんな。必ず助けるからね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます