第4話 1人目の犠牲者
私達は必死になって逃げた。こんな所で全員殺されては元も子も無い。なんとか逃げ切って何処かに隠れなきゃ──。しかし、そんなことが出来るはずもなく、黒い人はすでに教室から出ており、私達を追いかけてきた。なんとか逃げ切ろうとするが黒い人はスピードが速く、すぐ私達に追いついてきた。黒い人の手がのびる。あぁ、もうダメだ、殺される……。そう思った時────、
「ぎゃっ──!! 」
声をあげたのは凜音だった。振り返ると黒い人は凜音の髪の毛を掴み、自分側にゆっくりと引き寄せていった。
「やめて!! 離してよ!!! 」
必死に叫び暴れる凜音だが、よっぽど力が強いのか離れることが出来ない。私は助けようかと迷ったがこんなクラスの人を一瞬で殺すような人に勝てるか不安だった。迷いながらも黒い人の方へ1歩足を踏み出す。
「成美やめろ!! お前まで殺されるぞ!! 」
後ろから貴大の声がした。彼の顔は恐怖で怯えていたが、何処か申し訳なく思っている感じだった。私も怖い。もしかしたら凜音だけではなく私まで殺されてしまうかもしれない。いや、その可能性は十分高い。でもこのまま目の前で凛音が殺されるのを見過ごしたくはなかった。
「ごめん貴大。私、このまま凛音を見過ごすことなんて出来ない! 」
私は意を決して黒い人の方へ走っていった。
「おい! てめぇふざけんなよ!! 早く逃げるんだよ!! 」
その悠斗の言葉を無視し、私は黒い人の方へと向かった。
「俺も行く!! 」
そう言い貴大も私の後ろから走ってきた。凛音は泣き叫び、必死に抵抗していた。
「くそっ、てめぇらだけで勝手にやってろ! 俺達は先に逃げるからな!! 」
悠斗がそう言い放ったあと、海斗と七海を連れて下の階へと逃げて行った。
「あいつらどんな神経してんだよ。友達が殺されそうだっていうのに」
貴大の言う通りだ。こんなので本当の友達と言えるのだろうか。それに悠斗の身勝手さには呆れる。それにしても黒い人は凛音を一体何処に連れていく気なのだろうか。私達はただ必死に後を追いかけた。すると黒い人はある教室に入っていった。
「おい、ここ家庭科室じゃないか? 」
そう貴大に言われ扉の上を見てみると【家庭科室】と書いてあるのが分かった。でも何をしに家庭科室に……? すると教室に入った黒い人は凛音を離しケタケタと笑い始めた。黒い人の笑い声を聞くのはこれが初めてだが、何だかとても不気味だった。
「や、やだ……。誰か、助けて……」
凛音はもうとても歩ける状態じゃなかった。そんな凛音を見てまたも黒い人はケタケタと笑い出した。まるでこの状況を楽しんでいるようだった。その時、黒い人が凛音の頭上にかまを振りかざした。凛音が殺されてしまう! 何か、何かあれを防げるものは……。そう思い辺りを見回すと床にフライパンが転がっているのが見えた。これならあのかまを防ぐ事が出来るかも……!! 私は床に落ちていたフライパンを拾い、黒い人の方へと走っていった。
「おい! 成美!! 」
後ろから貴大が叫ぶ声が聞こえたがもう待たずにはいられなかった。早くしないと殺されてしまう! 黒い人がかまを振り下ろした瞬間、私は凛音と黒い人の間に割って入り、振り下ろされたかまをなんとか防ぐことが出来た。
「凜音、早く……逃げて!! 」
黒い人の力はとてつもなく強く、いつまで持ち堪えられるか分からない。
「あ、ありがとう……!! 」
そう言い、凛音は貴大の方へと走っていった。
「成美動くなよ!! 」
貴大の叫び声が聞こえたかと思うとお皿が何枚も飛んできて黒い人に当たった。その力が弱まった瞬間、私はそこからすり抜けて猛ダッシュで走った。なんとか助けることが出来たものの凛音は弱っており、ヨタヨタとよろめき始めた。
「しっかりして! 追いつかれちゃう!! 」
そうは言ったもののこれ以上逃げるのは限界だった。私は肩をかそうと凛音の方へ腕を伸ばした瞬間、
ビュン────!!
凄まじい勢いで黒い人のものであろう髪の毛が凛音の足に巻き付き、その衝撃で凛音は勢いよく転んだ。
「ごふっっ───!! 」
凛音は必死に立ち上がろうとするが足首に巻き付いた髪の毛はどんどん凛音を連れ去って行く。髪の毛が飛んできた方を見ると家庭科室の前に黒い人が立っているのが見えた。しかしさっきとは雰囲気が違い、お皿を投げられたせいか黒い人の周りに黒い霧のようなものが漂っており、まるで怒っているようだった。
「凛音!! 」
私は叫んだものの、凛音はどんどん黒い人の方へ引き寄せられていく。
「やだ……、やめて、お願い……!!! 」
必死に叫ぶ凛音だが、そんなことを黒い人は聞いてくれるはずもなく、自分の方へ引き寄せた凛音の手を勢いよく踏んだ。
「ぎゃああああ!!! 」
その声は廊下中に響き渡った。黒い人は楽しそうに何度も何度も凛音の手を踏み潰した。凛音の手からは次第に血が出てきた。黒い人はやっと手を踏むのをやめたかと思うと今度は手を上へ高く掲げた。何をしているのだろう。そう思った時、まち針や包丁がいくつも中に浮き、凛音の方へと集まってきた。
「あいつ、何をする気だ……」
そう言った貴大の顔は今までにないと言っていいほど恐怖に満ちていた。
「やだ、誰か……、助けてーー!!! 」
凛音がそう叫んだ瞬間、中に浮かんでいた全てのまち針が凛音の体に突き刺さった。
「ぎゃああああああ!!!!! 」
凛音の叫び声が廊下に響いたと思うと今度は中に浮いていた全ての包丁が凛音の体に突き刺さった。
「ぐはっっ……!! 」
もう凛音は叫ばなかった。体がピクピク動きながら血がどんどん溢れ出てきた。私は思わずその場で嘔吐した。なんでこんな目に……。
「おい、成美逃げるぞ!! 」
その貴大の言葉で私は我に返り、黒い人が追いかけてこないよう必死に逃げた。私達は結局、凛音を救うことが出来なかった────。
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