ヒーローなんていない世界で
楽しそうに笑えるほど、無邪気じゃない。非難所の中で笑い転げる中学生を見つめながらため息を一つついた。
「うるせーな。そんな状況じゃないってのに。」
隣から聞こえてくる言葉に一瞬心の声が漏れたかと思い、口を押さえる。
「ギャーギャーギャーギャーってお泊り会かよ、てめーらの卒業お泊り会かっての。ったくよ。」
ぎろりと鋭すぎる目付きが中学生を捕らえている。目が合ったらあの中学生はビビるだろうな、なんて思うとざまあみろと笑える。
「そんな睨むなよ。あいつら泣き出すよ。」
「泣くぐらいなら可愛いげがあんだけどな。」
何がそんなに楽しいんだと思うほどに絶えない笑い声が聞こえてくる。
「俺もまた、あんな風に笑える日がくるかな。」
口に出してみるとやけに淋しい言葉だった。けれどやはり、どうしてもそんな風に考えてしまう。
「眠れないな、うるさくて。」「…そうだな。」
何がどうなっているのかわからない恐怖、これからどうすれば良いかもわからない絶望とが混ざり合ってぐちゃぐちゃだ。
「誰か、助けて。」
昔見たヒーローが、頭に浮かんだ。もう何年も忘れていたその名前を声にして呼んでみた。何度も叫んだはずの名前なのに妙に新鮮だった。大切にしていたソフビ人形が今どこにあるのかと不意に涙が出そうになった。
心、まだ梱包中。 霜月 風雅 @chalice
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