第9話 そういう戦い方ってどういう戦い方だよ?

 ここにある戦闘車輌を組織的に運用すればこの世界の征服も不可能ではないよな。大事な事だからもう一度言うが、先代さんはなにを考えていたんだ!? もしかして、なにかやらかすつもりだった!? まさかの異世界無双?


 まあ先代さんの思惑はともかく……バイクや車ならこの世界で移動に使うと便利かな。戦車や装甲車をいきなり動かすのは無理だが、バイク程度なら普段使いにはいいだろうな。


 学生の頃オフロードバイクに乗っていた事もあり、大まかな動かし方は知っている。俺は手近なサイドカーに跨ると、アクセルを2、3回開けて立ち乗り状態からスターターペダルに体重を乗せて踏み込んだ。


 パン!!


 子気味の良い破裂音と共にエンジンが回るーーと、大した間も無くエンジンが止まってしまった。


 んん??


 原因を確かめるべくあちこち触るが異常らしいものは見当たらない。ふと、思いついて俺は燃料タンクを軽く叩いてみた。


 カンカン! という高い金属音。空のタンクが放つ音だ。


「ガス欠かよ! って、まさか……」


 並びのサイドカーやらバイクやらのタンクを立て続けに叩いて見ると先程と同じ音が響く。試しにバイクにまたがり左右に揺らすがチャプチャプという音は聞こえない。年を経て蒸発した? ならばと燃料らしき物を探してみるがーー


「燃料が……ガソリンが無い……?」


 バイクに限らず他の車輌も似たようなものだった。どれもこれもガス欠で動くものは一台も無い。補給用として普通に考えればあるはずの燃料を探して見るもどこにも無い。


 それらしいと思って開けた樽の中身は高級ウィスキーだった。しかもそれほど目減りしていない。ということは燃料タンクの燃料も単純に蒸発しきったわけじゃない? 


「燃料を使い切ってる? 一体どうして? なにがあったんだ? この流れだとここに並ぶ戦車も全て燃料切れなのか……」


 俺は当初の目的を忘れ、それを知るであろう者に会うべく大霊廟を後にし、城へと向かった。


 ☆


 城に戻ると、入り口でエイブルが俺を出迎えてくれた。


「お帰りなさいませ義雄様」


 深々とこうべを垂れる猫耳メイドさん。その物腰や雰囲気はやはり、ただのメイドさんではない。超一流のくくりでは収まらないなにかを感じる。時折ポンコツ臭もするけどね。


「……ただいま」


 この状況も偶然……では無いよな。気を遣っての事と思いたいが、俺の行動は監視されていると考えるのが正しいだろう。この世界にとって【勇者】の肩書きを持つ俺の存在は特別なものだろうし。


 城内にあてがわれた俺の部屋への道すがら、勇者オタクの残念騎士を呼ぶようにエイブルに伝える。


「エイブル、俺の部屋にベイカーを呼んでくれないか」

「かしこまりました。暫しお待ちください」


 そう応えたはずの俺付き猫耳メイドさんはそのまま俺の後を付いて来る。


「……探しに行かないの?」

「はい。既に呼びに」


 思った端からこれかい! たいがいこの猫耳メイドさんは只者ではないよなぁ。何者だよ?


 ☆


「ベイカー、参りました!」


 部屋に戻ってしばらくするとベイカーがやって来た。


「ああ、急に呼びつけてすまない。ちょっと先代の勇者について聞きたい事があるんだ」

「はっ! 何でもお尋ね下さい。先代勇者様だけでなく、勇者の事なら誰にも負けないつもりです!」


 ベイカーに向かいの席へ座るように促すと、エイブルがタイミング良く茶を入れてくれたので、一息入れて話を切り出す。


「大霊廟の戦車ーー機獣とか言ってるヤツなんだが、ベイカーはあれが何で大量にあるのか知ってるか? で、あそこにある機獣は動くのか?」

「ああ、動きませんよ」


 事もなげに答えるベイカー。


「えっ? 何で?」

「【燃料切れ】です。先代様はそういう戦い方をされたそうです」

「そういう戦い方ってどういう戦い方だよ?」


 意味が分からない俺にベイカーが語った先代勇者伝説は驚くというか、想像の斜め上をいくものだった。


 70年前に召喚された先代さんのチートスキルは【アポーツ】という元いた世界からの物品取り寄せだ。


 当初は銃器を取り寄せ防御を強化する一方、本人は戦車を取り寄せると搭乗員を育成し、大型魔獣の襲撃に備えようとしたそうだが、人材育成の困難と、足の遅い戦車でそれなりに広い国土をカバーするには、初動の遅れが大きな課題となっていたそうだ。


 ある日、前線視察に赴いた先で魔獣と遭遇した先代さんは、その場で戦車を召喚し戦端を開いた。大量の魔獣の侵攻に、やがて戦車が燃料切れを起こすと先代さんはそれを乗り捨てるや次々と戦車を召喚し、乗り換えながら戦いを続け、魔獣を殲滅したそうだ。


 以来、先代さんは現場に車やバイクで急行し、その場で戦車を召喚しては魔獣と交戦し、燃料、弾薬切れ(弾薬が先に切れるとそのまま魔獣をひき潰していたそうだ! コエーよ!)の戦車を次々と乗り捨て、魔獣を殲滅という戦術を駆使して魔獣の大侵攻を跳ね返し、そのまま魔獣に占拠された国土を取り返したそうだ。


「燃料切れで擱座した戦車はアーティファクトですから全て回収したそうです」

「燃料の補給は?」

「機獣を召喚した方が手っ取り早いと言われたそうですよ」

「な、何というチート発想……」


 まさに残機無限のシューティングゲーム。俺の杞憂は全くの無駄だという事だ。つかこの発想はフツーの人間には無理だな、先代さん凄すぎるわ。


「他にご用は? 」

「いや、いいや……」


 この流れだと聞いたところでこの世界に石油があるかなどわからないだろう。先代さんがそれを求めなかったんだし、よしんばあったとして、燃料として運用出来るほどの大型精油プラントは俺に作れるわけもない。つまるところ、#戦車__アレ__#はオブジェなのだ……


 まあ、それでも戦車のタンクの底をさらえば車一台動く位のガソリンは手に入るかもしれない。一見、空に見えて意外と残ってたりするもんだ。後で調べてみよう。俺は二人に仕事に戻るよう言い渡して、再び大霊廟へと戻った。


 戦車エリアに戻ると、車両群の脇に積み上げられた木箱が目に入った。箱書きを見るにおそらく前にベイカーの言っていた銃器だろう。


 木箱の蓋をずらすと、中身は整然と並べられた小銃。kar98kだっけか? ドイツ製の小銃でミリオタには有名なやつだ。とりあえず1挺を取り出すとそばにあった弾薬箱から弾を取り出す。これは一応護身用に持っておこうか。


 なんせこっちに来て以来、魔獣退治とか勇者らしい事はした事がない。剣や鎧を渡されたところで使いこなせるわけがないしな。銃ならレベルとか関係なさげだし。あとでハンドガンとか機会を見つけて探してみよう。


「いかんいかん! 本題に戻らねば」


 大きく道を外れたものの、なかなかに刺激的な寄り道だった。こうして、さらに捜索すること半日、俺はついにお目当ての物を見つけ出した。


「あったどおおおおおおおおおぉぉ!!」


 お約束の叫び声を上げると、俺は早速ブツを抱えて王宮の厨房へと戻った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る