第8話 コ◯トコかよ!イ◯ヤかよ?


「これは……何度見ても凄まじいな」


 無駄に多い収蔵品が置かれた棚を見渡し、今更ながらにふうとため息をついた。


 先代さんによって当時の日本から持ち込まれた、昭和という一時代を形作る(一部例外あり)ありとあらゆる技術と情熱の結晶がここには収められているわけなんだがーー


 第二次世界大戦で国中を焦土とされた日本人が、全てを失なった中から産み出した物だ。異世界から来た物はアーティファクトという魔道具になるそうだがそれ以上に力強さを感じる。


 レシピに関しては意外と早く決まった。独身男に身近な料理といえばやはりアレだな、国民食と言われてる豊富なバリエーション、身近さ。インスタントのやつは無理だが、なにかとTVでやってた事もあり調理の流れも知っている。レシピも書庫で簡単に見つかった。あとはアレを見つけ出せば……


「……って、広いな! おい!」


 こんな所一人で探すのは、無理じゃね? コ○トコかよ!イ〇ヤかよ?  あー、エイブルとベイカーに手伝ってもらえば良かったかな? いや、不用意にこっちの人間に触れさせるのはパンドラの箱を開くようなものか?


「あの二人だもんな~ 悪い方にこじらす気配がビンビンするわ」


 そんなこんなで数時間後。大霊廟は広かった。お目当てのものはなかなか見つからない。もし無かったらと、とりあえず似たような物は取り置いた。あと、コレから使いそうなものとか……ミンサー、パスタマシン等々。今後のことも考えておかねば。


 で、


「……」


 ついに見つけてしまった。


「いや、なんでこんな物まであるんだよ! 先代さん、なんでもかんでも取り寄せすぎだろ!」


 誰に聞かれているわけでもないが俺は叫ばずにはいられなかった。手にあるのはカラフルなフリル過剰装備のドレスを纏った少女が描かれた箱だ。ポップな書体で書かれた商品名は【トイレの妖精ーマジカル花子さん変身ワンドDX】


 中から出てきたのはヘッド部分に金メッキの王冠を付けた、パステルカラーの装飾ゴテゴテの長めの懐中電灯みたいなやつで、箱の横書きには手元のボタンで光る! 回る! だそうだ。あ、電池別売り……


 ふっと、ワンドを手にくるりと回る残念猫耳メイドのきめポーズが目に浮かぶ。『マジカルメイドエイブルさん! 貴方のハートに猫パンチ♡』


 うわぁ、なんだろう、すごい似合う気がする。これは……


「うん。これは無い無いしよう」


 そっと棚の奥に見つからないように押し込んだ。異世界最初の認定厨二病患者を身近な者から出すのは避けたいもんな。歴史に残していいのは名声であって傷跡じゃあない。


 俺は気分転換と、ちょっとだけ怖いもの見たさで例のエリアに向かってみた。そう、勇者オタクのベイカーが興奮しまくっていた【機獣】ーー戦車が並んでいるエリアだ。


「と、その前に」


 流石に全部の戦車の名前を知ってるわけじゃない。俺は書庫エリアに立ち寄り軍事関係の雑誌、図鑑を数冊見繕って行こうと思ったわけだが、棚をざっと見渡しただけでも軍事から農業、工業、漫画、雑誌、新聞、果ては当時の薄い本(あったんだよ!)とかが書庫を埋め尽くしている。


「なにこの図鑑!? これ、バツ? エックス? 子供向けなのか? 地味にスゲー!」


 手に取る本、手に取る本全てに思わず興奮してしまう。日本の戦車だけじゃないのはそこそこにミリオタな俺でもわかるが、細かいところは資料頼みになる。それらのニーズを十二分に補う大霊廟の書庫は、下手すれば先程の大霊廟内のアーティファクトをも凌駕しかねない知識チートだ。グリモワールというのもあながち間違ってはいない。


 初期のPCが発明されて半世紀で俺のいた世界は激変した。世界はほんの小さな変化をトリガーに大きく変貌を遂げる。ここにあるものはたとえ栓抜き一個であろうとも、不安定な世界にとっては猛毒であり特効薬だ。あだや疎かに扱っていいものなど一つもない。


 大霊廟を見渡せば見渡すほどに、その凄まじさに圧倒され、下手すりゃ神の爺さんにこの世界を託された時よりもプレッシャーを感じる。


「なんかとんでも無いものを引き受けちゃったなあ……」


 そうは言っても俺の好奇心がプレッシャーごときに押しつぶされるわけもなくーー今や俺のものになった戦車の詳細を確かめるべく資料片手に戦車エリアへと進む。見れば97式戦車改の隣には一回りは大きな鉄の塊がそびえていた。


「こ、これは……ティーガー?」


 見上げれば目の前には数多くの戦車戦エースを生み出した鋼鉄の虎が鎮座していた。しかも、よく見れば一両じゃない。微妙なディテールの違いを資料と見比べ、数を確認すると。


 ティーガーⅠ前期型が2輌。いや、極初期型だ。シュノーケルがついてるけど、コレ潜れるやつかよ!

 ティーガーⅠ後期型が3輌。ツィンメリットコーティングとか、知り合いのモデラーが見たら泣くぞコレ。

 パンターGが6輌。おおう、赤外線暗視装置付きとかあるし、先代さんなかなかの通ですなあ。

 で、ポルシェティーガーが2輌。……使えたのか、コレ?

 おお、Ⅳ号戦車なんか砲身が短いのと長いのが10輌か、これは乗り込んでみんと区別が付かんな。


 他にもぱっと見で特定できない奴が十数輌って、何だこれ? 統一性が無さすぎて訳がわからん。あかん、いい加減全部を調べる気が失せた。


「これは……ないわ~」


 趣味か? コレクションかよ!? つか、この世界でこいつら使ったらアルマゲドンかラグナロク……いや、これでパーティー組んで魔王と戦ったらどうなるだろ? いやいやいや!


 き、気を取り直して他を見よう。


 こっちはソフトスキン車両とかか? 小さいな。いやあホッとするわこの小ささ……


 M16対空自走砲。6両ーー通称ミートチョッパー? 通称挽肉製造機ってなにそれコワイ! 飛行機撃つより人を薙ぎ払うのに重宝した?


 M50オントス自走無反動砲3両ーーなにこの砲身? 6本? 小さいけど見た目凶悪だあ!


 他にも移動に使っていたのかM113A1装甲兵員輸送車が数輌とジープが数輌。Sd,Kfz251シリーズが数両。キューベルワーゲンやらシュビムワーゲン。サイドカーが数台。他色々。


「もう、なんだよこれ!? ここはボービントンか? それともクビンカか?」


 ※ボービントンはイギリスの戦車博物館。クビンカはロシアの戦車博物館です。


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