第23話 ウダツ(その2)

 三人は朝まででも店の椅子に座っていたかったが、突き出た腹を抱えて表に出た。満ち足りたような、だまされたような気持ちである。しかし気分が悪いはずがなかった。ふらふらと焚火たきびの跡まで戻った。ペタリンたちはくーくーのどを鳴らしている。

「うまかったなぁ」

 くーくー。荷をほどいて毛布を取り出したところを、たくさんの村人たちに囲まれた。


「こいつらか」

「こいつらだ」

「コソどろめが」

 ? 三人は何か起きたかなぁくらいのつもりでいた。

「コソどろつかまえたぞーっ」

 走り去る者、走り寄る者。


 (もしかして。コソどろって、俺たちのことか?)


 大人の男たちが集まって来る。後ろの方に女や子供が混じっている。何があったんですか、とく前に、詰問きつもんされた。


っただろう! お前たち、金をっただろう!」

「何があったんですか?」

「とぼけるな! ぬすんだ金で『黄金おうごん妻亭つまてい』で肉食べただろう!」

「冗談じゃない。自分たちの金で食べたんだ!」

「信用ならねえ」

「信用ならねえ」

「うそだ」

「お前たち、どこのだれだ?」

 なんだか厄介やっかいなことになってしまった。


(なんて答えたらいいのだろう?)


 仕方なく、俺には連れがいて、やがて追いつくはずだ、その娘はムネという町の花屋に勤めていたフェミという名前の子だ。俺は大道芸をしているレジーとい、このドブシャリは俺が飼っている、とおおむね本当のところを話した。

「レジーか。何で金を盗んだ?」

 何を言っているかレノーにはわからなかった。

「いいがかりはよしてくれ」

 しかし村人たちはこちらの言うことなど聞いてはいない。

「どこへ行くんだ」

「そのフェミという子の母親に会いに行く」

「信用ならねえ。野宿するような大道芸人がなぜ豪遊ごうゆうする金があるんだ」

「この村に来るずっと前から持っていた金だ」

「うそだ。だまされるな」

 レノーはこの危険な状況の中でぎぬを着せられて、だんだんむかっ腹が立ってきた。


無実むじつの人間に他人の罪をなすりつけるな! 何が起きたのかも俺たちは知らないんだぞ!」


 とうとう大声を上げてしまった。

「なんだやるか小僧こぞう

「顔をなぐってやれ」

袋叩ふくろだたきにしてやろうか」


 (この連中には話を聞く気なんかないんだ)


 レノーは身構みがまえた。ペタリンたちも赤い目を見開いてしゅーしゅーすごんだ。


      ☆★☆


みな、待つんだ。その子にたずねておくことがある」

 年配の男の声がした。殺気立さっきだった村人たちが戸惑とまどった顔を見せた。

「レジーと言ったな。夕方に、この村で盗難騒とうなんさわぎがあった。盗まれたのは二万コマだ。村のみなが出し合った金で、代表をみやこに送ってあるものを買うのに必要な金だ。我々は貧乏びんぼうなんだ。金は大事に保管してあった。それが」

「なくなったんですね」

「君たちが来てからのことなんだ。何か心当たりはあるかな?」

 いいえ、とレノーは答えた。


 (慎重にならなければ)


「俺が持っていたのは八百コマほどです」

「うそつけ」

 と誰かが言った。

「荷物を調べさせてもらう」

「どうぞ。ただ、手紙だけはダメです」

 セイルは村人たちと一緒になって、レノーの荷物を全部調べた。手紙はレノーが持っている。

「その手紙、本当に手紙だけか?」

 レノーは手紙を取り出すと封筒を渡し、手紙を開くと読めないように素早く振ってみせた。すぐに返してもらった封筒にしまう。


「ところでさっきの君の話なんだが……花屋の娘の名前をもう一度教えてくれるか」

「ムネの町にいたフェミだ」

「その母親の名は?」

「ヨサ」

「フェミはこの村に来るのか?」

 今夜か、明日にもこの村に着くだろう。レノーたち三人はこの村で彼女を待つつもりだった。レノーはそう答えた。

「フェミを知っているんですか?」

「ヨサは私の友だちだ。娘のフェミも知っている。ムネの町でフェミが賞金を受け取ったこともだ。君は彼女から金をもらったか?」

「そうです。『黄金おうごん妻亭つまてい』で支払った金のほとんどは、彼女からもらった金です」


 二人を見守っていた連中が、信用ならねえ、信じちゃだめだ、だまされるな、と口々に叫んだ。

「皆聞け。いいか、この子は盗んでいない。私が保証する。しかしいまこの子たちを村から出しもしない。この子の話が本当なら、私の知っている娘がこの村に来るだろう。その子にけばわかる。とにかくこの大道芸人が盗んだのではない。私にはわかっている」

 男はレノーに向かって、村長のセイルだ、安心しろ、だが私の家に来てもらうぞ、と小声で命じた。従わないわけにはいかなかった。

 村人たちはレノーと哀れなドブシャリたちを囲んでセイルの家までついて来た。まだレノーたちを疑っている者が大半で、うそだったら袋叩きだとかドブシャリを丸焼きにしてやるとかぶつぶつ言っている奴までいた。

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