第21話 アグロウ(その2)

「レノーへ(レジーだったっけ? 笑)

 今日ちょっと収穫があったので、手紙を送ります。あたしはこの宿屋を明日まで手伝って、それからあなたとアルルとクルルの後を追います。この宿屋(こぐま亭っていうの。ちっちゃなこぐまなんていないのに)に夕方、吟遊詩人がやって来て、歌っていったの。歌詞をおぼえて、完全にそのままじゃないけど、ここにしるします。びっくりしてね。


 チギレのアグロウ 気まぐれのあほう

 民を守り 町を救った

 ぜんぶ自分で殺すため!

 ぜんぶ自分で壊すため!


 海をのぞんだみさきの町に

 チギレの町に生まれたアグロウ

 気のいい粉屋こなやの息子だよ

 生きた時代が悪かった

 国は他国と戦争中


 イガイガ兵はやって来た

 ポンポコ国中おそわれた

 チギレの町もかこまれた

 ポンポコ怒った男が一人


 チギレのアグロウ隠してた

 こわい力を隠してた

 チギレのアグロウ 気まぐれのあほう

 奴が怒ると腕まで赤く染まる


 イガイガ兵は皆死んだ

 どでかい地割れにまれて死んだ

 どでかい地割れは町をも変えた

 チギレはちっちゃな小島になった


 チギレのアグロウ 気まぐれのあほう

 どでかいやつはアグロウが作った

 どでかいやつはアグロウが作った

 アグロウはまたの名をクフィーニス


 アグロウは英雄 アグロウは軍神

 国のお城に招待されたよ

 豪華な食事に舞踏会ぶとうかい

 素敵な女性が待っている


 でもアグロウは知らなかった

 どんなに自分が嫌われているか

 お城はいつも陰謀いんぼうでいっぱい


 チギレのアグロウ 気まぐれのあほう

 毒を盛られたお酒を飲んだ

 毒を盛られた料理をたべた

 頭の中には チギレに帰ることばかり


 町を壊した 人を殺した

 いかれたアグロウ見境みさかいなし

 海を渡ってチギレに着いたよ

 町を囲むは自国の軍船


 チギレのアグロウ 気まぐれのあほう

 どでかいことをしでかした

 チギレを海に投げ込んだ

 自分も海へ消えてった


 チギレは消えた

 軍船も消えた

 赤い腕のアグロウも

 もう戻らない

 もう戻らない





 どう? これをどこまで信じたらいいのかわからないけれども、アグロウは明らかにクフィーニスの祖先だよ! あたし、吟遊詩人にいてみたの。、この歌が本当にあったことなのかどうかって。そしたら、みやこで本を調べろって。ヨサ母さんに会ったら、その後みんなでみやこに行こうよ! チギレのこと、アグロウのこと、クフィーニスのこともあたしの能力のことだって、きっと何かわかるよ。じゃ、あたしの故郷まではもうすぐだから、三人ともがんばってね。明日の夜こちらを発って、すぐに追いつくから。フェミ」



 手紙の日付は一昨日になっていた。まだ陽が高いから、アルルが言っていた通り、彼女とは今夜にも会えるだろう。

 アグロウの詩はレノーを考え込ませた。彼は手紙をペタリンたちにも見せた。

 史実しじつかどうかわからないが、この詩を聞かされていればクフィーニスに対する悪感情あくかんじょう嫌悪けんおむべきものとする気持ちが生まれたとしても不思議ではない。しかしこんなにも有名なアグロウについて、レノーが何も知らなかったのはどういうことなのだろう? あの山と谷間では、アグロウの詩は歌われてこなかった。カヌウが言っていた、谷間のおさの野心も本当のことなのかも知れない。強い力を持つクフィーニス一人でいい。それだけで国をおこせるだろう。

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