第19話 旅の仲間
レノーは一種の期待と恐れが宿った目をしてそう言った。
「わからない。クフィーニスが何なのか、あたしは知らないから」
レノーは、彼女が見た夢の光景が彼の体験したことと同じならば、その
レノーはあの山と谷間でのこと、呪いの儀式、沼地、ペタリンやカヌウのことを話した。そしてあの火事のことも。
「ひどい……なんてひどい……」
フェミの言葉を聞いてレノーは自分の中から
(彼女は俺を嫌ったりはしていない。彼女は俺たちを
そしてフェミは、ある
「あたしも、クフィーニスなの?」
フェミのような能力を持った者など、一人だって見たことも、聞いたこともない。
レノーは、
「もし、あたしも、見つかったら捕まってしまうような力の持ち主、クフィーニスのような、もし、そうだったら……!」
危ないと思う、とレノーは
フェミは今日だれかがどこかで山火事が起きたことを話していたのを思い出していた。ただ、何か
「
「これからどこへ行くの?」
どっちへ行ったらいいのかわからない、「あかし」が何なのかも知らない、レノーはつぶやくように言った。
「あたしも
「
彼は傷ついた子供みたいだとフェミは感じた。実際、少年だけれども。
「そうした方がいいと思う。あたしたちの力にも、あたしたちが
「
もう言わないで、とフェミは優しくレノーをさとした。
「あたしはあなたたちの仲間なんだから」
その夜、三人はアルルの看病に追われた。クルルはクマ
同じように
クルルが字も書けることを知ってフェミはとても感心してクルルをほめた。レノーの所にも書き付けが来て、そこにはこう書いてあった。
『フェミって何て優しくてかわいい子なんでしょう』
レノーはなぜだかちょっとうれしかった。フェミが言った。
「レノー、ちょっと考えたんだけれども、『あかし』が何なのかも知らないし、わからないし、探しようもないんだったら、あたしの故郷に行ってみない? 育ての母がいるの。ヨサ母さんだったら何か知っているかもしれない。あたしの能力についても、教えてほしいし……。、あたしにとっても、『あかし』は必要なものかもしれない。あと、あたしといれば少しは安全だし」
ダグラやアヌサは通れない、とレノーはぼやいた。
「そんな町、通らないよ。行こうよ。あたしたち、兄と妹ってことにしよ! ふふ」
のんきだな、とレノーはつぶやいて苦笑した。が、フェミの笑顔を見ていると、それもいいかなという気がし始めた。
「言ってみるか、アルルがよくなったら」
フェミが歓声を上げて、クルルがきゅるきゅる鳴いた。
「それで、そこはいったい何て言う村なんだ? フェミ」
彼女は聞いていなかった。クルルと抱き合って、クルルのマネをしてきゅるきゅる鳴いている。レノーは目がかすんで、アルルの身体をまた
「兄って言うのは」
レノーが言った。
「元気に
フェミは、しかし見た目ほどはしゃいでいるのではなかった。かなり思い付きでレノーたちに同行しようと考えていたのだったが、事情を聴いてみると、これはフェミにとっても運命なのだという気が、前からこんな風になる気がしていたのだった。
自分が危険な力を持っているのなら、クララやおばさんたちにも危害が加わるかもしれない。初めに感じた
夜明け前のアルルの食欲はすさまじかった。クマ
『兄はもうすっかりよろしくてよ』
アルルと話し合っていたクルルが、うれしそうに書いてよこした。
「じゃあ出発だ。アルルとクルルは北の門へ行き、そこで待つ。服は着るな。俺とフェミは旅に必要なものを買ってくる。なるべく早く済ませるから、目立たないようにしていてくれ。じゃ、あとで会おう」
ペタリンたちは不平を言った。特にクルルが服を脱ぐのを嫌がった。
『あたくしだって、女ですのよ。レノー、あなたフェミに服を脱いで待っていろなんて、命令できまして? アルルだって、病み上がりですのよ』
結局、
フェミは自然に左の腕をレノーにからめてきた。レノーは恥ずかしそうなそぶりを見せたけれど、フェミが
「俺たち……兄と妹に見えるかな?」
「他人の目にどう
目立つのはよくないんじゃないかな、とレノーが言うと、フェミは、つまらないこと気にし過ぎるよ恋人同士だって言ってもいいんだから、そう答えて今度は微笑んだ。
「あたし、レノーの目も鼻も口も好きだよ。何度も夢で見ていたんだから」
「俺も……フェミの笑顔、好きだよ」
彼はぎこちなくそう言った。実際彼は、
朝市にはあまり客が来ていなかった。ハルカの祝日が終わって、寝坊する人が多かったのだろうか。干し肉を少しだけ買おうとしたレノーに、フェミは彼女が持っているお金のことを話した。
「多めに買おうよ、他にもね」
干し肉、薬草、干した果物、魚の
「金持ちなんだな。俺も出せればいいんだけど」
「気にしないで。あたしが好きだから買うんだから」
レノーは、自分がどこかで金を
「ちびちびの
(ちびちびって何だ? きっとあやしい生き物だ)とレノーは思った。北の門へ向かって、公園通りを歩くことにした。店を閉めた屋台が
「あたしも
しようよ、とレノーが言った。
「え?」
「もう祭りは終わっているけれども、
「あっ、あたし、花を何本か持ってる」
彼女はカバンの中から桃色の花を取り出した。
「思い出になると思ってとっておいたんだ」
一本をレノーに渡し、フェミはすでに花でいっぱいの
「すてきな夏になりますように。ううん、もうすてきな夏は始まっているわ。レノーに出会えたんだもの」
レノーはカヌウを想って花を
(火事は収まったらしい。でも、カヌウが無事でいますように。夏は始まった、でも早く「あかし」を見つけられなければ俺は……。もういろいろな人たちを巻き込んでしまっている。ここにいるフェミも……)
(花に
フェミとレノーが
「アルルとクルルが待ってる。行こう、フェミ」
「うん」
手をつないで二人は歩いて行った。
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