第16話 フェミ
(あれがドブシャリ! 靴に見えたあれは、
「ほんとに服を着てる! まさか
クララはドブシャリが嫌いらしかった。
(たしかに
フェミはすっかりドブシャリに見とれていた。
(
しかしメスのドブシャリは
魚屋の前でドブシャリは足を止め、銀色の魚を
「ちょっとフェミ、戻るわよ。やっぱりまた広場で売ろうよ。フェミ?」
クララの言うことをフェミは聞いてはいなかった。長い棒を手にした魚屋がドブシャリを
「ここはお前なんかの来る所じゃねえ。帰れ! お前がいるだけで魚が売れなくなるんだぞ。行け、行けったら!」
魚屋は棒でドブシャリを打つマネをした。ドブシャリは手をゆっくり差し出し、その手を開いた。銀貨が一枚
「だめだだめだ、帰れ!
ついに魚屋は、棒でドブシャリをつつき始めた。ドブシャリは赤い眼を細くして魚屋をにらんだ。
「そのドブシャリが何をしたって言うの? お金だって持っているのよ!」
フェミだった。
「ドブシャリはドブシャリだ。くっせえ。うちの魚がドブシャリ
魚屋は棒でドブシャリの腹を突いた。ドブシャリは銀貨を
「ばか! ハルカの祝日を
そしてしゃがみ込んで銀貨を
「春も夏も、人間のためだけにあるんじゃないわ。人間もいて、あなたの仲間もいて、花も咲いて、
それをちょうだい、魚屋に向かってそう言うと、フェミはドブシャリの
「おつりもね」
フェミがにっこり微笑んだ。
「かなわねえな」
魚屋はそうつぶやいて、つり銭をフェミに手渡した。ドブシャリはきゅるきゅる鳴いた。フェミから受け取ったつり銭から、三十コマを数えると、それをフェミに
「お花の代金のつもりなの? かしこい子ね」
フェミは二十だけ受け取って、あとはまけてあげるとドブシャリに言った。
「あなたにも夏の恵みがありますように」
「フェミってすごーい」
クララが近づいてきて言った。まだそばにいるドブシャリを
「目が
クララが言った
「そんなことない。かわいいわ」
フェミはドブシャリに、どこから来たの? と
「そう、言葉がわかるのね、だれかに飼われているの?」
ドブシャリはへっへっへ、と笑った。
「気持ち悪ーい。フェミ、もういいでしょ? 早く行こうよ」
(クララも魚屋と同じだ、この子の気持ちなんかわからない)、とフェミはがっかりした。
「クララ、あたしこの子を飼い主の所まで送って来る。残りの花は悪いけど、
「ちょっとフェミ、本気なの? もうちょっとで八百なんだよ」
フェミはニコリと微笑んだ。クララはうーんとうなった。
「わかった。残りは公園通りに持って行く。フェミは弱い者の
ごめんね、とフェミはクララに
「気をつけてね、早くお店に戻って来てね」
クララはそう言ってフェミとドブシャリを見送った。
フェミはドブシャリのためにもう一度買い物をした。クマ
(
クマ
「あたしはお酒の果物は食べられないから。いいからそれは自分のためにとっておきなさい」
ドブシャリはきゅるきゅる鳴きながらフェミに抱きついた。不思議な感覚が彼女をつつんだ。
(魔法にかけられたわけじゃないだろうけど)
「あなたのご主人に会わなければ気がすまなくなったわ。連れて行って」
ドブシャリはペタペタ音を立てながらフェミを案内した。二人とすれ違う人は皆
だんだん人のまばらな通りになってきて、フェミはちょっと不安になった。日が暮れていた。どこまで行くのだろう?
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