第3話 味方
終わりのない悪夢。彼はただひたすら走った。待ちかまえている者たちの数がじょじょに減り、やがて石つぶてが彼に当たらなくなり、飛んでこなくなった。それでも走るのをやめず、長い時間をかけて山の
背中が痛む。
「レノー」
一人が言った。
「急いだ方がいい。沼地で夜になったら終わりだ」
男はレジーという名の
「何でお前がな、レノー」
レジーは彼に同情的だった。彼もまた幼い頃からレジーになついていた。
「レノーがクフィーニスだと? ふん、ちょっくら
レジーにもう一人が気をつけろ、と言った。
「レジー」
「沼地がどこまで広がっているか、わかる?」
するともう一人がそれをさえぎった。
「それを教えることは禁止されている」
レジーは黙ったままだった。レノーは目の前が真っ暗になった気がした。最後の番人の一人がレジーだったことで、彼はいちるの希望をレジーに
何の知識もなく、彼は一人で沼地を越えなければならない。沼地に行ったことなどもちろんなく、話に聞くのは沼には底がないことぐらい。沼の色一つ知らなかった。
(どんな樹が生えていて、どんな
クフィーニスは明らかに
「レノー、
レジーが彼に声をかけた。もちろん食べていない。するとレジーは背負っていた大きな袋から、小さな袋を取り出すと、レノーに差し出した。もう一人の男はイファルナスの兄だったが、
「イーファン、お前がこれ以上ちょっかいを出すなら、俺はお前を倒さなければならん」
レジーは最後までレノーの味方だった。イーファンは弓矢をかまえ、袋をこちらに渡せ、とレジーに警告した。レジーは手斧を腰から引き抜く。
「レノーはこれから一人で生きて行かなけりゃならん。コイン一枚持たずにどうする? イーファン、お前さんがクフィーニスだったらどうするんだ?」
二人は沈黙したまま、にらみ合った。互いに武器をかまえたままだ。
「レノー、持って行け。ここは俺が何とかする」
初夏の、真昼の日差しが、
クフィーニスに物を与えてはいけない。彼が袋を受け取って逃げれば、レジーが困った立場におちいるだろう。イーファンの矢はレジーに向けられていたが、
クフィーニスの能力は、人体自体を動かすことはできなかった。
三人とも青い顔をしていた。レジーがゆっくりと、小さな袋を大きな袋に入れ、まず
「袋もだ、早くしろ」
レジーは命令に従うように見えた。突然イーファンに袋を投げつけて、地面の
イーファンはよけようとしなかった。矢の
「レノー、袋を持って、早く行け——早く!」
レノーは袋をわしづかみにすると、山道を走り下りて行った。
「レジー!」
走りながら呼びかける。
「ありがとう!」
しばらくして猟師の声がした。
「レノー!」
「生きて帰れよ! 生き延びろ!」
レノーは走り続けた。
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