第37話 都(その1)
夜の都会は青い明かりに照らし出されて、どこも涼しげに見えた、しかし彼らには、どんなきれいな店の看板も、かえって彼らを拒否する文句のようにしか受け取れなくなってしまっていた。庁舎は昔の宮殿を模様替えしたものだったが、その玉ねぎ状の高い塔を遠くに見て、レノーたちはすっかりしょげかえっていた。リサクの知っている店の近くで、フェミが何かを見つけた。
「あれ、ほら、屋台だよ」
「何の屋台だろう?」
「屋台だって
おいしそうな匂いのする屋台の前を、彼らはおなかを空かせて通り過ぎた。リサクの店は、ひどく汚らしい小さな店だった。『うまうま』それがリサクの店の名前だった。なぜリサクがそこを選んだのか、皆よくわかっていた。
「ここじゃ。ここが都で最高に気持ちのいい店なんじゃ」
皆がっかりして店内に入った。客はだれもいない。ひげ面の中年男が椅子に腰かけてカードで遊んでいた。無言でカウンターの中に入る。ほかに席はなく、レノーたち五人が座るともうそれで店はいっぱいだった。
「定食五つ。水も五つだ」
油と
「みんな、
レノーだけは平気だった。彼はむしろ皆をしかるように、こう言った。
「みんな、お店の人に失礼だぞ。これが俺たちにはお似合いなんだ、
(よくそんなことが言える)、とフェミはレノーの
「食わなくったって、代金はもらうからな」
アルルとクルルがやけくそになってそれを食べ始めた。リサクも食べている。フェミだけはどうしても、だめだった。
「みんな、よかったらあたしの分も食べて」
なんとかしてフェミにそれを食べさせようとしたレノーは、結局あきらめて、四人で彼女の分も食べた。もう皆、ボワボワに帰ることしか頭になかった。
ひどくみじめな思いで五人はボワボワに戻って来た。ボワボワの支配人に鍵を渡されていた。夜間は鍵をかける、と支配人が言っていた。
「もし鍵を失くしたら、裏口に回ってください」
変わった宿だ、と皆が感じていたが、それが都のやり方なのかと思ってだれも何も言わなかった。部屋に戻ると、一人前の夕食がフェミとクルルを待っていた。
「どういうこと? 食事は頼んでいないはずだけど」
クルルも不思議そうだった。
『でもこれは、どう考えてもあなたが食べるものですことよ、フェミ』
おいしそうな鳥料理だった。スープと野菜サラダと、パンもついていた。
「ちょっと待っていて、クルル。あたし、宿の人に
『早くね。あたくし、あんまりおいしそうだから、食べてしまいそう』
フェミもおなかがグーグー鳴っていた。受付に行き、
彼女が何も言わないうちに、支配人は、注文されてないことはわかっている、かまわない、無料だから食べるといい、と言った。なぜ無料なのかフェミが
「ボワボワがいいと言ったので」
「ボワボワ?」
「この猫の名前ですよ。ボワボワがあなたたちをいい人だと言った、だから私はあなた方を泊めた。ボワボワが夕食を一人前作れと言った、だから私はあなたの夕食を作った。それだけのことです」
「猫と話が出来るの?」
「まあ、料理が冷めないうちに、召し上がって下さい。今回に限り、無料です」
そう、この子がボワボワなのね。そうつぶやいてフェミは近づいて来た猫ののどと頭を
礼を言って部屋に戻ると、クルルが書き付けを差し出した。
『おいしくてよ、このスープ。早くしないと冷めちゃうわ』
翌朝フェミはみんなにその話をした。男たちは皆くやしがった。
「まだ気持ち悪いんだ。『うまうま』にはもう行かない」
「よかったのぅ、フェミ。『うまうま』に行かずにすむな」
アルルとクルルは何か言い合いをしている。書きつけが回されて来た。
『僕らも今夜は何も食べずにここに戻るよ』
レノーはまだ納得がいかない。
「いくらなんでも、おかしな話だ。今夜の五人の食べ物まで期待は出来ないから、今夜はぜんぜん知らない店で食べて来よう」
しかしレノーたちは無駄足を重ねた。図書館が休みの日だったのだ。そしてばらばらに分かれて職探しをしようとした。初めに宿に戻ったのはリサクだった。
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