第31話 わがまま
フェミはリサクを、村一番の変わり者、でもいい人なんだとレノーたちに紹介した。
「最高に気持ちのいい」というのがリサクの
フェミやクルルは歌が好きらしかった。しょっちゅう鼻歌を歌っている。レノーは
「お前さんの連れは目が見えんようじゃの。自分では何かを見ていると思っとる。じゃがそのまわりに何があるのか、なーんにもわかっておらん」
フェミの気も重かった。出会った時はおびえていて、でも優しかった少年が、短い間に
『そんなこと言ったってあなた、だれが見たっていまのレノーには
『フェミ、薬をもっといっぱい飲ませたらどうだろう? すこし飲んでちょっぴり
「いまはまだこれでいい、レノーだってつらいんだから、もうしばらくそっとしてあげて」
そんなことをアルルやクルルにお願いすると、そのたびフェミは微笑んで見せた。フェミの悩みを聞くのはリサクの役目だった。
「わかるぞい。わしも機会を
レノーの痛みを理解することが大事、と何度もフェミは自分に言い聞かせる。
(でも、レノーにはあたしたちの気持ちがわかるって言うの? 何にもわかっていないじゃない。でも、いまは、レノーは病気で、性格ねじ曲がっちゃってて、それで……)
「リサク、あたし、どうしていいのかわからない」
「このおいぼれにまかせろ。フェミ、わしゃ何と言ったって、最高に気持ちのいい年寄りじゃから」
やがてその機会が訪れた。
しとしと雨の降る、まるで春に戻ったような
この天気だし、他にすることもあって、皆馬車から離れたがっていた。リサクなどは服が
だがレノー
「レノー、お腹
「
「あたしたちも
「そうじゃない」
「じゃあ何でそんなに急がなくちゃならないの?」
「
「
レノーは押し黙った。
「こんな雨の日に、リサクに
馬車の後ろに回って来たリサクがフェミに、落ち着くように言った。
「リサク、落ち着いてなんていられないよ。レノー、あなた何にも見えていないじゃない? アルルやクルルのことも、あたしのことも、リサクのことだって。すこしは反省しなさいよ」
レノーは顔をくしゃくしゃにしてつらそうな表情をした。リサクが声をかけた。
「レノー、フェミの目を見んかい。怒っておっても温かいじゃろう? 温かいはずじゃ。みんな自分のことは後回しにしてお互いのためにやっておるんじゃ。病気じゃからと言ってなんにもせん、しかも何かをしている仲間を気づかうこともせんというのは
リサクは声をひそめてレノーに語りかけた。
「ちっとばかり、身体にきとって、疲れとるんじゃ」
そう言うと、リサクはその場にどたりと倒れた。レノーは口をあんぐり開けた。アルル、クルルとフェミがあわてて馬車から飛び降りた。
「リサク!」
レノーも馬車から降りようとした。
「レノーはそこにいて!」
フェミが命令した。
「リサクを
ぐったりしているリサクをペタリンたちとフェミが抱き起し、必死になって何とか抱え上げた。みんな泥まみれだ。レノーがリサクのわきの下から腕を差し込んで引きずり上げる。リサクはとんでもなく重かった、少なくともレノーにはそう思えた。
フェミとペタリンたちも
レノーの頭の中には「
(それはリサクなのか、俺なのか?)
この非常時に、彼はそんなことをフェミたちと話し合いたかった。
「レノー、ぼやぼやしていないで手伝ってよ! あたしは必要なものを買って来る。
「アルル、クルル、よろしくね。馬も見ていてね」
フェミは雨の中へ出て行った。リサクは苦しそうだ。アルルが
(やはり、
彼は馬車を下りて、どこかへ行こうとした。クルルが叫び声を出して、アルルがレノーの目の前に立ちはだかった。こんな小さなペタリンが、いまのレノーにはなんと大きく
「アルル……俺はもう行くから。さよなら」
次に起きたことは彼が予想もしていないことだった。
アルルはレノーを、思いっきり
『レノー、あなた何を考えているの? 自分がいま何をしているのか、よく考えなさい! フェミやリサクが言った言葉の意味を考えなさい! アルルがどうしてあんなことをしたのか、本当によく考えなさい!』
レノーはペタリンにまでこんなにされたり言われたり、恥ずかしかったが、それが彼らをばかにしていることになるのだとは気づかなかった。クルルの書き付けを見て、しかし彼はそこに何が書かれているのか、意味がよくわからなかった。
クルルが彼に手を
クルルは
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