第26話 セイル
「去年のことよ。ヨサ母さんとあたしはずっと二人で暮らしきてた。いつも貧しかった。それは今でも変わらないんだけど……。去年の夏の終わりのお祭りに、ウダツからあの男がやって来たの。たしかウダツの村長になったばかりだった。あたしたちの家の前をたまたま通りかかったセイルがヨサ母さんの花壇をほめた、そんなところからあの男はうちにやって来るようになったの。ウダツだって貧しいのに、あいつはさも自分には力があるようなことを言っていたんだ。ヨサ母さんに花屋を出させてやるとか何とか言ってた。あたしたちは
変だと思ったけど、けっこう親しくなってたから……。家に戻ってきたら、母さんの声がした。『やめて』って。『そんなつもりはないから』って。セイルは『男が欲しいんだろう? 俺の好きにさせれば、いまに欲しいもの買ってやるぞ』って言った。その間中バタドタ音がしてた。あたしはどうしたらいいかわからなかった。そっと奥の部屋をのぞいたの。母さんの服は半分脱がされかけてて、母さんの上にまたがったセイルは今度は母さんの顔を平手で何度も張った。あたし、あわてて部屋に飛び込んだの。あたしに気がついたセイルは急に、『ようし、ようし』って言い出した。『いま君のお母さんをいやしていたところだ。今度フェミにもしてあげる』そう付け加えて、母さんはあわてて服を着なおしてた。あたしは何も言えなかった。『帰って。もう来ないで』母さんがそう言ったら、あいつはまた来るようなことを言って出て行った。実際あいつはまたやって来た。今度はあたしまで
レノーがフェミをぎゅっと抱きしめて、少女の話をやめさせた。
「アルル、クルル、フェミを頼む」
待って、とフェミが言った。
「レノー、そんな
「
彼は
「クフィーニスの力であいつを殺す」
「だめ。やめて」
フェミが彼にしがみついた。
「あたしたちはもういいの。もう、さっきのでいいの」
レノーは少女の腕を振りほどき、彼女から離れて岩を
「レノー……」
彼の怒りのすさまじさにフェミは衝撃を受けた。これが、クフィーニスの力なんだ……。
大きな岩が
クルルもアルルにつづく。フェミもレノーの所まで行った。
「レノー……」
クフィーニスの能力を発現させた男は彼女を振り返って見た。その顔を見て、彼も孤独なんだ、と彼女は感じた。
「あたしはここにいるよ」
「フェミ……」
「いつもそばにいるよ。きゅるきゅるきゅる」
フェミが言った。レノーはまだ眉間にしわを寄せている。残りの三人が、ずっときゅるきゅる鳴いている。しまいには彼も折れた。
「きゅるきゅる」
フェミはレノーと額を合わせてきゅるきゅる鳴いた。こうして見ると、レノーは
「きゅるきゅるきゅる」
レノーも鳴いて笑った。星の大河が夜空を流れていた。四人はあれが自分の星だとか、「
フェミのたいまつが四つの揺れる影をまわりに
「これが最後の休憩。もうすぐだから」
フェミの声を聞いて、四人は草の上に腰を下ろした。
「ミルダムって云うの。あたしたちの村の名前だよ。水がきれいでおいしいんだよ。朝になればわかるけど、
『フェミの
秘密の場所を教えてあげる、と言ってフェミは笑った。
「フェミ……君のお母さん、俺たちを受け入れてくれるかな?」
レノーは心配そうな顔をしていたが、フェミは涼しい顔でこう言った。
「前にも言った通りヨサ母さんがどう出るのかはわからないよ。
「会えばわかるよ、案外若い人なんだ、元気のいい大人の女って感じ」
レノーは想像してみた。これまでけっこう
「ヨサ母さん、実はけっこう美人なんだ。思い浮かべてる? レノー」
アルルとクルルが翼の付いた両腕をパタパタはためかせた。
「う~ん」
「母さんに恋しないでね、レノー」
そんなことあるわけないだろ、と彼は返事したが、彼は自分の顔が熱くなった気がした。
(夜中でよかった。きっといま俺は赤い顔をしているに
「変な
「わかったよ。とにかく、その後は
どうだろう、とフェミは首をかしげた。
「アグロウの詩以上のことは
「夜中に訪ねるのは気が引けるんだけど」
「じゃあなに? 家の前庭で火を
「案外若くて、元気な大人の女で、美人で気さくなんだ? 最高だね」
最高だよ、とフェミが
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