第17話 どこからか聞こえる声

 

 少し早めに生徒会室を出て教室に戻ると、僕の席の周りに3人の男子がたむろしていた。


 名前知らない3人……少しチャラチャラしていて僕の苦手な人種達だ。


 うちの学校は基本制服だが、私服でも構わないという緩い校則、殆んどの生徒は制服だが、稀に私服の生徒がいる。そして今僕の席でたむろっているのはその稀な私服組の3人だった。


 その中で、僕の席に座っていた茶髪片耳ピアス少年が僕に気がつきニヤリと笑う。

 金髪はさすがに駄目だが、カラーリングも髪の長さも規定はない。勿論アクセサリーもピアスも……。


「おーーーー王子様のご帰還だ」

 そういうと他の二人も僕の方を見て一人は怪訝な表情、もう一人はニタニタと嫌な笑みを浮かべた。

 うわ……久しぶりだなあ……中二の冬以来の絡まれ方……でもボッチとしてはこういう感じでもクラスメイトから話しかけられると、少し嬉しいって思ったりしちゃう。


「いやあ……王子様って」

 王子様? そんな事言われたことない……まあ、お姫様と付き合ってるんだから、一応王子様なのか?

 でもイギリスだとエリザベス二世と結婚したフィリップ王配はエリザベス2世が即位した時統治者としての称号Prince Consortは与えられなかったんだよねえ……。でも現称号はPrince of the United Kingdomだから一応元王子様なのかな?



「だろ? 会長の所からご帰還で……ああ、いいなああ、俺もあの美人会長と知り合いだったらなあ……羨ましいよ比良川君」

 そう言うと彼は立ち上がり僕に近付いて来る。嬉しい気持ちは一瞬だ。あとは面倒なだけ……ああ、やだなあ、この学校にもこんな感じの奴いるんだなあ……


 あ、ちなみの僕の名字は比良坂だから、ネット検索かけたらとある人と同性同名になったので変更したとかじゃ無いから!(1年半前はひっかからなかったんだよなあ……)


 入学式の時は皆制服姿だった。勿論ピアスや茶髪もいなかった。やっぱり進学校、真面目人が多いなあって思っていたけど、やっぱりどこにでもいるんだよねえ、こういう僕の苦手な人種達は……。


「なあなあ、比良川君ってさあ、ぶっちゃけ会長とどんな関係? 付き合ってるの? どこまでいった? いいよねえ、羨ましいなあ……年上の彼女って」

 そう言いながら片耳ピアス君は僕の前迄歩いて来る……。


「お、おい……」

 最初一人だったが、もう一人の顔が険しくなる。ピアス君の仲間二人が僕を見て怪訝な表情に変わる。

 そうなんだ、僕はいつもボッチなんだけど、いじめにはあった事がない……しかも男子の中では低い身長、痩せた身体、気弱そうな顔立ち。自分で言うのもなんだけど、眼鏡を掛けたらのび〇になっちゃう。


 そんな僕が、今までこういう輩に殆ど絡まれた事がない……。


「なあ、俺にもさあ……会長を…………なんだ? その目は……」

 僕に近づいて来た片耳ピアス君は僕を見て一瞬たじろぐ……これもいつもの通り……なんでか睨んでもいないのにこうなる。


「……おい……なんか……やめとけよ」


「ああ? なにビビってんだよお前ら……」

 ピアス君は一度二人の方に振り向きそう言った。うん……僕もそう思う、なんでビビってんだろうって。


「なあ……俺にも紹介してくれないかなあ、あの会長を」

 そう言って彼は僕の肩に手を乗せた。


『あの美人会長と付き合えればかなりの箔がつくよな、良い身体してるし俺の初めての相手にぴったりだぜ……こいつ程度じゃあ俺の方が上だろ、こんな奴なら奪うのも楽勝だぜ……それにしても……なんだこの感覚……恐怖? 俺がこいつに?』

 そう……ごく稀に僕に掴みかかってきたり、馴れ馴れしく肩を組んできたりする奴がいるんだよねえ……まあすぐに止めてくれるんだけど……でも、なんだ? この声は? 初めて聞こえてきたけど……。


「……比良川君さあ、俺らとつるまない? ぼっちみたいだからさあ……俺らの……」


『とにかく……こいつと仲良くなった振りでもしときゃあ、あの会長と……仲良く、そうしたらあの女は俺の物、あんだけ美人だし、身体も旨そうだし……』


 これってこいつの心の声? え?どういう事? 僕は戸惑った。どこかの芸人の様に声が遅れて聞こえてくる。いや、正確には音声多重で聞こえてくる。


 そう思った瞬間、怒りがこみ上げてきた。 はあ? 何言ってんの? 身体目当て? バカじゃないの? 会長は……陽向は……ぼ、僕の彼女だ!!


「え?」


「きゃあああああああああ!」


「な、なんだ?」


 突然周りがざわめきだす。


「じ、地震だ! デカイぞ!」


「逃げろ!」


 グラグラと揺れる床、ガタガタと音を立て机や椅子が動きだす。

「な、なんだ?」

 僕の肩を掴んでいたピアス君が動揺しながら周りを見回す。


「おい! 逃げろ」

 地震で慌てるのはいけないが、放送は入らない。机もガタガタと動く程の揺れ、とりあえず校庭に避難した方がいいという判断で各々が教室を飛び出た。

 童貞ピアス君も僕から手を放し、仲間二人と共に教室を飛び出る。


 その瞬間揺れがピタリと止んだ。


 教室の外から声が聞こえる。


「あれ? 揺れてない? え? 止まった?」


 僕も遅れて教室の外に出たが、あれだけの地震だったのに……教室の外に飛び出ていたのは……うちのクラスの生徒だけだった。




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