彼女の力、僕の力

第16話 天使と悪魔

 

 正式に付き合う事になった僕と陽向……、ああ遂に呼び捨てに、年上を呼び捨てにするって何かこう良いのかな? って、悪い事をしているって気分になっちゃう。


 僕の彼女……僕の言う事はなんでも聞いてくれる年上の女の子、滅茶苦茶可愛くて、滅茶苦茶綺麗で……スタイルも良くて…………勉強出来て………………運動神経抜群で………………皆から慕われて……………………生徒会長で…………………………。


 本当に僕なんかで良いの? 僕の彼女になって良いの?


 完璧超人、最強の女子高生、僕の女神……ただ彼女には唯一の弱点がある。


 え? 僕の彼女ってのが弱点だって? うるさいよ、わかってるよ! だからそれも含めて唯一の弱点があるんだ。


 彼女には妄想癖がある。それもかなりの妄想癖だ。言うに事欠いて、僕と彼女は悠久の時を数千年もの間輪廻を繰り返し魂は生き続け、遂に現世で出会ったと言っている。そして彼女はかつて僕のしもべだったと……この身体はあくまで今の時を過ごす為の器だと……。


 そう彼女は中二病だ、それもかなりの……。


 あり得ない……世の中には自分が特別な人間と言っている人がいる。

 一番簡単な例が霊能力だ。霊だけに……いやいや失礼。


 人に見えない物が見える。自分が特殊な人間とアピールするのは良いけど……人に見えない物が自分に見えるならまず、自分が特殊ではなく、自分の目や頭を疑った方が僕は良いと思う。人に見えない物、それは霊と思うよりも先に幻と妄想と思った方が良い、そしてそんな物が見えるって事は危ない病気の可能性がある。そして怪しい薬をやっている可能性すらある。


 オタクの僕は二次元に依存している。いや、今は彼女持ちだから依存していたと言っておこう。でも二次元は二次元だ。僕は二次元を三次元には持ち込まない。


 二次元が好きだからこそ、僕は現実主義者になった。だからこそいくらでものめり込める。戻ってこれるから、三次元の世界に……。


 だから僕は信じない、彼女の言っている事は。彼氏だから話は聞くし、興味も持つ。彼女の言っている事は否定しない。でも……僕は信じていない……心の底では……。



「何難しい顔してるんですか主真様?」


「――様は駄目って言ったでしょ? 会長」


「でもお……」


 昼休み生徒会室で僕と陽向は二人きりでお昼を食べていた。

 遠矢 陽向、生徒会長でこの度僕の正式な彼女になった我が校のアイドル。


 彼女は別に良いと言っていたが、アイドルで生徒会長が1年のボッチオタクと付き合ってるなんて知れたら、学校中が大騒ぎになる。うちのクラスでも一部疑っている人がいるし、バレると彼女も僕も大変な事になる為、僕達が付き合っているという事は隠す事にした。


「僕に様をつけてたら一発でバレるでしょ? ほら会長」


「でも……」

 学校の中では僕は会長若しくは遠矢さんか陽向さんと呼ぶ、会長は僕を比良坂君、又は主真君と呼ぶ事にした。


「昼休み誰かが入ってくるかも知れないし、どこで聞いてるかもわからないし……そもそも他の役員は? そもそもいるの?」


「大丈夫ですよ、眼鏡を外してお願いしておきましたから、副会長も書記も昼休みここには来ません……絶対に」


「――――眼鏡…………絶対?」

 彼女の特殊能力……生まれ変わる前の力……彼女はそう言っている。

 眼鏡を外すと周りに人が近付かない。そしてそのまま相手の目を見ると、その場から立ち去ってしまう。でもその絶対に来ないって? また新たな妄想を言い始めたのか……。


「眼鏡を外してお願いすると皆なんでも言う事を聞いてくれるんですよ」

 陽向はそう笑顔で恐ろしい事を言ってきた。なんでも聞くって……もうそれ洗脳とかのレベルじゃない?


 彼女はそう言うと眼鏡を外し僕を見てニヤリと笑った。その瞳、深淵とも言える黒い瞳に飲み込まれる様な……そんな気がしてくる。

 眼鏡を掛けると天使の微笑み……そして眼鏡を外すと悪魔の笑い……天使と悪魔……。


「ふふふふ、怖がらなくても大丈夫ですよ……私の力は主真君には効きませんから」


「そ、そうなんだ……」


「はい、だって私のご主人様ですから」

 そう言うと再びいつもの笑顔に戻った。天使の微笑み、女神の微笑。


 本当に僕には効かないんだろうか? 実は既に僕は彼女に洗脳されているんじゃないだろうか、こんなに変な事を言ってるのに、ここまで重症な中二病患者なのに……僕はどんどん彼女の事を好きになっている。昨日よりも、さっきよりも……。


 そして……僕は少しずつ彼女の言っている事を信じ始めている。


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