第13話 渋谷円山町


 美女と野獣、おとぎ話の世界の話だが、ああいうカップルは現実でもよくある。

 可愛い人を見るとどう思う? お茶に誘いたい、食事に誘いたい、付き合いたとか思うよね。自分に自信のある人なら、そういう気持ちになるけど、僕みたいに自分に自信が無い人間なら、どうせ誘ってもとか、あれだけ可愛いと日頃チヤホヤされて性格は最悪なんだろ? って思ったりして直ぐに諦めたりする。


 少し可愛いって人が一番モテるってよく聞く。


 つまり、物凄い美人、物凄く可愛い人って既に付き合ってる人がいるって思われるらしく意外と誘われたりしないらしい。

 つまり誘っても、告白しても断られる。プライドを傷つけられる。そう思ってしまい遠慮してしまう。

 

 だから意外と彼氏がいない美女ってのが存在する。そこで、野獣が、いわゆるモテない人、ふられて当たり前って思ってる人が当たって砕けろと美女に声をかけカップルが成立してしまう時が稀にある。

 

 芸能人でもたまにいるよね、そんなカップルが。


 そして今いるここは現実世界、おとぎ話の中でもなければ、異世界でもない。


 つまりはそういう事なんだろう……え? 何がって? 僕の目の前にいる僕の彼女(しもべ)の事。


 何度も言うけど彼女の美しさ可愛さは半端ない。眼鏡を掛けてもその美しさが損なわれる事はない。女神の様な美しさ、天使の様な可愛さ、それが彼女、遠矢 陽向とうや ひなたその人だ。


 おとぎ話の世界から出てきた様な人、見るだけで心を奪われるそうになる位に……。


 眼鏡を掛けてもと言ったが、素顔と比べればやはりその美しさのレベルは落ちる。

 素顔の彼女からは、近付く事を許さない、そんな尊さを感じさせる。

 

 それが彼女の力なんだろう……そう推察出来る。


 過去の力なんて物は無い、彼女の言っている事はあくまでも空想の産物だ。


 でも……好きな人、愛する人の言葉を真っ向から否定するなんて事は出来ない。

 占いと一緒だ。心の奥底では信用していないが、今この場では、彼女の前では

その言葉を信じてしまう自分もいる。



「どどどど、どうしよう、ぼ、僕ってニートで紐で屑の道しか無いのおおお」

 

「もう主真かずま様! そんな言い方は私が許しません!」


「で、でもおおお」

 そう言うと彼女は両手をテーブルの上に出す。


「え?」


「主真様……お手を」

 陽向ちゃんにそう言われ僕は両手をテーブルの上に出す。彼女は僕の両手を自らの両手でそっと包み込む。すべすべとして、暖かい彼女の手に僕はドキッとしてしまう。


「主真様、あなたは凄いお方なんです、私なんかよりもずっとずっと、だからそんなに卑屈にならないで下さい。そして全ては僕(しもべ)である私にその身をお委ねください……私は主真様の忠実なる僕(しもべ)でございます、今も昔も……」


「ひ、陽向……ちゃん」


「ご主人様」

 彼女と見つめ合う、なにか本当に悠久の時を超えて彼女と出会った様な、そんな喜びを感じ始めてきた。


「で、でも……やっぱり陽向ちゃんを働かせて、僕は家でとか……そんなの嫌だよ……」


「うーーん、私は別に構いませんが、主真様がそうおっしゃるなら……」


「な、なにかあるの!」

 な、なんだよ手はあるのか……早く言ってよ、まだ高校1年で一生ニートで紐確定とか人生終わってるからねえ。僕は少しホッとして彼女の言葉を待った。


「そうですね……例えば主真様が、かつての力を取り戻す……とか?」


「かつての……力?」

 またなにか跳んでもない事を言ってきた。そもそも僕は自分が何者かも知らないんだけど。


「はい、そうすれば逆に能力を押さえられる事も可能です! ですが……弊害が出る可能性も」


「弊害?」


「……はい」

 うわ……なにか言いにくそうな雰囲気、きっと悪い事なんだろう……でも、一生ニートよりも悪い事なんてないよね?


「えっと……それって……どんな?」


「――――国が……いいえ、世界が滅ぶかも……」


「…………は?」


「私はそれでも構いません、むしろそれを願っている節もあります。主真様がお望みなら私はその手助けを!」


「待って、待って待って、駄目、そんなの駄目に決まってるでしょ!」


「そうですか……」

 しょぼんとする陽向ちゃん、こわ! 怖いよ、何考えてるのこの娘!


「そんな過激な方法じゃなくて、なにかないの?」


「そうですねえ、あ! もう一つあります!」


「なに? 滅ばない?」


「恐らく大丈夫かと……」


「恐らく……」

 何かまた聞くのが怖くなってきた。でもここまで来たらもう何も怖くない……国が、世界が滅ぶよりもましだろう。


「それって……何かな?」


「はい! 主真様が18歳になる前に私と契りを結ぶ事です」


「契り?」


「はい! 過去の世界での成人の年、こちらの世界でいうと18歳までに契りを結びます。そうすれば制御出来る事が可能となります!」


「…………契りって……何かな?」

 まさか……エッチな事……でも、それなら……。


「はい! 私が主真様の子供を身ごもれば、その子が主真様の力を制御できます!」


「…………はい?」


「ああ! 主真様! この近くには人間同士で契りを結ぶのに最適な場所があるそうです! 今から早速向かいましょう!」

 いつの間にか調べていたスマホの検索画面を僕に見せつける……。

 

『円山町』

 そう書かれていた画面には、色々なご趣味のお部屋が……。


「主真様! このお部屋少し似ておりますね、私達が初めて契りを結んだ場所に」

 顔を赤らめながらスマホをスクロールしそれを僕に見せつける。


 そこは……拘束器具や鞭があるいわゆる……S〇部屋……


 ちょっと待って僕たちってどんな世界に居たの? いや、そもそも高校生で子供って、しかも相手は生徒会長って。

 

 無理だよおおおおおおおお!






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