第14話 今度の正妻は誰に?
喫茶店を出て再び道玄坂を歩くと渋谷Bunkamuraが見えてくる。
Bunkamuraを横切ると通りは路地裏の様に狭くなる。
そのまま直進すると周囲は商業施設からオフィス街そして住宅街に変わって行く。
「もう……主真様って相変わらず女の子が苦手なんだから」
人の数も激減し、多少大きな声で話しても聞かれる事はないだろうが、さっきの話をするのには少し抵抗がある。
「もう陽向ちゃん止めてよ、出来るわけ無いって言ったでしょ」
「相変わらずですね、でもそんな奥手だから主真様は女の子を連れ去るなんて事をするんです!」
「え! な、なんで知ってるの!」
「当たり前です! 私は僕(しもべ)なんですから」
「ち、違う、あ、あれは間違って、間違って幼稚園から連れて帰っちゃっただけだよお」
「よ、幼稚園!……え?」
そう言った瞬間陽向ちゃんの顔が青ざめる……え? なんで引くの!? あれ?
「つ、ついだよ、あれは出来心で」
凄い、いくらなんでもそんな昔の事迄、僕が小学校3年の時の話だよ。
「で、出来心で……それは……いくらなんでも現代では、いえ流石に過去でも……」
「え?」
あれ? なんか噛み合っていない様な……。
神谷町の交差点で右に曲がり少し歩くと正面にはNHKの建物が見えてくる。
ここまで来ると周りには殆ど人はいなくなった。
「だ、大丈夫です……私は主真様の忠実なる僕(しもべ)例え主真様がお捕まりになっても、決して」
「ま、待って待って、え? 捕まるって?」
「昔ならいざ知らず、現在では……いえ、私達の過去の世界でもそこまでの方は、浮き名を流したあのお方でもそれは…………でもご心配には及びません! 私は主真様がどんなご趣味でも愛せます」
「待って待って、あれ? 知ってるんじゃ?」
どんなご趣味って……どんな趣味なの?
「はい、あの時は申し訳ありませんでした。私……主真様を、ご主人様を裏切る様な事を、でも主真様は私をお許し下さいました。ですから私はご主人様に忠誠を近い……」
「えっと……なんの話?」
「昔の主真様がお妃様をお連れ去りになった件ですが?」
「件って、いや、それはもちろん僕は知らないけど……僕が言ってるのは子供の頃、妹を間違って家に連れて帰った話なんだけど?」
「妹……様? そ、そうですか、良かったご主人様がこちらでもまたかと、しかも今度は少女ではなく幼女にって」
「え、待って、僕って昔そんな事してたの?」
「はい……そのままお妃様にしてしまいました……ああ、今でも悲しいです……でも、私の事もお妃様と同じくらい愛して下さいました……でもあの方はお妃様は半分しかご主人様と暮らさないと言い出して、酷い女……だから今度こそは私がご主人様のお側にずっと……私ならずっと」
うるうるとした目で僕を見つめる陽向ちゃん……可愛い、綺麗……美しい……いや、ちょっと待って、そうじゃない。
「ま、待って、え? 僕って結婚してるのに、君に手を出したの?」
何? 過去の僕ってそんな奴なの? そう言えば浮気とかって……。
「はい、私は残念ながら名目上は僕(しもべ)でございました。地位的にはご主人様、お妃様の下になります」
「……僕らって不倫関係だったって事?」
「ご主人様は私を第二婦人と言って下さいました。そしてお妃様がお帰りになられる迄の間は第一婦人として……」
「いや、待って……えっと……もう何が何やら」
「でもご主人様は、私とお妃様がおりながら、あんな低い地位の者に騙され浮気を…………ああもう、腹が立つ!!」
「痛い、痛い、痛いいいいい!」
陽向ちゃんに思い切り腕をつねられる。だから僕の知らない事でそんな事を言われても……。
「ご主人様! まさかまたあの女に
「…………えっと……あの女って?」
「……またとぼけて、私の目を見て言って下さい! そそのかされていないと」
いや、えっと……陽向ちゃんの目は……怖い。でも、そそのかされてはいな
ただ、一度お茶をしただけだからと僕は彼女の目を見つめるそして誓いを立てる様に言った。
「大丈夫……昔の記憶は僕には無いから……今好きなのは君だから、僕が好きな人は陽向ちゃん……遠矢陽向だから」
「!! か、主真様…………嬉しい……では早速」
え? ちょっとどこへ?
陽向ちゃんは僕の手を握ると踵を返し今歩いて来た道を戻ろうとする。
「ちょっと待って、えっとどこへ?」
「はい、言葉だけでは足りません、ですから早速契りを結び今度こそ私が主真様の、ご主人様の正妻として!」
「やーーーーめーーーーーてーーーーーー」
やめて、何かと契りを結ぼうとしないでええええ。
初めて女の子と付き合うんだから、もう少し段階を楽しませてくれえ、いや下さいいいい。
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