第11話 僕と僕(しもべ)との初デート
彼女の周囲には人が居なかった。
混雑していたのに、周りは人で溢れかえっていたのに……。
何故か彼女の周りは結界でも張られたかの如く1m程を開けて綺麗に円を描く様に人が居なかった。
「ご主、えっと主真様!」
「……あれ? 早くない?」
「はい! 主人を待たせるわけにはいきませんから」
「いや主人って……」
渋谷のハチ公前と言うベタな待ち合わせ場所、今日は僕と陽向ちゃんとの初デート。
と言うか、僕の人生の初デート……。
◈◈◈
週末、陽向ちゃんとデートの約束をした。まあ、彼女は僕の僕(しもべ)なので、命令というかお願いは絶対なんだけど、あっさり承諾して貰ってから思った。あれだけ綺麗な人を渋谷のハチ公前で待たせるとかヤバくない? って……。
早朝だったが予定よりも30分以上早く起きて急ぎ待ち合わせ場所に行く。
だが陽向ちゃんは既に待ち合わせ場所、ハチ公の右斜め前に立っていた。
陽向ちゃんの私服姿を僕は今初めて見ている。やっぱり何を着ても可愛い、特に今日は眼鏡を外しているので更に可愛さに磨きがかかっていた。
着ている服も可愛さを際立てている。白のブラウスにニットのカーディガンを羽織り、まだ寒い春先だが花柄フリルのミニスカートで生足を大胆に晒していた。
本日は土曜日多くの人がハチ公の銅像前でたむろし、探すのも大変な状況、しかし彼女の周りには何故か人が居ない、あまりの美しさの為に皆軒並み遠慮しているのか?
何か不思議な光景の様で思わず見とれていたが、陽向ちゃんはそんな僕の気配を感じたのか確認するかの如くポーチから眼鏡を取り出すと再度僕を見る。
満面の笑顔、僕を見てニッコリと笑うと手を振りながら小走りに近付く。
あーーーーーもう可愛いいぞ!!
するとさっきまで無視していた周りの人達が何故か陽向ちゃんを見て急に振り返りだした。
え? 何この現象?
「おい見ろよ」
「すげえ可愛い」
「え? いつの間に?」
「なに? なんかの撮影?」
「でゅふふふふ」
思ってた通り陽向ちゃんを見て周囲がざわつき始めた…………最後の奴は渋谷じゃなくて秋葉原に行ってろ。 てか僕のホームの秋葉にすれば良かったかなあ? 店とかもある程度わかるし……。
でも、少しカッコつけたかった……生まれて初めてのデートを渋谷ハチ公前で待ち合わせしたかった。
そして僕の
「主真様?」
「……あ、えっと……君でしょ?」
「せめて二人きりの時はそう呼ばせて下さいぃぃ」
泣きそうな顔で僕にそう懇願してくる……泣き顔も超可愛い……しょ、しょうがないなあ……。
「じゃ、じゃあ二人きりの時だけ、デートの時だけだよ」
「やったあ!」
無邪気に飛び上がって喜ぶ陽向ちゃん……ヤバイ、ヤバすぎでしょ、本当に可愛い……。
「「おおおおおおおお」」
陽向ちゃんが飛び上がりミニスカートが翻った瞬間周りから歓声が上がるってなんだこりゃ?
いつの間にか周りに人垣が、中にはスマホを構える人も。さすがに写メなんかされたら困る、僕は陽向ちゃんの手を取ると強引に人垣を突破した。
「主真様?」
手を繋ぎながら1○9を横切り道玄坂方向に歩く、だがいけどもいけども注目される。当たり前だこんな可愛い娘、渋谷といえども中々居ない。僕はシャツにデニム姿どう考えても釣り合わない。
完全にアイドルをテレビのADが守っている様な、現場に連れて行く新人マネージャーの様な構図。
つまりこの後どこかで撮影があるのかと皆ぞろぞろとついてきてしまう。
「失敗したなあ……」
どこに行っても人人人の人だらけ、ついてくる輩を撒こうと路地に入っても結局そこにいる人が着いてきてしまう。
「一瞬でもいいから人気の無い所に行ければ……」
そうすればどこかの喫茶店やお店に入れる。
「主真様、少し申し訳ありません……少しゆっくり……靴が」
そう言われ足元を見ると綺麗なパンプスを履いていた。恐らく今日の為におろしたのだろう、運動靴の僕と一緒の速さで歩くには無理がある。
「ご、ごめん」
僕は歩くスピードを下げた、しかしそうなると後ろからついてくる人達を撒くのは不可能。
万事休す……渋谷デートは失敗だった……僕はそう思うも、これからどうすれば良いのか、中止にした所で状況は変わらない。ごめん陽向ちゃん……こんなデートになっちゃって……。
「主真様、ちょっと待って下さい」
「え?」
陽向ちゃんは僕の手を離し立ち止まると眼鏡を外し後ろからついてくる人達の方を向いた。
するとどうしたのか、へらへら笑いながらついてきてた人達の表情が一変する。何か恐怖におののいている様な、そんな顔に変わった。
そして皆魔法を解かれた様に、ハーメルンの笛が鳴りやんだ様にバラバラと解散していく。さらにはさっきのハチ公と同じ状態に、僕と彼女の周り半径1mの範囲に人が居なくなる。歩いて近付く人も何か見えない壁があるかの様に僕達を避けて行く。
彼女が振り返り僕を見る。その表情は笑顔に満ち溢れていた。
「眼鏡外すとよく見えないんです、腕を組んでも良いですか? 主真様」
「あ、うん」
僕がそう言うと彼女は僕に密着する様に腕を絡める。腕に彼女の柔らかさが、感触が伝わってくる。
でも僕は今それを堪能出来なかった。彼女は一体何者なんだ? あの不思議な力はなんなんだ?
そして、あの時、ついてくる皆を見た時一体どんな表情をしていたんだ?
彼女に見られた時の皆の顔が……恐怖におののいている顔が脳裏にこびりつく……。
彼女は一体……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます