第8話 妹降臨


「お兄ちゃん……なに、にやけてるの? なんかキモいよ」


「キモいって言うな」


「気持ちが悪いよ」


「うわーー略さないで言われると死にたくなる」


「ハイハイ、死んじゃ駄目だよ。それで……なんでにやけてるのって聞いてるんだけど?」


「にやけてた?」


「うん、かなり」


「そ、そうかあ……」

 僕と陽向ちゃんの主従関係お付き合いが始まった。人生初の彼女、嫁じゃなくて彼女……彼女彼女彼女……何度言っても彼女になっちゃうけど……でも陽向ちゃんの事を思い出すだけで僕は、ほくそ笑んでしまう。



「――お兄ちゃん? 私が明日から居なくなるのがそんなに楽しいんだ、へ~~~」

 妹はそう言いながら味噌汁を一口飲んだ。

 前に言ったが僕には妹がいる。今年中学になったばかり、名前は鈴姫すずひ。栗色の髪の毛、綺麗なウェーブがかかっているがパーマではなく地毛。

 妹はこの綺麗な栗色の髪を凄く気に入っているらしい。

 ただ地元の中学校ではいまだに髪の毛の色、ウエーブの髪を煩く言う所が多く、多分妹はこの髪の毛のせいで地元の中学に通うのを止めたんではないかと僕は思っている。


 思っているって言うのは、そうはっきりと聞いたわけではないからだ……やっぱり妹は僕の事をあまりよく思っていない。

 

 ただ二人きりの兄妹、両親の帰りが遅い時はいつも妹と二人で食事をする。でも、実は二人きりで食べる事は殆ど無くなる。今日は妹との最後の晩餐。

 明日から妹は叔母さんの家に居候して中学校に通う事になっていた。

 妹曰くいわ「私が通うにはこの町の学校は狭すぎる」

 なんかかっこよく言ってるつもりなんだろうけど、意味があまりわからない……まあ、やっぱり髪の毛の事が一番の原因って事にしておこう。


 とにかく行きたい学校があってそれがたまたま叔母さんの家の近くだったという事で明日からそっちで暮らす事になっている。あ、ちなみに今日までは短縮授業だったのでまだ今は家から通っている。


「そ、そんな事ないよ……こうして一緒にご飯を食べられなくなるのは寂しい……」


「うわ~~~改めてそう言われると、マジできもーーーーい」


「だからキモイって言うな!」


「あははははは、また昔みたいに寂しいからって、私を家に連れ帰ったりしないでねえ~~」


「それは小学生の時の話だろ!」


「あははは、そうだねえ……」

 

「そうだよ……」

 そう言い二人で昔を懐かしがりながら夕飯を黙って食べる。最後の晩餐と言っても叔母さんの家から家までは数時間程度。

 毎日通うには少し長いってだけで、週末は家に帰ってくる、夏休みもほぼこっちにいるとかで、年間半分近くはこっちで普通に暮らすのでそこまで寂しい事にはならないとは思う…………あ、言っておくが僕は別にシスコンでは無いからね! ただ一度、さっき妹が言った様に僕は昔とある事件を起こした事がある。

 

 僕は7年前、小学生の頃、妹を幼稚園から勝手に連れ帰ってしまった。

 

 当時は僕が小3、妹はまだ幼稚園に通っていた。



◈◈◈




 その日は小学校の開校記念日だった。

 当時も友達の居なかった僕はその日一人家で留守番をしていた。


 でも、前の日にクラスの皆は某有名テーマパークに皆で行こうと盛り上がっていた。僕はクラスの誰とも仲良く無かったので結局誰にも誘われる事なく開校記念日を迎えた。


 いつもは一人でも全然平気なのに、その日皆はそのテーマパークで遊んでいると思ったらとてつもなく悲しくそして寂しくなった。


 一人は嫌だ、でも、友達は居ない……そう思った僕はおもむろに家を出て妹のいる幼稚園に向かった。

 

 寂しいから顔を見るだけでいい、そう思ったんだろうか? 自分でもその辺の事はよく覚えていない。


 幼稚園に付くと園児達は丁度皆外で遊んでいた。勿論妹も……僕は門の所で妹を見ていた。すると妹も僕がいる事に気が付いた


「おにいたん、お迎え来たの?」

 妹がそう言う……妹に会いに来たのが恥ずかしかったのか、違うとは言えずに首を縦に振った。


 すると今でも身体は小さいが、当時の妹は幼稚園の中でも最も小さく、門の隙間から出てきてしまった。


「おにいたん帰ろ」

 妹はそう言って僕の手を握る。そう言われて僕は嬉しかったのを記憶している。

 そして二人仲良く家に帰った……誰にも言わずに……


 焦ったのは幼稚園の先生達、何処にも居ない門が開いた形跡もない、何者かが侵入した形跡もない、幼稚園中汲まなく探したが見つからない。

 すぐに警察と母に連絡し、大騒ぎとなった。


 ちなみに僕は妹と家でお昼寝してたんだけど……


 会社から幼稚園に直行し事情を聞いた母親、警察にも言って事情聴取、その後僕がその日休みだった事を思いだし、まさかと思い慌てて家に帰ってきた。


 そこで呑気に妹と二人で寝ている僕を見て崩れ落ちたと言っていた。


 もう怒られた怒られた、滅多に怒られた事の無い僕だけど、いまだに忘れられない位、それはそれはもう大激怒だった。


 僕と妹は一緒に泣いた、妹はなんの責任も無かったのに一緒に謝って一緒に泣いた。


 僕はそれ以来、すっかり妹に対して弱くなってしまった。

 それはまるで、夫婦の様に、奥さんに対して、うだつが上がらない尻に敷かれた旦那の様に…………。




 

◈◈◈


「週末は帰ってくるんだから、寂しいけど我慢してね、おにいたん」

 わざとらしく首を傾げてニッコリと笑う妹……。


「……うるせえ、おにいたんとか言うな」


「あはははは、照れてるう、きもーーーい」


「うるせえって言ってるだろ」


「まあ、お兄ちゃんも高校生になったんだから、そろそろオタクとか卒業して彼女でも作って、私が居ない間は彼女に可愛がって貰いなよ」


「だから、そもそも寂しくなんか無いし、僕はシスコンでも無い、余計なお世話だよ!」

 彼女と言うか、僕(しもべ)が出来たなんてとても言えない……


「ハイハイ、私も向こうで格好いい彼氏見つけようかなあ」


「好きにしろ……」


「あーーーーーーー、お兄ちゃん妬いてるの? キモーーーイ」


「だーーーーかーーーーらーーーーー」


「あはははははははは」


 妹とは今日から毎日会えなくなる。僕はシスコンではない、でも……ずっと一緒だったから……やっぱり少し……寂しくなる。

 

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