第7話 元浮気相手は元同級生


「ご主人様ごめんなさい」


「いや、良いけど大丈夫?」


「はい……」


 僕たちは学校から少し歩いた先にある公園に来ていた。春先の暖かさで桜は散ってしまったが、夕方となるとまだ若干肌寒い。

 僕はとりあえず保健室に会長を連れて行こうと思ったが、会長からとりあえず学校の外に出たいと言われ近くの公園のベンチに二人で座っていた。


「一体何があったの?」

 会長顔色が少しづつ戻って来たのを確認して僕はさっきの事を聞いた、

 入学式の時もそうだけど、突然喋られなくなるとか、何か大きな病気でもあるんじゃないかと心配になる。


「まさかとは思いましたが……ご主人様以外にもう一人悠久の時を経てここに現れた者が……」


「はい? えっとそれは僕以外でまた数千年振りにあったって言うの?」


「はい……やはり彼女もご主人様を追ってこの世界に生まれ変わって来たのでしょう……」


「へーー……」

 これは……完全に中二病の悪化なのだろうか、2000年以上巡り逢えない者が何故今この学校に集中するんだ? これはいよいよ彼女の中二病治療の為にもしっかりとその作り話を把握した方が良いのかも知れない。


 僕は勇気を出して聞いてみた。


「あの、その話、いや、えっと2000年以上前の僕と会長との出会いって、僕達と平入さんとの関係って、どんなのだったの?」

 僕はなるべく彼女を傷付け無い様に、彼女の話を否定しない様にそう尋ねたすると彼女は僕をキッと睨み付ける。えええええ怖っ! 

 初めて見る彼女の怒った顔、決して可愛くなんか無い、目から炎でも出る勢いのその顔に僕は怯えた。


「――――ご主人様……何故……今それを?」


「え?」


「まさか……記憶を……」


「?」


「――嫌です!!」


「えええええええ?」


「もう絶対に話したくありません!」


「えーーー、ど、どうして」


「それよりあの女です! ご主人様! どういうご関係ですか!?」


「ど、どういうって、中学の時の同級生で」


「中学……私よりも先に出逢ってたと……」


「先って、そりゃ会長とは高校からですから」


「ま、まさか……また……」


「また? っていうか聞いてます? 会長?」


 会長は黙ったまま下を向くとそのまま又固まった。そして暫くすると身体がプルプルと震え出す。


「ご、ご主人様のおおおおお浮気者おおおおおお!」


「な、何で?! うぎゃあああああああ!!」


 隣で座りながらポカポカと僕を叩く、座っているので威力は半減しているんだけど、それでもかなりの衝撃が僕を襲う。いや、本当に痛い、なんかピンポイントで急所を突かれているかの如く、や、ヤバい……。


「ま、待って待って、浮気なんてしてない」

 僕にそんな甲斐性なんて無い……あるはずが無い、そもそも女の人と付き合った事さえ無いんだから。


「こっちでもおおお、こっちでもおおお!!」


「こっちって、痛い痛いいい」

 彼女の中で僕は何をしたの? 浮気? なんの事? 当たり前だけど身に覚えが全く無い。


「無いから、そんなの無いから、僕が好きなのは会長だから! 遠矢 陽向だからあああああ!」


「!!」

 あ、つい言っちゃった、これって……告白……生まれて初めての、告白……。


「いや、えっと……」


「ご……」


「ご?」


「ご主人様ああああああああああああああ!!」


「うわああああああああ」

 会長が僕の首に飛び付く、そして手を回し抱き付く、さっきと違い今度は僕も彼女を強く抱き締めた。

 

 会長の柔らかい感触を再び感じる。そして会長の……愛も感じる。

 まるで悠久の時を経てお互いが繋がった様な思いを感じる。

 

 初めての告白……これって、告白になるのかな? でも……中二病でも、ヤンデレでも、メンヘラでも僕は彼女が、会長が好きだ。だから……これは紛れも無い僕の初めての告白……。

 

 あはははは、僕も十分中二病だ。


「……嬉しい……嬉しい…………でも……ご主人様、一つだけお願いしても宜しいですか?」

 ベンチに座りながら僕に抱き付いたまま、耳元で会長はそう言ってくる。


「……何? 好きな人の頼みなら、なんでも聞くよ……一緒に異世界にだって過去にだって会長となら……行くよ」


 僕がそう言うと会長は僕からゆっくりと離れ、ベンチから立ち上がり僕の前に立った。

 

 会長の感触がなくなると自分の身体の一部が無くなった様な喪失感が僕を襲う。

 

「あの……ご主人様……私の事……会長って肩書きで呼ぶの……止めて欲しい」

 会長は嬉しそうな少し悲しそうなそんな表情をしていた。


「……あ、うん、そうだね……でも……僕の事もご主人様って呼ぶの止めて欲しい、皆の前でだけじゃなく、いつも……」


「そ、そんな失礼な事出来ません!……ご主人様はご主人様ですから!」

 少し食い気味にそう言って来る会長、僕は少し呆れるも、多分優位に立っているのは僕の方だと会長に少し意地悪な顔をしながら言った。


「じゃあ、会長って呼ぶよ……だって大昔の事なんて知らない、今、会長は僕の先輩であり、生徒会長様なんだから」


「……ご、ご主人様の……意地悪……えっと…………か、主真様」


「様もいらない」


「無理ですううう!」


「がんばれ会長!」


「会長は止めてくださいいいいい……えっと、えっと……じゃ、じゃあ……主真……くん」


「君もいらないけど……まあいっか」


「ご主人様、昔から変わらずに意地悪なんだから……」


「あ、また言った会長」


「うううう、まだ言いなれないんです……主馬君」


「じゃあ僕も、えっと……陽向さん」


「さんはいらないですよ?」


「え~~~でも先輩だし」


「主真君! あまり女子に年齢の事を言ってはいけません!」


「年齢って一つ違いじゃないか」


「それでも駄目です!」


「……じゃ、じゃあ……陽向……ちゃん」


「呼び捨てにして!」


「だって、陽向ちゃんだって呼び捨てじゃないじゃないか!」


「だって、ご主人様を呼び捨てになんて」


「あーーまた言った、会長また言った!」


「だってえええええ」


 お互い顔を見合わせて大笑いする。その会長の、いや陽向ちゃんの笑顔がとても綺麗で可愛くて……


 初めて見た時は神々しい笑顔だったのに、今はなにか身近に感じて、僕はそれが凄く嬉しく思った。


「あと……主真君が私の……真の名前を思いだしたら、いつか……その名前で呼んでください!」


「真の名前?」


「はい! 私の真名です!」


「……」


 僕の僕(しもべ)は容姿も性格も何もかも全て完璧、完璧超人、無敵の女子……

 でも唯一の欠点は……中二病……


 でも今はそれが愛らしくて、凄く身近に感じて……。


 僕の女神……無敵の女神……ひょっとして彼女の僕(しもべ)は僕の方なのかも知れない。






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