第13話 そのときは突然に

3月

それは学生にとって終わりの月


いや、ここから始まりと言うこともできるかもしれない。


終わりと共に失うものがあり、

始まりと共に生まれるものがある。


新太も例に漏れずその時を迎えていた。


「さようなら、元気でね。」



「レン姉っ!」

3月とはいえ、まだまだ寒さが残る晴天の空の下、一人の少年が一人の女性を探して走り回っていた。

「どうして、どうして」

少年を見たとき、人は何と思うだろうか?

「レン姉ー!」



大切なものは失ってから気付くものだと、誰が最初に言ったのだろうか、今ようやくその言葉が理解できた気がする。

幼馴染の西園寺エレナがいなくなって、もう3日経つ。いなくなったといっても、死んだとかじゃない。ただ会えないくらい遠くに行ってしまっただけ、何の相談も、さようならの一言もなく。

あの日、俺はどんな顔をして、おばさんの話を聞いていたのだろう。

レン姉が地方の国立大学に進学したこと。

地方で一人暮らしを始めること。

そこが、中学生の俺にとっては、果てしなく遠い地であること。


その話を、俺はレン姉本人から聞いたことがなかった。おばさんも話してなかったことに驚いていた。

最後に会えるかと、新幹線の駅まで頑張って走ったけれど、間に合わなかった。


最後に何を話したっけ



初めて、俺の生活がどれだけレン姉を必要としていたかを痛感した。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る